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【資格試験】口述と亡霊【中小企業診断士試験①口述】

花に亡霊、雲と幽霊。ヨルシカ好きです。

 

 

(約14,300字)

 

 

中小企業診断士2次試験口述試験を受けてきましたので、記憶が新しいうちに記録を付けておきたいと思います。
順序が逆になりますが、1次と筆記については後日書きます。たぶん。

 

これから受験される方のご参考になれば幸いですが、属性を細分化するなら、

  • 僕と同じように弁護士、特に予備ルートで司法試験を受けた方で診断士受験される方
  • 口述模試を受けないで臨もうと考えていらっしゃる方、あるいは、模試を受けたくても地理的制約で受けられないとか、受けようと思っていたがどこも満員であぶれてしまった方

には多少の参考になるかと思います。

 

 

 

 

 


1.筆記試験終了から筆記試験合格発表までのこと

昨年末はわりとギリギリまで忙しく、仕事が終わった(終わりということにした)時は解放感に溢れていました。あー休める!やりたかったことできる!と。
で、気が緩んだせいか、年明け早々風邪をひき、正月が台無しでした。
それが何とか治り、ダウン中のリカバリーが多少なりとも片付き、「あーあ、しまらない年始だったあぁ」などと思っていた1月12日(金)。
ポストに不在配達票が入っていました。

 

差出人欄に「J-SMECA」って書かれていたのですが、「ああ、診断士協会か」、と思い出したのは十数秒後のこと。
で、初めは点数のお知らせ(不合格者に送られてくるやつ。現在は、得点開示請求等しなくても親切に自動で送ってもらえる。)かーと思ったのですが、ちょっと考えて、それはおかしいことに気づきました。だって、アレは去年たしか普通のはがきで送れられてきたはずだから、不在配達票の出番はないもの。


ここで初めて、「え…、もしかして当職、合格した?」、という可能性に思い至る。

 

 

実は、筆記試験が終わった瞬間、僕、「…今年は終わったな」と思っていました。
特に事例ⅡとⅣは本っ当に分からなかった。前者は適当に空欄を埋め、後者は空欄を埋める時間すらなかった。
で、1次を受けたのは一昨年(2022(R4))だったので、もしまた再チャレンジするとなると、1次から受け直しとなるわけですね。
なので、ぶっちゃけ、今後どうするか考えることすら億劫で、最後の気力を振り絞って再現だけは作ったものの、以後、診断士試験のことは完全に脳内から抹消していました。
というか、脳内だけじゃなく、Googleカレンダーからも。
なので、筆記試験合格発表日(1/11(木))すら、把握してませんでした。

 

 

…で、慌ててサイトを確認し、自分の番号を確認したのが12日の日も暮れてからのこと。

ただ、番号あったとはいえ半信半疑で、ようやく「ああ、ほんとに合格したんだ…」って実感が湧いたのは、翌13日夕方に郵便局で通知(口述の受験票)の現物を受け取った時でしたね。

この日、夕方だけですけど、東京も雪降ったんですよね。
郵便局行った時のふだんと違う通りの雰囲気、印象深く覚えています。

 

 

 

2.予備口述の亡霊のこと

もちろん、めちゃ嬉しかったです。ただ同時に、「うわ、うっそだろ、やっべ…」という感じでもありました。
なにせ、サイトで合格確認したのが1/12で、口述試験日が1/21、間8日しかない。当然、外せない仕事も既に入っているので、勉強に割ける時間はかなり限られてしまう。しかも僕、上記のとおり、筆記試験(2023/10/29)以来、何もしておらず、何も覚えていません。
というか、「筆記の後には口述がある」「口述のネタには筆記試験の事例がそのまま使われる」、ということだけは最低限知っていましたが、ほかは何も知りません。口述ってどんな感じなのかとか、みなさん普通何して対策するのかとか。*1
なので、そっから調べないといけない。

 

いや、もいっこ知っていたことはあって、それは、「口述で落ちる人はほとんどいないらしい」、ということ。
ただ。
僕、その点でひっじょーに似ている試験で、一回、落ちたことがあるんですね。*2
その名は、司法試験予備試験

 

 

予備試験も短答→論述→口述、というスリーステップを辿ります。で、山場は論述とされており、口述はほぼ落ちない。
ただ、それも「口述受験生は全員が論述(しかも予備)に受かった実力の持ち主であり、そいつらが相応の準備をして臨むから」不合格者が少ない、というだけであって、決してイージーな試験ではない(と思う)。
少なくとも僕は、めちゃくちゃ緊張しました。頭が真っ白になるレベルで。
人生で一番嫌だった試験を挙げろと言われたら、予備論述とか司法試験本試験よりも、予備口述って言いますね。

 

一応、この機会に数値をみておくと。
まず、診断士の方が…

直近5年の口述不合格者数は、(新しい順に)7人、5人、1人、3人、1人
なお、母数は約900~1600人。

で、一方の予備は…数の推移が一覧になってる資料が見当たらんな…各年度の参考情報資料を参照するに、、、
直近5年の口述不合格者数は、(新しい順に)9人、12人、20人、18人、26人
なお、母数は400~500人弱。

 

…うん、予備の方がひどいね。*3
それと診断士、年によってこんなに合格者数に差があるんだ。今さらながら。

 

 

閑話休題
そういうわけで、筆記受かった!ってなったとき、僕の脳裏には、予備口述の悪夢が蘇りました。
また、あの無惨を繰り返すのではないかと。
しかも、何の因果か知らないですけど、2023(R5)年から試験制度改革に伴い予備試験の日程も変更され、口述はもともと秋に実施されていたのが(翌)1月実施にずれ込んだんですよね。
なんと、診断士口述と同じ日。*4


