漆喰のひとかけらを

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【映画】PSYCO-PASS PROVIDENCE

(約7,000字)

 

見てきた。

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注:以下の内容は思いっきりネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

ワシらの朱ちゃんを何泣かせてくれとんのじゃ(激怒)*1
…と思わずにはいられない終わり方でしたが*2、まぁ三部で朱が施設に入ってた時点で、これは既定路線であったはずではある。そりゃ泣くだろう。別に朱は免罪体質じゃなく、色相が濁りにくいってだけなんだから。

 

そして、いつからアニメ*3って、こんなに難解になったんですかね。

2回見た。でもまだ全部は分からない。


というか今作=劇場版第三作の場合、内容的なつながりが強い三期・劇場版第二作の公開から時間がだいぶ経ってしまっていて、僕の方がそもそもの前提知識を忘れてしまっていた、という事情もある。だから、映画1回見てから2回目見るまでの間に、三期と劇場版第二作も見直してみた。

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まあ、大まかな流れは掴めたかな。

 

 

 

 

 

だいたいわかったこと。

三期で新たに主人公になった二人(慎導灼と炯・ミハイル・イグナトフ)が監視官になった動機は家族(灼は父・篤志、炯は兄・煇)の死の真相究明にあったわけだけど、それは結局、三期の中でも劇場版第二作でも明らかにされてこなかった。
それが、本作で『一応は』明かされた。

 

すなわち、篤志は、シビュラシステムとの取引の結果として自殺した。シビュラは、篤志が惹起した事態の収束のためには篤志を自殺させて罪をかぶせることが合理的だと判断したんだと思う。*4その代わり、「息子や友人たちの安全は保障」し、「餞別だ」と言って銃を渡した。*5で、篤志はその『取引』を受け入れて自殺した。
他方、煇は、ピースブレイカーの洗脳に決死の抵抗をして自我を維持し、篤志に自分を撃たせた。俺を撃て、炯のことは頼みます、あいつには俺とは違う道を、と言って。三部では、篤志が煇を殺した、という事実の真偽が問題になっていたが、表面的には事実・ただしそれは煇自身が望んだことだった、というオチを付けた形である。

 


しかし、これだけの説明で灼と炯が納得できるかと言うと、それは無理なはずである。だって、これで分かったことって要するに、⑴ 篤志と煇が対立して死んだわけじゃないこと、⑵ 二人がそれぞれ(究極的には)灼・炯のために死んだこと、の2点に尽きるんだもの。なんで篤志が今作冒頭の事態を仕組んだのか*6、なぜ煇が自分の顔を焼いてまでピースブレイカーへの潜入に志願したのか、そこが分からないと「なぜ二人は死ななくてはいけなかったのか」の答えにはなってない。
シリーズの一連の流れで言うと、今作は、劇場版第二作のラストで朱が灼・炯に「自分が知っていることを教える」と言った直接の続きであり、その「自分が知っていること」の内容が(ほぼ)そのまま今作の内容だ、という体裁になっている。*7もっとも、朱もすべてを知っているわけではないから、朱は(今作で)灼には自力で真実を探しなさいと言ったし、三期中のモノローグでは「二人に真実を探すことを託すことにした」旨述べていた(よね?確か。)。
で、後者の「真実」の中身には、必ず暴くと砺波に約束した「ピースブレイカー隊が作られた闇」も含まれているんだろうと思われるし、煇が潜入した経緯は、それと不可分に結びついているんでしょう、多分。また、篤志がインスペクターでもあり、さらにはシビュラの実体も知っていたことからすれば、篤志の死の(広義での)『真相』には、シビュラやビフロスト成立の過程も含まれるんでしょう。
他方、三期以来謎な存在である法斑静火の内面については、今作では一切触れられていない。ワンカット、親父さんと映っただけ。

 

 

…なので。

四期は、三期の後の話を描きつつ、事件の捜査の過程で上記の諸点が明かされる、みたいな構成になるのだろうか。*8
遂にこう、物語の根幹であるシビュラの成り立ちと絡めつつ、物語が大きく収束に向けて動いていく予感がしますな。
今からわくわくが止まらないぜ。

 

 

 

 


…と、こんな感じで、シリーズの中の本作の位置付け、一連の流れみたいなものは、大まかにはまぁ、把握できたかな、と思う。
他方、分からんのは、ピースブレイカーを率いる砺波のビジョンみたいなものである。

 

 

