【小説】制服捜査
字数約1000字,読了目安1分ちょっとです(追記箇所を除く)。
佐々木譲さん2006年3月刊行作品。
主人公同一の短編集で,駐在所勤務の巡査部長(川久保篤)*1が北海道の町(志茂別町*2)で直面する5つの事件を収めたもの。
『直面する』であり『解決する』とは微妙に違うところが絶妙なところ。
事件のさわりをちょっとだけ
『逸脱』
赴任早々の川久保を町の有力者たちが半ば強引に訪問し饗応する最中,漠然とした通報が入り,翌朝,高校生の息子が帰らないという電話が入った。意図的な家出とは考え難い状況だった。
志茂別という小さな農業の町で,容易に辿れるはずの足跡が辿れない。
『遺恨』
放し飼いにしていた犬が,顔面を散弾銃で撃たれて殺された。中国人研修生の待遇をめぐるトラブルが浮上した矢先,別の事件が起こる。
『割れガラス』
他町から来た大工職人が,男子高校生をカツアゲから救った。後日,その男子高校生がネグレクトを受けていることが判明し,うちを出て働きたい,と川久保に告白する。
『感知器』
町内で不審火が続いて発生し,町の防犯協会は余所者の仕業と決めつける。事件は単純でなく放火が続く中,町の非難の矛先は単身赴任の川久保にも向かう。
『仮装祭』
13年前の夏祭りの夜,別荘族の両親に連れられて来た7歳の少女が失踪した。時を経て,盆踊り大会が復活し人出で賑わう会場で,再び事件が起こる。
雑感(全体)
いかなる意味でもマージナルではないローカルな事件,とでも言えばいいのか,そういうのを,徹底的に俯瞰を排して書いた作品で佐々木さんの右に出る人は,ちょっと思いつかない。
佐々木さんの小説は基本,三人称の文体だが,本作は特に,読者的感触として限りなく川久保の一人称に近くて,背景説明がほとんどない。その分,現場の緊迫感みたいなものが途切れない。
短編だけにいっそう濃密で,読みごたえがある。
我ながら自家中毒的だと思うんだが,閉鎖社会の嫌らしさと救いのなさみたいなのが背景にある作品*3を,読むとめちゃくちゃ胸糞悪くなるくせに手に取ってしまう。
本作も,町のありようの不気味さが冒頭の『逸脱』からたゆたっていて,だんだん高まって『仮装祭』で臨界点に達する。
むしろ,前半3作がやるせない。『割れガラス』は個人的に特に後味悪い。大工さんにはすごい感情移入して読んでしまう。
それにしても,2006年時点で外国人研修生制度について一石を投じてたのは凄いな。