勝手に因縁を感じて胃もたれ気味に始まった、僕の口述体験。*5

 

 


3.口述の勉強のこと

まず見た、というより見直したのは、中村真先生のブログです。診断士試験を受けることに決めた初期段階で読んだのが同先生のブログ記事でしたので*6、「なんて書いてあったんだっけな」、と。で、見てみると、先生はTACの口述模試をお受けになったらしい。
まあ、そうだよね、対策するなら模試受けるのが手っ取り早いよね。予備口述の時は僕も受けたし。…と思ったので、申し込もうとしたところ。

全時間帯埋まってました。TACだけじゃなくて、LECもふぞろい*7も、その他の予備校も。さっそく手詰まり。

 


しょうがないので、今度は「中小企業診断士 口述 対策」でググってみると、いくつか記事が出てきました。そこで見つけたのが「想定問答集」というターム。
どうやら、そいつでイメトレをするらしい。で、自作するっぽいことを書いてるサイトもありましたが、予備校が売ってたりもするらしい。


なので、今度は、「中小企業診断士 口述 想定問答集」で検索。すると、予備校3校ほどのサイトがヒットしました。うち1つは無料、2つは有料。といっても税抜1,000~3,000円程度です。また、紙ではなくPDFでくれるらしいから、買えば即読めます。郵送時間を考慮する必要なし。
ですので、その3つをポチりました。

 


ふぅ。
なお、ここまでの調査経過で見かけた記事によると、試験では、事案に引っ掛けて単純な一次知識が問われることもあるらしい(「差別化集中戦略とは何か、説明してください」とかですね。)。
したがって、対策としては、

  • 二次筆記の4事例を繰り返し読んで頭に入れた上で
  • 一次の知識も適宜復習しながら
  • 想定問題集をやり込む

ということになるのかな、とアタリをつけました。

 

 

アタリをつけたというか、もうこれで行くしかないという感じです。模試・セミナーを受けられない以上、途中で軌道修正もききませんし。
そもそも時間も限られていますしね。
模試、受けたかったですけど、ただそこは、数少ない(であろう)他の国家資格口述試験受験者としての経験があることでカバーできるであろう、できるに違いないと思い込むことにしました。
そもそも地方の方とかは地理的に模試受験が無理でしょうから、その点では条件は一緒なわけですし。*8


まあ、勉強しながら時々予備の緊張感が蘇ってきてメンタル削られた、というのはありますけど、でもきっとそれも考え方次第ですよね。
口述試験の経験がない、という方のほうがむしろ不安が強いものだ、という側面もあるでしょうし。
模試は半分は受験生をボコりに来るんでしょうから、模試を受けたら緊張が和らぐ、というわけでもないでしょうし。

 



で、実際勉強してみて、気づいた点を3つほど。


⑴ 想定問答集の話

上記のとおり、僕は3種類の想定問答集を入手して使いました。
当初は、どれも似たようなもんだろと思っていたんですが、結構違いますね。何というか、方向性からして違います。


僕が一番いいなと思ったのは、AASさんの問答集です。

想定される質問を豊富に(15問以上)挙げてくれている
質問内容(質の面)も、何と言うか、リアリティーというか、「ああ、なるほど、こういう感じのことが聞かれるわけね」、という肚落ち感がある(受けたことない人間が肚落ち感とか言うのも変な話だけど)
それぞれの質問に対する回答の例も同様で、納得感がある
回答例のほか、解説が付いていて、当該回答に至る思考の道筋とか、本番までの学習の方向性みたいなもののヒントになる
想定問答集の本体部分のほか、
 ・冒頭に形式面(試験場の建物に入ってからどんな感じの手順で面接室まで案内されるのかとか、最初に氏名と生年月日が聞かれる*9こととか)の説明
 ・末尾に先輩受験者(合格者)からのアドバイスが複数
付いている

といったあたりが特徴かな、と思います。*10
これで税込1,100円(たしか)は安い。十分に元が取れます。

 

なので、僕は、AASさんの問答集を対策のメインに据えて取り組みました。他2つは参考までに一応浚っておく、くらいのイメージです。
時間もありませんでしたし。

 


⑵ 具体的な対策の話

上に書いたことと重複しますが、その想定問答の中では、大きく分けて2種類の質問が掲載されている感じです。
ひとつは、事例問題。例えば、R5の事例Ⅰで言えば、「統合後、元X社店舗でもアルバイト従業員を定着させていくにはどうしたらいいですか?いくつか施策を挙げてみてください。」みたいなやつですね。
他方、もう一つは、一次の知識問題。これもR5の事例Ⅰを例にとるなら、「職務拡大について説明してください。」みたいなやつ。
これらの中間形態として、「正社員ではなくアルバイト従業員を採用する一般的なメリット・デメリットを説明してください。」みたいなやつもあります。


このうち前者について想定問答集の質問と回答例を併せて読んでいくと、どうやら、『筆記で問われた問題とは完全に別個独立の事柄が問われる』というわけではないらしい、ということが分かります。
ちなみに、AASさんのやつの場合、想定問答の最初の方に載ってるのはモロ、筆記の問題を若干変形したやつ(聞き方を変えてたりとか)ですし、他校さんのにも、筆記と内容が重複する質問は必ず入っていました。*11で、他方、そうでない問題であっても、筆記の設問のどれかとは何らかの形でリンクしていることが多い。

 