よくわからないこと。

ビジョンというと語弊があるかな。終局的な目的あるいは理念みたいなものは物語終盤で繰り返し触れられていて、

「人を支配するのはAIであるべきだ、人は人を支配してはいけないのだ」

というもの。*9
それは良いとして、分からないのは、もうちょっとブレイクダウンしたレベルの行動目的というか、行動原理というか、実像とでも言えばいいのか…

 

うーん、説明しづらい。

 

 

 

ひとまず、
「なぜ砺波はストロンスカヤ文書を欲したのか」
という問題に焦点を絞ってみる。

 

 

物語が中盤に差し掛かったあたりの煇への取調べの中で、ストロンスカヤ文書の内容(民族対立や大衆の暴走を予測し数値化したシュミレーション理論*10)が明かされ、それを使えば、シビュラが世界に与える影響を予測でき、紛争の予防も拡大も可能だ、ということが述べられる。このとき、砺波の目的は紛争の拡大であろうと予測がされ*11、僕ら観衆としては、以後そういう頭で映画を見る。
しかしさにあらず、砺波の理念は、実際は社会に平等をもたらすことだったことが後に砺波自身の口から語られる。そのために人はAIに帰依すべきなのだと。しかし自身らの神たるAI、ジェネラルは不完全である、ミリシアの脳で代用しても補完は叶わなかった、と言い、だからストロンスカヤ文書を渡せと朱に迫る。
僕としては、なるほど、砺波の目的は人類のハーモニクスか、この世の悲惨をなくそうという話か、紛争の拡大とはむしろ真逆の方向性だったのかと、一旦、納得した。

 

しかしその後、また分からなくなった。それは、

①朱が、あなたの神様にストロンスカヤ文書を入れる、ただし正しいやり方で、と言って、ドミネーターをジェネラルに向けて放り投げ、
②それを止めようとした砺波の手をすり抜け、ドミネーターがジェネラルに接触すると、
③ジェネラルが反応し、「約束の地でシビュラシステムと一つになる」「不要な端末を消去する」と言い残して*12、シャットダウンしてしまう、
④それを見た砺波が「それがあなたの選択か」「しかしシビュラとの統合は遅かれ早かれ辿る道だ」*13みたいなことを言う

という場面があったから。


え?どういうこと?
朱の言う「正しいやり方」って何?普通に砺波に渡すんじゃダメなの?
そして砺波は結局何がしたかったの?シビュラとの統合を強く拒否するわけではなく、でもそれが現時点でなされるのは想定していなかった、ということ?
それってどういうビジョンなわけ?
ストロンスカヤ文書を入れることで、ジェネラルがどうなると想定していたの?
…等、一気に混乱した。

 

 

 

 

 

 

で、見終わってからいろいろ考えたのだけれども、僕個人としては、結局、砺波はその点(ストロンスカヤ文書を入れることで、ジェネラルがどうなるか)について明確な想定は持っていなかった、と考えざるを得ないと思う。だって、そこを具体的に掘り下げるヒントになるような描写、いくら思い出したって、なかったもの。
たぶん、単に、あるいは漠然と、ジェネラルが進化する、くらいの認識でいたんだと思う。
他方、朱の言う「正しいやり方で」文書を入れる、というのは、文字どおりドミネーターを媒介する、という部分がポイントなんだろうと思う。媒介すると言うか、起動されたドミネーター=シビュラと繋がった端末とワンセットで、文書を渡すことが。

 

整理してみる。
.まず実践的な側面から言うと、ストロンスカヤ文書はすなわち、シビュラが世界に与える影響を予測することを可能にする理論である、という設定である。ここで、シビュラの効用・必要性を肯定する朱からすれば、その「影響」とは一言で言えば、世界により良い状況をもたらす、という結論であるはずである。となると、朱にとって文書とは、直観ではなく理論により、相手がAIであっても説得可能な形で、シビュラの有用性を基礎付け裏付ける代物、という位置づけになる。よって、(AIであると想定されるところの)ジェネラルに文書を渡せば、ジェネラルもまた、シビュラの必要性を理解するはずだ。*14つまり、

  ジェネラル+ストロンスカヤ文書=シビュラの必要性を理解したジェネラル

ということになる。

  では、そのような文書とともに、シビュラにアクセスする媒体、すなわち(起動された)ドミネーターをもジェネラルに渡した場合、ジェネラルは、どういう行動に出るか?すなわち…

  ジェネラル+ストロンスカヤ文書+起動したドミネーター

 =シビュラの必要性を理解したジェネラル+シビュラへのアクセス媒体

 =?


