漆喰のひとかけらを

本にアートに東京北景などなど

【映画】インファナル・アフェア/無間道

字数約3200字,読了目安4分です(追記箇所を除く)。

 

僕の1番好きな映画(3部作)の1作目。

 

 

 

 

冒頭をちょっとだけ

舞台は1991年の香港,萬佛寺。香港マフィアのボス,サムが,警察に送り込む手下の青年数名を集め,仏前で盃儀式らしきことをしているところから始まる。その中には,鋭い目つきを持つ,若き日のラウがいた。ラウは警察学校に入学し,訓練が開始される。
同じ頃,警察学校長とウォン警視は,1人の生徒,ヤンの口頭試問を行っていた。出題者を瞬時絶句させるほどの観察力・記憶力を発揮するヤン。2人はヤンをマフィアに潜入させることに決め,ヤンは,表向きは規則違反による退学処分という体で,警察学校を去ってゆく。
それから10年。ラウが順調に実績を重ねて昇進する一方,ヤンは黒社会に沈潜し,綱渡りの精神状態の中,ウォン警視に情報提供を続けてきた。ある時,ウォンはヤンから,大きな麻薬取引が行われるとの情報を受け,サム一味を一網打尽にすべく作戦を立てる。決行当日,ブリーフィングに参加した大勢の捜査員の中には,情報課課長となっていたラウの姿があった。
作戦開始後,本部で指示を出すウォンを観察するラウは,ウォンが,左耳に奇妙なイヤホンを装着していることに気づく。一方,ウォンは,警察無線で出した指示が,サムに筒抜けになっている疑いを抱き始める。
ヤンからのリアルタイム情報提供と偽装により検挙は成功するかに思われたが,間一髪,ラウからの連絡を受信したサムが取引中止を決断したため,作戦は失敗した。
その連絡には,「有内鬼」の文字があった。
そしてウォンもまた,作戦失敗により,内通者の存在を確信。2人は,それぞれの部下の前で対決し,獅子身中の虫を暴くことを互いに宣言する。

もう冒頭から全開で面白い。
ヒリヒリ感がヤバい。

 

 


雑感(全体)

もちろん僕は全部が好きなんですが,まず,脚本あるいはストーリーの面白さは間違いないと思う。細分化すると,設定の面白さ+隙のなさ。
合わせ鏡のような真逆の立場の「潜入」2人の対決,という設定・図式からしてまず凄い。また,単純にラウを姑息な悪役として配してるわけでもない。感情移入するとすればヤンよりむしろラウ,という向きも十分あり得るところで,作品全体のアジア的・仏教的世界観に通じるところでもある。
加えて,上記設定ゆえ,誰が「潜入」か暴こうとする組織・守ろうとする「本籍組織」・本人の意思が錯綜して物語が進んでいく。ただでさえ緊張感が半端ない上に,脚本がとことん無駄を排除しており,一部の隙もない。
102分が,本当にあっという間に過ぎる映画。

 

ここからは特に個人的好みの話なのですが,改めて見返してみて,まず,いわばちょうどいい塩梅に抑制が効いてるなぁと思う。
早い話が警察とマフィアの抗争の話なわけだが,その割にえげつない場面は少ない。ほぼ唯一の派手なドンパチ場面のはずの某ビル前での撃ち合いすら,最低限のショットに絞っている印象がある。
抑制という点で言えば,ストーリーの話からは外れるが,カラーリングもそう。全体的にグレイッシュなトーンで仕上げられてる。眼に五月蠅くなくて,気を散らさずに見続けられる。

 

ただ,じゃあ描写として残酷さが薄いかというとそんなことはなく,むしろ際立っているようにも感じる。
屋上から落とされた●●●のタクシーの上での姿とか,最後の場面,24Fエレベーターホールで●●が●●れてドアがガコッガコッってつっかえるところとか,相当残酷な描かれ方と言えると思う。伊藤計劃さん的な表現になるが,生命なき死体の物質性がこれでもかと強調されてる。
しかもそれが突然やって来る。前者の場合はヤンが,後者の場合は●●が,これ他に誰もその場に来なきゃ/いなきゃ相当長い間自失が続くんじゃないかってくらい完全に自失していて,何が起こったか分かってない。
つまりは落差が凄いんだけど,ダブルの潜入周りで双方魔女狩りが進行してるっていう世界自体がそもそも・端から地獄なはずなので,唐突に現出した残酷さは本来そうあるべき残酷さ,だという感じがする。なので,残酷だし,唐突だけれども,とてもナチュラル。
この,「どうしようもないあけすけさ」みたいなのが,僕の場合,とてもピタッとハマる。無駄な暴力シーンがあるわけでなく,ただ結果として生じた事態が最高に直截的に描かれてるところが。