これ、考えてみれば当たり前ではあって、
・同じ企業に関する質問である以上、複数の質問は(程度はともかく)当然に相互に関連はするし、
・筆記試験では当該企業に関する基本的というか、根本的な部分の質問がされているからでもある。それぞれの事例の設問1におけるSWOT分析・3C分析等が典型だけど、それに限らず。


…なので、筆記の設問に対する『自分なりの回答』*12にブレがあると、何というか、口述の想定質問について考えるときも思考にノイズが入って落ち着かない。
したがって、学習の順序は、僕の場合、

①まず、筆記の事例を読み直し、*13

②そのあと、想定問答集(複数)をザッと流し読みして、大体の感じを掴みました。

③その後、筆記の設問について、自分の再現答案と、想定問答集中の記載や予備校が出してる解答予想なんかを照らし合わせて、『自分なりの回答』を固めました*14。固めると言っても、筆記それ自体の対策をするわけではないので字数制限は考慮する必要がなく、したがって表現だとか要素の取捨選択だとかは端から考慮の外。盛り込むべき要素は何かを明確化することだけ(場合によっては要素間の優先度の高低は多少意識しつつ)心掛けました。*15

④その後、ASSの想定問答集記載の(筆記の設問の変形問題以外の)想定質問をイメトレして潰し、

⑤他2校のは前日~当日にかけてサラッと目を通しました。

…という感じです。*16

 

以上はひとまず事例問題対策なわけですが、上記のうち④⑤は、他方の一次知識問題対策も兼ねています。
ただ、それだけだと少し、心もとないっちゃ心もとない。
というのも、この種の試験で一般的基本知識を敢えて問われる場合って一般的には、試験官が
「ちょっとコイツ(受験生)こんがらがっとるな…いったん単純・基礎的な質問に戻って話の流れを仕切り直そうか」
とかって考えている場合なわけですよ。つまりは試験官の優しさであり、誘導の一環です。*17
ということは逆に、そこで答えられなければお話にならないわけです。助け舟を出されたはずがかえって泥船になって沈んじゃった、ではシャレになりません。
ただ、一次の知識ですから、忘れてます。なんかこう、2×2のマトリックスになってる図、多すぎてこんがらがりません?あるいは、図の内容は覚えてても名前を覚えてなかったりとか。(僕だけ?)
なので、

⑥企業経営理論のテキスト中、出題可能性のありそうなところを軽く見返しておく

…というのは一応、やっておきました。本当に軽くですが。

 

 

⑶「2分?」という話

ここで、予備口述の話をちょっとだけ。
予備口述では、「法律をネタとした会話のキャッチボールができるか」が問われます。なので、「会話の流れの中で」「いっぱい」質問が飛んできます。
最初に事案を読まれるんですが、同事案について、まずは基本的な質問(民事なら請求の趣旨とか、訴訟物とかとか)から始まり、だんだん深掘りしていく感じです。もちろん大きな流れはあらかじめ決められているけど、その枠内における質問事項等々は試験官のかなり広範な裁量に任されている感じです。再現みると、受験者の回答によってその後の質問もけっこう変わってきますし。


他方、診断士口述。記事やら想定問答集やらの記載によると、「1問につき、解答の目安は2分」らしい。
試験の最初にそう言われるんだってさ。試験官の先生から。

 

 

 

 

 

 

 

2分?

 

 

 

長くない?という話である。
しかも、聞かれる問題数はだいたい4問で、試験時間は10分くらいらしい。

 

 

 

 

それ、バッファ2分しかないじゃん。試験官の先生からすれば、会話も深掘りもしようがないじゃん。
誘導だって、そんなにタイトじゃやりようがなくない?


となると、結局、会話のキャッチボールというよりは、野球とかに近いイメージなのかしら。
単純に、来た球を打ち返せるかどうか、みたいな。

 

 

キツくない?

 

 

 

 

 


…というような感じで、ここらへんのイメージは結局、試験本番までいまいち湧かないままでした。

 

一応、若干姑息なテクニックみたいなものはあって、

「回答の冒頭で質問を繰り返して時間を稼ぐ(その間に頭をフル回転させて考える)」

というもの。例えば、「××について説明してください。」と言われたら、「はい、××について説明いたします。それは…」みたいに答え始めるわけです。
僕は、さすがに質問をまんま繰り返してしまうとあからさますぎて心証が悪かろうと思ったので、質問を自分なりに要約したり、あるいは中心部分を抜粋したり、微妙に変形したりして枕詞にすることにしました(本番でもそうしました。)。
これは、持っておいて損はない引き出しだと思います。
副次的効果として、質問の理解が間違っていたら試験官が割り込んで軌道修正してくれるであろう、ということも期待できますしね。

 


その他、
「2分は意外に長いから、時間を測ってしゃべる練習もしておいた方がいいですよ」
ボイスレコーダーで自分の声を録音して聞き直してみるのもいいですよ」
みたいなアドバイスも目にしました。
ごもっともだなと思いつつ、僕は結局、無精してやりませんでした。
だって、2分カッチリを目指してキレイな回答をしゃべり切るなんて、どう考えたってムリだもの。


もちろん、余力があればやるに越したことはないと思いますが。目標レベルを具体化する効用もあるでしょうし。
ただ、それよりは、これは別の方のアドバイスの受け売りですが、

「きれいな説明の仕方を目指すより、多少泥臭くても問いに正面から答えようとすることが大事だと思う、その誠実さを試験官は評価してくれた気がする」

という考え方に、僕は共感します。
そういうイメージで対策に取り組んだ方が、精神衛生上もいいですしね。何より現実的だ、という気がします。

 

 


4.当日のこと

以上の対策をなんとか浚って、当日を迎えました。
というか、時間が午後4時からの枠でしたから、当日を迎えた後も絶賛対策中でしたけど。

 