  …以上のような思考の筋道で、朱は、「起動されたドミネーターに文書を入れて渡せば、ジェネラルは、シビュラとの合一を選択するはずだ」、という予測を立て得たのだと思う。
.ではそれが「正しいやり方」だ、というのはなぜか。

  ここで、シビュラは、単に文書の交付を朱に命じただけであることからして、今回、いわば一気にジェネラルと合一しようとまでは考えていなかったことになる。だから実際、ピースブレイカーの独立を認めるつもりだった。しかし、朱はそれを是としなかった。シビュラと違い、(日本)社会が安定しさえすれば良い、手段は不問であるとは考えず、砺波はじめピースブレイカーたちには然るべき裁きが下されるべきだと思料した。よって、砺波(たち)は逮捕される必要があるし、そのためには結局、組織としてのピースブレイカーは解体する必要がある。
  だから、紛争を命じることも厭わない存在としてジェネラルが存続することもまた、許すわけにはいかない。ジェネラルは、シビュラと合一されるべきである。したがって、ただ文書を渡すだけではダメであり、ジェネラルがシビュラとの合一を選択するであろう形、すなわち、ドミネーターとセットでなければ「正しい形」とは言えない。

  …こういうことなのかなぁ、と思う。たぶん。
.他方、砺波の思考はどうか。
  砺波は確かに、AIへの帰依による人類のハーモニクスを望んでいる。そのために必要というならば、ジェネラルとシビュラが合一すること自体については、拒絶するつもりは特にない。ただ、シビュラを肯定することと、日本社会への評価は別である。シビュラを奉じているはずの日本社会は、未だ、人が人を裁くための法を捨て去ってはいない。だから間違える。現に自分たちピースブレイカーは、歪んだ人為によって略奪経済の道具にされ、世界に惨苦をまき散らし、そして使い捨てられた。ゆえにこそ自分たちは帰国命令を拒絶した。よって当面、砺波としては、シビュラの友好国として独立するという途を採るしかない。
  しかも実際上、ピースブレイカーの本拠地たる北方列島は、電波状況が悪く、ドミネーターの継続使用もできない。そのような場所だから、シビュラがジェネラルと接触すること自体、そもそも想定の外にある。それは、敵勢力が攻め入ってきたとしても同じである。ピースブレイカーの殲滅を望むなら、ドミネーターに固執する必要はない。単に重火器を使えばよいのだから、わざわざ苦労してオンライン状況を作ることに戦略的意味はない。
  しかし、朱はそうは考えなかった。わざわざラファエルをハッキングしてまでドミネーターを使ってきた。そしてそこに文書を入れた。しかも、ジェネラルとシビュラの合一を意図して。
  …たぶん、朱がドミネーターを放り投げた瞬間、砺波が以上の全部を理解したわけではないと思う。オンライン状況自体が想定外だし、それに起因するディバイダ―の変調で頭が割れそうな状況下でもある。*15仮にハッキングによって電波が逆利用されていると気づいたとしても、それが(頭痛以上に)何を意味するかなんて分かりようがない。朱が本当は文書を持ってきていたことだって、ほんの数瞬前に知ったのだから。
  しかし、朱が狙ってドミネーターを放った以上、それは止めるべき行為であると、いわば条件反射的に判断したはずではある。だから手を伸ばして防ごうとした。でも間に合わなかった。
  そして、結果として、ジェネラルはシビュラと合一し、消滅した。
  それは、砺波としては、先々であれば受け入れる余地がある事態であったが、現時点で起こることは、決して想定していなかった。現在の日本政府を肯定できないのと同じように。
  だから、落胆した。「ジェネラル、それがあなたの選択か」、と。

 

 

 

 

 

…ということかなぁ、とは思う。現状、僕としては、これ以外に整合的説明が付けられる解釈は思いつきそうにない。
そうは思うんですがね。

 

そうだとすると、話は戻って、結局、砺波は、
「ジェネラルにストロンスカヤ文書を入れることで、具体的にどうなるとは想定していなかった」
「漠然と、ジェネラルがより完璧な神に近づく、と理解していた」
ということになるわけで、それが何とも釈然としない。
だって、映画冒頭の戦闘シーンも出島襲撃の戦闘シーンも、激しいよ?ピースブレイカー側も死者が出てるどころの話ではないしね。砺波自らが同胞を操って自爆させたりしてるし。
ジェネラルは現状でも十分、信仰対象として求心力を備えているのに、言ってしまえば具体的効用も不明なアップデートっていう漠然とした目的のために、仲間を死地に行かせるかね。*16