 

他方,ヤンの弟分のキョンが死ぬ場面は,その過程も比較的ゆっくり・多少抒情的に描かれるのだけれども,そういう死に方をしたキョンの死を,今度はヤンとラウが協力して利用するという,これもまた「どうしようもな」さ。

 

で,この一切皆苦的なアジア的・仏教的世界観が,映像とか音楽とかととてもよくマッチして,統一感がある。*1
その極致が,あの,落とし所というか落としてるか?落としてるのかこれは?みたいな,どうしようもないラスト。
褒めてます。あれは凄い。*2
そういう「無間道」か…まじか……という感じ。

 

こういう,何ともヌメッとした統一感みたいなもんが,個人的に,とてもしっくり来る映画です。
今回,この日記書くに当たって改めて見直したんですが,色褪せないですね。
何だかんだ,三部作通しで20回近く見てるんじゃないか(アホか)。
最初に見たのは大学生時代だったはずだけど,具体的にいつ頃観て,どんな感想を持ったのか,今やほとんど覚えていない。

 

 

 

シーン10景,順不同*3

①ヤンがラウに銃を突きつける屋上のシーン

これは実は,ストーリー的に重要かというと,そうでもない(笑) いかにも対決的で見栄えするからDVDのジャケットを飾るなどしてるんだろうが,「どういう流れでこの場面に行き着くんだろう!」と思ってワクワクしてると,そこはスカされるかもしれない。
ただ,それに限らず屋上のシーンは多い。景色が綺麗でもあるが,どちらかというと風向き・雲行きの不安定さを暗示する雰囲気が醸されている印象がある。
ヤンとウォンは基本,屋上で会う。その他,ラウが上司と屋上でゴルフする場面などもあり,これは未だに意味が分からない。何すか屋上でゴルフって。

②ウォンの墜落シーン,③最後のエレベーターのシーン

印象の強さで言うなら僕的にはこれらが一番。この2つのシーンは,観てるこっちも時が止まる。
上記雑感でも触れた,その後の呆然としたヤンや●●の表情含めて。

④警察学校を去るヤンと,それを横目で見るラウ

冒頭のほうのやつですが,シーンというより,ラウの全世界まとめて俺の敵だみたいな眼つきが印象に残る。
そしてここは,三部作通じて,象徴的なシーンとして繰り返し出てくる。
なお,若ヤン・若ラウと10年後のヤンラウ,似てなさすぎるところはアレといえばアレ。

⑤「ブツを捨てろ!」からの,サムが一同をねめ回すシーン,ビルにウォンが登場して両陣が対峙するシーン

観た方お分かりと思いますが,ここのシーンの緊迫感,前半のクライマックスと言ってよく,本当に凄い。
しかし無粋は承知で突っ込むが,ヤン,お前それ,バレたら素人目にも言い訳きかんやんけ…

⑥映画館の尾行シーン

胃にピリッと来るやつである。

⑦例のビルにマフィアが大勢やってきて,ビーが「うおっ!?」みたいになるシーン

マフィア襲来自体もゾクッとする事態なのだが,ビーのこの反応もまた,いろんな意味で何とも言えない。

⑧駐車場で架けた先のはずの携帯電話の音がするシーン

本作にカタルシスがあるとすればこの場面。●●の表情が素晴らしい。

⑨誤字発見シーン

彼の目的,今までの出来事が一気に繋がったんだろうなぁ…というシーン。うわぁ…ここでか…,という感じで,こちらも総毛立つ。
あのガラス越しのカメラワークで2人とも同時に映ってるやつ,めちゃくちゃ上手いと思う。

⑩●●●の自失的独白シーン

音楽が「ブツッ」って途切れるところで,次が分かるからこそ,未だ僕も『ギクッ』ってなる。
例の小説のネタ,メタファーになってるだけかと思ったら,ここで不協和音的に回収される。

*1:これが僕の好きな点であるため,そこが削ぎ落されてしまっているハリウッドリメイク版は,正直ピンと来なかった。もちろんこれは個人の好みの問題で,僕の先輩は,むしろディパーテッドの方がスタイリッシュで好きだと言っていた。

*2:ただ,この点については,三部作全部が明らかになった今,第三部のオチの心証を消して第一部単体で自分が評価できているのか,我ながら疑問はある。

*3:当ブログの性質上,ネタバレに直結するシーンは除く。