先に試験内容のことを書きます。

 

僕の場合、事例Ⅰ事例Ⅱから出題されました。*18一般的に、4事例中2つの事例が選ばれ、それぞれの事例から2問ずつ出題されるのが通常のようです。
  ただ、僕は3問(事例Ⅰから2問、Ⅱから1問)しか聞かれなかった気がするんだよな…事例Ⅰの方は、カウントの仕方によっては3問になるのかもしれないですが。

事例Ⅰについての質問が先でしたが、最初に何を聞かれたのかがどうしても思い出せません…。

2問目にはたしか、
 「X社と経営統合するに当たり、A社経営者は、X社経営者にも一定期間残ってもらうことにしました。それはどうしてだと考えられますか。狙い・目的を説明してください。」
という質問だったと思います。これに対しては、一旦そこそこスラスラ答えられた気がするのですが*19、その後、
 「ちょっと質問を変えます。今のお答えは対内的な側面にフォーカスしたものだったと思いますが、対外的な意味もあるものと考えられます。そこで質問ですが、X社経営者が残った場合、対外的には何をすると考えられますか?」
みたいな質問が来たんですよね。で、僕、「えっ…と、、、」って黙ってしまいました*20。たぶん十数秒。ヤバい…と思っていたら、
 「また少し質問を変えますね。X社の対外的取引先としては、どんな方がいましたか?」
という誘導モードに入ってくれたので、そこから立て直すことができました。で、「引継ぎを円滑に行う目的もあります」、という結論に何とか辿り着けました。

3問目が事例Ⅱからで、
 「B社の顧客である子どもたちが来店するのは、基本的には、成長して前の服がサイズアウトしてしまった時であると考えられるため、B社社長は、その来店頻度をより向上させるため、SNSを活用したいと考えました。どのような施策が考えられますか。」
という質問でした。で、めちゃくちゃ詰まりながら、要旨
 「少年スポーツチームのアカウントなどと連携し、試合などのイベントがあるたび、それと関連付けて、パフォーマンス向上に役立つような製品をアピールすることが考えられます。」
みたいなことを答えました。
  ちなみにこの時、「来店頻度向上のためのSNSの活用、ということですと…」みたいな話し出し方をしたら、試験官の先生が、
 「そう!SNS。それを使って顧客価値向上を目指したいんですが、そのためには…?」
みたいな合いの手を入れてくださいました。
  考える時間をもらえてとても助かりましたし、「がんばれ!」というお気遣いが感じられて、大変ありがたかったです。*21

で、よし何とか答えた、あと1問!、と思っていたら、「これで終了です、お疲れさまでした」と言われました。

 

1問足んなくない…?、という不安はありましたが、会話は辛うじて成り立った気がしたので、あまり気にしないことにしました。
何と言うか、質問のレベル設定が絶妙だと感じましたね。

  • ちゃんと回答するとしたら、たしかに2分が目安にはなる
  • 何となく方向性は見える、ただあくまで「何となく」である
  • よって大概しどろもどろにはなるし、要素に漏れも出る*22、だから多少の誘導が必要になる、
  • 他方、しどろもどろだったとしても一定程度答えられていれば、残り時間との関係で、誘導なしで質問を切り上げる、という選択肢もあり得る(だって、落とすための試験ではないですから。)、

…という諸々を考慮すると、4問で約10分というのは、納得感のある時間設定だと思いました。


それから、試験官の先生は2人でした。僕はてっきり片方が主査でメイン質問、片方が副査で意地悪質問とメモ・採点担当、みたいな感じで分かれてるのかな、と思っていたら、違いました。事例ⅠからⅡに切り替わったタイミングで質問者が交替しました。で、一つの事例に関する質問が続いている間は、質問者は変わらず固定されたまま。
特にどちらが意地悪ということもなく、どちらの先生も親切に誘導してくださいました。
僕としては、やや意表を衝かれました。

それと、片方の先生から質問されている間は、僕、その先生に正対する形で答えていました。そうすると、もう一人の先生が何をしていらっしゃるかが微妙に視野から外れて見えません。
いや、見ようと思えば見えたのかも、という気もしますし、実際なにか手を動かしていらっしゃることは分かったのですが、質問者の先生の挙動に集中してたこともあり、どのタイミングで・どんな感じで手を動かしていらっしゃるのかまでは分かりませんでした。
なので、何を答えたときに・それをどう評価されたのかとかは、不明です。

 

あと、結局、僕の場合は、一次知識は何も聞かれなかったですね。
でも、きっとそこは場合によるんでしょう。事例Ⅳがネタになる場合だと、一次知識を聞かれることも多いような気がしますし。しらんけど。

 


さて、当日の流れ。

試験開始時間は午後4時でしたが、受験票には、30分前には受付を済ませておけ、と指示が書かれていました。

また、複数のネット記事で、

「口述は会場にインタイムで辿り着くのが一番だいじ!だから早めに家を出ておけ」

というご趣旨のアドバイスに接していました。なので、電車トラブルがなければ3時くらいに会場に着くような目安で家を出ました。
会場は池袋の立教大学で、僕の場合、筆記試験と一緒のとこでした。

無事何事もなく池袋につき、地下道をてくてくと。

ザ・休日、という感じですね。試験開始時刻がばらけてるから、筆記の時と違って、受験生が列を作って会場に向かっているようなこともありません。
地上に出ても、時折、「あ、試験終わった受験生だろうな」というスーツ姿の人とすれ違うくらい。
天候はあいにくの雨(小雨)。