本来は博愛主義者に近いはずなのに、やってることがそれこそサイコパスということになって、砺波の実像が微妙にぼやける。*17

 

あるいは、「文書を手に入れよ」っていうのは、砺波の判断じゃなくて、ジェネラルのオラクルなのか、と考えたりもする。ジェネラル自身が、自身の進化のためには文書が必要だと判断し、入手するよう砺波らに命じたのだと。
…でも、その場合、
・(軍事転用されたとはいえ、元は)単なる補助AIに過ぎない、というジェネラルの位置付けが一気に(いわば)主犯級に変わりかねず、物語全体の印象とだいぶ大きな齟齬を来すし、
篤志(と矢吹)はピースブレイカーが文書入手に動くことを見越してわざとミリシア来日の情報を漏らした、という設定だから、文書入手すべしと判断したのが(砺波ではなく)ジェネラルだ、ということになると、篤志が思考を読んだのもまた、砺波ではなくてジェネラルの思考だ、ということになる。それもまた何と言うか、違和感が拭えない。
・他方、それならそれで、やっぱり砺波の人物像がぼやける。地獄を見てAIに帰依した一個の強固な人格の持ち主、という位置づけから、ただのジェネラルの傀儡に成り下がりかねない。

 

 

 

…ちょっと中途半端なところですが、だいぶ長く書いたので、続きはまた後日にします。

 

 

 

 

 

*1:最後のは耳にしばらく残っちゃうような号泣だったし、その上さらに、雑賀教授のくだりでも1回泣かせてますからね。

*2:狡嚙先輩にキリッとされてもワシらの救いにはなりませんからね 笑

*3:というか映像作品、又はフィクション全般か?

*4:篤志は、シビュラがそう判断することまで織り込み済みだったみたいですが。

*5:ここ、かぎかっこの中のセリフは映画の中で述べられたセリフですが(ただし、まんま正確かは自信がないです。以下同じ。)、地の文の部分は文脈に基づいた僕の推測です。

*6:作中ではもったいぶった言い方(「想像力が豊かだね」)で暈されてるけど、ピースブレイカー側に情報漏らしたの、篤志(と矢吹)だよね?

*7:ただ、そうすると、朱は、今作、すなわち自分の知っていることを灼と炯に伝えた段階で、シビュラがどういう存在であるかも炯に知らせた、ということになる。劇場版第二作のラストで灼と炯は「お互い秘密ができちゃったけど、いつか必ず隠さず話すよ」みたいな約束をしたわけだけど、その秘密の片方(灼の方の秘密)であるシビュラの秘密を、朱が一方的に(いわば)暴露してしまった形になってしまう。そこは今後、どういう整合性をつけるつもりなんだろう?(それとももしかして、灼の方の秘密がシビュラの内実だ、っていう解釈の方が間違いだったかな?僕、当然そうだと思ってたんだけど…。)

*8:そんなの一期の尺に収まるのかな、という疑問はあるが。

*9:個人的には、伊藤計劃さん作品でいえば『ハーモニー』でミァハが目指した人類のハーモニクスに近いものかな、という印象。

*10:こっちは、『虐殺器官』で言う『ジョン・ポールのメモ』、『虐殺の文法を生成することができるエディター』(同書p394)みたいなものかな。

*11:これ、狡嚙が言ったんだっけ?フレデリカだっけ?

*12:厳密に言うと、後者の方は、ジェネラルを吸収した後のシビュラのセリフだっけか?よく覚えてないや…。

*13:ここのセリフは特に超あやふやです。肝心なとこなのに面目ない。

*14:ここは、シビュラがジェネラルを話の分かる相手として認識したこと、つまり「ジェネラルがシビュラと同一目的(社会の安定)を有し、かつ、目的のために合理的手段を選択する存在であること」もまた前提となる。

*15:砺波も痛がってましたからね。

*16:というか、今回のミリシア襲撃・出島襲撃もさることながら、海外における従前の破壊活動自体、そもそも何のためにやっていたの?、という話でもある。平和のために必要な過程としての戦争だった、みたいなロジックなのかしら。

*17:まぁ言うて狂信者だ、みたいな粗い理屈は立つのかもしれませんが、それは暴論じゃなかろうか。