大学入口前には、予備校から応援&チラシ配りの人たちが来てました。ただそれも、筆記の時と比べればこじんまりとした感じ。

 

 

中に入ると、案内係の方が寄ってきて、「受験生の方ですか?試験は何時からですか?」と質問されました。
「予定時刻は4時です」と答えると、「では、時間には余裕がありますので、入って左手奥の待合室でお待ちください」とご丁寧にご案内くださいました。


待合室(大教室)には受験生がズラリ。席順は順不同。スペーシングには余裕があり、座るのに距離が近くなりすぎるようなこともなかったです。
ちなみに受験票には「会場内では電子機器使用禁止」の旨書いてあったのですが、みなさん普通にスマホで音楽とか聴いていらっしゃいました。*23

ああ、そうだ。僕が見た限りですけど、私服の方はいなかったですね 笑
ただ、立派なお髭を生やしていらっしゃるダンディーなお兄さんはいました。


ホワイトボードを見ると、
「試験開始時刻15:12・15:24・15:36の受験生は××教室へ」
みたいな感じの案内書がされていました。なるほど12分刻みなのね。で、僕は20分後くらいに呼ばれるわけね。
で、トイレを済ませて最後の見直ししているうちに、

「試験開始時刻午後4時の受験生の方は~」

と、僕らも呼ばれました。

 

案内係の人に付いてって階段を上がり、中教室みたいなところへ入り、受験票の確認を受け、首から下げるストラップを受け取ります。セキュリティ付きオフィスの社員証みたいなイメージですが、入っているのはただの色付きカード。僕の場合はたしか赤色。どうやら試験開始予定時刻ごとに色分けされている模様。
ここで試験開始まで待つ感じかな、ここが予備口述で言うところの発射台かな、とか思っていると、もう一度教室異動がありました。

そこでは、一つ前の試験開始予定時刻の皆さんが班番号順に整列して待機していらっしゃいます。*24で、僕らはその左隣に座ります。
僕の場合は22班でしたから、『22班、試験開始予定時刻15:48の方』(カードの色は黄色だったかな)の左隣に座った、ということです。


で、時間が来ると、試験開始予定時刻15:48の受験生一人一人の右隣に案内係の方が付いて、注意事項(スマホは電源を切ってカバンの中にしまってください等々)を説明の上、皆さんを該当教室に連れて行きました。
残った僕らは、席を右側に詰めます。それから数分すると、今度は、試験開始予定時刻16:12の方々が教室に来て、僕らの左隣に座りました。
この教室内では、すぐ自分のターンが来るからか、特に何も勉強せず座って待っていらっしゃる方が多かったです。かく言う僕もわちゃわちゃするのが嫌で、目を閉じてイメトレしていました。
そうしているうちに、僕が連れていかれる時が来ました。

 

連れていかれた先は、小教室の前。

「時間がきたらお声がけしますので、そうしたらノックの上、返事を待たずに入室してください。荷物置き場は入ってすぐ左手にありますので、そこに荷物を置いて試験官の前に進んでください。それで試験開始となります。」

みたいなご案内を受け、教室前(廊下)で着席。
10分くらい待つのかな、と思っていましたが、実際には、3~5分程度待ったところで入室を促されました。


ノックして入ると、確かにすぐ横に、机が2~3個固めてあって荷物置きにしてあります。
同じように、試験官の先生方の前にも机が固めてあって、いろいろ書類が置いてあります。その数メートル前に受験者用の席(椅子)が用意してあります。
荷物を置いて関の横に進むと、

「どうぞお座りください」*25
「はい、失礼します」
「ではまず、お名前フルネームと生年月日を和暦で仰ってください」
「はい、××、生年月日は△△です」
「これから口述試験を始めます。筆記試験で出題された4つの事例のうちいくつかを素材に質問しますので、それに対して、中小企業診断士として回答してください。回答の時間は、あくまで目安ですが、2分程度とします」
「はい、承知いたしました」

みたいなやりとりがあり、そこから試験開始、となりました。

 

で、試験終了して退室すると、案内係の方から、
「お疲れさまでした。このままお帰りいただいて結構です。」
みたいなご案内を受け、帰りました。


幸い、雨は上がってました。

 

 

 

5.試験後のことなど

この日記、約1週間かけてここまでボチボチ書いてきたんですが、本日1/31(水)は最終合格発表日。
無事、合格することができました。

嬉しいです。しみじみ。

 

ちなみに、2月の実務補習は、もう明後日の2/2から始まります。で、申込期間はなんと1/12(金)から、つまり筆記の合格発表の翌日からです。
で、すぐ埋まっちゃうらしいです。もちろん僕は申し込んでないし、申し込もうとすらしませんでしたけど 笑
ゆっくり、7~9月なり来年2月なりに受けようと思います。*26


なので、それまでの間は、いずこかの団体に入れていただいて活動しつつ、弊業界の外のいろんな人と交流してみようかな、と考えている次第です。せっかくだし。
まあ、人見知りなんですけどね。がんばれ当職。


そうそう。多分なんですけど、そういう団体が主催してる口述模試とか口述セミナーとかって、メンバー募集の告知なんかも同時にされてるんじゃないですかね、きっと。なので、人脈を広げたいと考えていらっしゃる方は、そういう意味でも、できるだけ参加した方がいいのかもしれないです。
そのためには、筆記合格発表に先立って、チェックすべきサイトなりSNSアカウントなりを整理しておく必要がありますね。*27

 

 

 

 


口述体験記、以上です。*28

 

 

 

 

 

 

 

*1:ここまで来ると「お前それは受験生としてどうなの?」と我ながら思わんではない。

*2:なお、予備口述のほか、二回試験も「ほぼ落ちない」という意味では似てはいますね。予備口述にせよ二回試験にせよ、「ほぼ落ちない試験だから安心して良い」とはならないところが本っ当に恐ろしい。

*3:こうして比較してみてみると、予備口述、むしろこんなに落としてやがったのかと思う。平成30年26人て。旧司みたく論文免除があるわけでもないくせにさ。

*4:正確には、予備は土日の2日を使うのに対して診断士は日曜1日だけですが。

*5:とはいえ今回は、ぶっちゃけ、「むしろ落ちたらおいしい側面あるかも」と考えるくらいの余裕はありました。①そういう視点を診断士試験自体を通じて身に付けたこと、②2つめの資格獲得に向けた試験であること、に加えて、③ちょっと前、SNSを通じて、僕と同じように予備口述に落ちた経験/経歴を活かして、司法試験合格後から受験指導で活躍されてる方と知り合って刺激を貰えたことが大きいです。知り合いって言ってもFF関係になって何度かDMのやりとりしただけですけど。

*6:そうそう、なので、最初に同ブログを見たときは、絵の中の中村先生が着てるTシャツの柄、意味が分からなかった(何の反応もできなかった)んですよね。「カット形状不均一」ね、ボケが細かいな 笑

*7:というか、ふぞろいって模試とかもやってくれてたんですね。書籍作成とブログだけかと思ってました。初めて知りましたよ。

*8:あるいは、最近はZoomでの口述模試なんかも開催してるのでしょうか。ちょっとそこはよく分かりません。

*9:ここは予備口述とは違いますね。あっちは匿名処理がされていて、会場で知らされる受験番号みたいなの名乗るんじゃなかったかな、たしか。

*10:正直、ⅱⅲは、AASさんのやつの特徴というより、他校さんの問答集では首を傾げた(けどAASさんのではそういうことはなかった)、というのが率直な印象ではあります。

*11:なので、その部分に限って言えば、もはや筆記試験の予想解答に近い。逆に言うと、口述の想定問答集だとか体験記だとかって、筆記対策の合間に読んでも参考になるのかもしれない。

*12:正解が分からないやつも多いので、必ずしも『唯一の正解』にこだわる必要は、個人的にはないと思う。論理の筋が通ってさえいれば。

*13:めちゃどうでもいい話ですが、筆記時に持ち帰った問題冊子の方が記憶喚起に繋がりやすいかな、と思い、まずはそっちを引っ張り出しました。で、その後、後述③④⑤の作業をしながらマーキングをする用に、新たに協会HPからDL・プリントアウトしました。

*14:なので、口述対策という意味でも、筆記後の再現作成はマストですね。もちろん、落ちてた時の振り返りのためにも。ホント、やっておいて良かったです。

*15:この学習って、やってる過程で自分の解答の誤りに気付くから「うわぁ…」と感じたりもするんだけど、個人的にはむしろ、分からずに適当に書いた箇所の予備校の解答解説なんかを読んで「ああ、なるほど、そういう感じか!」と肚落ちする楽しみ(?)の方が大きかったです。だって、既に筆記には合格したっていう結果が出てる以上、どんだけ間違っていようがさしてメンタルは揺らぎませんから。

*16:なお、「一番大事なのは与件文の読み込みであり、『ストーリー』と『SWOT分析』をカッチリ押さえてさえいれば口述対策としては十分だ」みたいな見解をそれなりにお見掛けします。ご趣旨には同意するのだけれど、私見としては、「与件文にある事案の概要をきちんと自分のモノとして咀嚼するためには、むしろ、想定問答集を潰す作業はかなり有用」だと思います。アウトプットなしにインプットなんかできないわけだし。事例を分析するにも解答の例くらいはあった方が客観性を担保しやすいし。

*17:ただ、これは口述試験後にこのブログを書いている過程で偶然知ったのですが、平成14年度の試験では「デファクトスタンダード」の説明が求められ、答えられなかった受験生が全員不合格になった、ということがあったらしいですね。これが試験制度開始直後のオペレーション不全によるエラーなのか、それとも再び起こり得る事象なのかは判然としません。

*18:(2/1追記)筆記の成績が返ってきたので見てみたところ、僕、事例Ⅰ、次いで事例Ⅱがいちばん点数が低かったです(Ⅱはともかく、Ⅰはまじでびっくり)。なので、「口述では出来の悪い設問2つが選ばれる」みたいな話、あながち単なる都市伝説だとも思えなくなってきました…。

*19:たしか、ノウハウの承継と従業員の離職防止の観点から説明した気がします。

*20:「引継ぎ」というワードは出てきたんですが、文章の形で説明を言語化できずに詰まってしまいました。汗。

*21:あるいはひょっとしたら、SNSじゃなくてHPの活用とか(あとはアプリとか)、制約条件を無視した解答がそれまで散見されたため念を入れた、という可能性もありますね。

*22:なお、僕は最初からしようとは思いませんでしたが、ヤマ張りは止めた方が無難じゃないかな、と思います。現場で無駄に焦る要因になり得るとか、予想問題に引きずられると問いに素直に答えられなくなりがちだとか、弊害が多い気がします。想定問答集はあくまでシャドウボクシングみたいなものだと思います。

*23:このへんは予備口述より全然緩いですね。というかあっちの場合、たしか建物に入る段階で封筒みたいなの渡されて電子機器類はそれに入れさせられるんじゃなかったかな。待機時間中のトイレもいちいち係の人が付いてくるし。係の人愛想の欠片もないし。問答無用で半日缶詰にされて背中痛くなるし。東京地検地下の弁録待ちかってんだ。思い出すとだんだん腹立ってきたな。

*24:このとき見た限りだと、たぶん、立教大学会場の受験者は36班に分けられてたっぽい。他方、試験開始時刻が12分刻みだから、仮に試験実施時間帯が9:30~17:30で中1時間昼食休憩だとすると、各班35人の受験者がいることになります。ただ、もしそうだとすれば、立教大学の受験者だけで35×36=1,260人いることになるんですよね。さすがにそれはおかしいわ。どうなってたんだろ。

*25:着席が先だったような記憶だけど、もしかしたら名前生年月日の確認が先だったかもしれません。ちょっとここはあやふやです。

*26:ただ、来年2月から最小コース日数が変わるらしいせいで年をまたぐと若干面倒というか、無駄が発生しかねないというか、ちょっとアレな感じになっています。まぁ、それも含めて考えます。

*27:心がザワつくであろう合格発表直前にその作業をするのがアレなら、筆記直後にやっておくか、何なら筆記の勉強と並行して息抜きがてらやる、というのもアリですね。僕だったら筆記直後にやるかな。

*28:ちなみに、今年は口述不合格者は2名だったみたいですね。

【日々の雑感】アタマノナカデ、コトバノナカデ

(約7,000字)

 

 

 

 

 

 

エヴァ(旧劇場版)とジョジョ6部(ストーンオーシャン

最近、ふとしたきっかけで、(今更ながら)旧劇場版エヴァのあらすじを知った。
それで、自分の好きな小説が、実は一部、エヴァの筋を下敷きにしていることを(今更)知って驚愕した。
おそらく作者(円城塔さんの方)も隠す意図はないと思うので作品名を言ってしまうが、『屍者の帝国』である。

作品愛が感じられるなぞり方で良いなぁ。*1
アダムのあの行動、碇ゲンドウのオマージュだったんだ…

 

 

自分がなぜこんなにびっくりしているのか我ながら判然としないところもあるが、自己分析を試みてみるに、

屍者の帝国』が自分の偏愛する作品である、
純粋に、ゲンドウ/アダムの行動の動機が美しい*2(賛否両論あるのかもしれないが)、

という2つに加え、

エヴァが世代的にモロに被っており(10代中盤の頃にオンエアされ社会現象化)、偶然の作用しだいでは*3自分の人格形成に大きな影響を与えていてもおかしくない作品だった

という要素が大きいのかも、と思う。

 

 

これ、ジョジョ6部の筋、というか終わり方を、30過ぎてから知った時の驚き/要素に似ている。
(以下、場合によってはネタバレになりますので、お嫌な方はご注意ください。)

同種の終わり方*4をしている後発作品いくつかが好きだったので、「これ、ジョジョと同じだったのか!」という驚きがあった。*5

この終わり方、心を抉るよな…

 

 

 

 


…というようなことを思いました。
特にオチはありません。

 


「自分が見落としていた(名前だけ知ってた)作品の内容を知って、それが何らかの意味で自分の過去の体験とリンクしててびっくりした」

みたいなこと、皆さまはありますかね?

 

 

 

 

 

小説

そうそう。上記と若干似ているが、

「先行作品の内容中コアな部分と、それをオマージュした後発作品があることは知ってたけど、その先行作品を読んだこと自体はなかった」

みたいなケースの当該先行作品を、先日、読んでみた。

もちろん、
著作権は表現を保護するものであってアイデア/コンセプト自体を保護するものではない、ということは(職業柄)知っているし、
・だからこそ先述したような大好きな作品が生まれているわけだから、このルール自体に異議を唱えるものでもないけれど、
それも最低限、先行作品に対するリスペクトあってこそだよね。

 


推理小説のネタをまんまパクった上に開き直ったらいかんでしょ。
どの作品のこととは言いませんけど。*6
職業・法律を離れたいち個人としての(率直な)心情ですけど。*7

 


で、上記作品については、
"松本清張以後の推理小説界におけるとある雰囲気に勇気をもって異議申立てを行い、その後の大きな流れの嚆矢となった"
って意味でも、敬意を払われて然るべきだよね。
前から気になって作品ではあったけど、今回、読めて良かったです。

 

 

流れのまま、ここ1ヶ月くらいで接した作品の記録を。

小説は、『占星術殺人事件』に加えて、これ↓。
久しぶりに西澤先生の作品を。

今回のは、西澤先生によくある、「内容的に繋がりがある短編集」系。
いや、こんな設定、よく思いつくよな 笑
軽妙さの奥に社会の裂け目みたいなものがパックリ不気味に口を開けている…みたいな温度感。そうそう、今回はこういうの読みたかったのよ僕は。
この中だと…『まちがえられなかった男』か『リアル・ドール』が好きかなぁ。
後者はちょっとアレな作品だけど、「おほっ、今回はそういうオチで来ましたか!」という仕掛けとラストが楽しい。
笑いごとなのかどうかは知らん。

 

 

マンガ(単行本)

今回、集めてるマンガの発売日が集中した感じである。
(以下、前回の記録漏れ分も含めて。)

 

23巻。
羂索、人物像(過去)の描写がないから内面が読めなさ過ぎて、話(説明)が頭を上滑りしちゃうんだよな。
しかしお前は絶許である。
僕、九十九さんのあの感じ好きだったのに…情の厚さと達観の仕方のバランスみたいのがタイプだったのに…
漢気のある気のいい姉さんでカッコよかったのに。
戦い方もガチンコ肉弾戦系でカッコよかったのに…

24巻
どんどん話に救いがなくなっていく。
そしてここでまさかの宿儺が××。無惨様的に超然とした人間観。
石流さん一瞬すぎ。強さのインフレ化が起きつつある。
それとこれ、五条先生どうなるの?いつかは復活するんだろうけど(そしてそれをとっても楽しみにしているのだけど)、そこまでの道筋が全く見通しつかなくなったな…。

 

え、何これ超ピンチじゃん。どうなっちゃうの??
今回のヨルさんは恥じらい顔がいまいち可愛くなかったな。70点。
奥さんへの恐怖をバスジャックのトラウマにすり替える自己欺瞞、リアルすぎて好き。
怖いよねそれは。

 

 

ちょっと話が拡散しがちかなぁ…5人の悪党のエグさ、じいちゃんの底知れなさ、俊の内面の苛烈さが1部の魅力だったから、テイストがガラッと変わった2部には未だ馴染めないところがある。
麗央ちゃん、これで出番は終わりになっちゃうのかしら。過去体験にはいまいち感情移入できなかったけど、もうちょっと活躍を見てみたい気もする。
××ちゃんのそっくりさんが出てきたのはびっくりした。あの死に方は相当えげつなかったからなぁ…その前に円にも被害に遭ってるし。
続きが読みたいような、読みたくないような…。

 

今回はいろんな出来事が矢継ぎ早に起こる巻だったな。内面描写は鳴りを潜めた感がある。李白は有能だなぁ。
他方、番外編ぽく挟まってる怪談回が不気味で印象に残った。子翠の話は何かの伏線になるんだろうか。
カマキリ怖い。
それと、蛙の件…猫猫よ。今回のそれは真摯な謝罪に値すると思うぞ。マジで謝れ。

 

アラタ、お前は本当にいい男だな…。
ところで、映画化決定、だそうである。

びっくり。


以前も似たようなこと書いたけど、巻を追うごとにどんどん好きになってきてる。キャストはバーンと豪華に頼むぜ。
本巻で、『結婚』の行方は決着した。納得の落としどころと言うしかない。
一方では桜井や周防のそれみたいな結婚観もあり、僕個人としては正直、周防のセリフ*8

「心底ほっとした。」
「『何かを永遠に継続しろって契約』こそが、『地獄』なんだ…って。」

には心底、共感した。でも、それでも、

「ボク、見通しを立てなくするために結婚するんだって思ってたよ」
「ボクは、今 すごく―『自由』!」

(真珠)とか*9

「俺たちの幸せが欲しかった。生まれて初めてそんなこと思ったんす。」
「俺の結婚は、悪くなかったっす。」

(アラタ)とかってセリフ(11巻p189-192)は沁みた。スッと違和感なく入ってきた。
そうそう。それと、アラタが後者のセリフというか、物語を共有する相手としては、サイバンチョさんほどふさわしいキャラはいないよね。*10
本作品は、裁判官を訳の分からない腹黒キャラとして扱うことをせず、一個の人格の持ち主として立体化して描いた、少し珍しいフィクションだという気がする。

 

 

他方、全体的な筋に関しても、凄えな、の一言に尽きる。あるいは、やっぱり凄えな、かな。乃木坂太郎さん。

「ボクと一緒に暮らせる?―じゃあ、出るね。」

から始まったサイコで怪奇的な物語が、見事に伏線回収して、現実感のある話として着地した。*11
次集(2024年1月頃発売予定)完結、だそうである。

 

「だってあの時聞いたんだから。ボクと同類の、獣の叫びをさ…」

と述解した真珠*12が、遂に、自身の獣の叫びを明らかにする。
真珠…死にたいと思ってた時すら気づかずにいた自分の本心に向き合わされて、完全に内閉地獄に落ちたからな。

 


感情移入できるキャラが揃った作品にせよ、安易なハッピーエンドはお断りである。ただ、乃木坂太郎さんの場合、それは全く心配していない。
だから、何とか、救いのあるラストにしてほしい…と思う。

 


新書+α

今回は新書はコレ↑だけ。
職業柄、精神疾患に関しては「よく知りません」では済まされない部分もあるし、何が先天的で何が後天的形質なのかとかは一個人としても興味があるフィールドなので、買ってみた。
自分自身鬱になった経験がある身としては、他人事ではないし。
で、そういう動機で読むには話が先端的すぎた感もあるが、興味深く読めた。
ただ、これも再読対象かな。せっかく読んだのだし、大筋だけでいいから、多少は知識を頭の中に残したい。

 

これ、同じ選書シリーズの一冊『英語の文型』を以前読んで「いいな!」と思ったこともあって、今回、もう一冊手を伸ばしてみた感じ。
地味な見た目に反して(?)、分かりやすいんだよね。各章の最後で「この章の要点」をまとめてくれてるのも親切。
構成も工夫されていて、第一部で英語史を通観し、それを踏まえ、第二部で現代英語のいくつかの特徴を取り上げ、そこに至る歴史的経緯を深掘りして紹介する形式。
内容的にも、基本的なことも漏れなく説明してくれつつ、具体例も豊富だから、飽きずに読める。
まぁ、敢えて欲を言えば、単語レベルの知識(起源、意味変化、発音変化)だけじゃなく、文法レベルの蘊蓄も欲しかったかな。でもまあ十分満足。

 

同じく英語ネタ。
そうそう。前回の日記でPCの故障に触れたけど、修理の間スマホ中心の生活をしてた副作用で、YouTube動画を見る癖が付いてしまった。良くも悪くも。
で、KERさんを見つけてしまった。クッソ面白い。
お三方の掛け合いが和気藹々としてるとことか、常識豊かな範囲内でふざけまくってるところなんかも、無防備な心理状態で見れるから良いね。
堪能してます。そういうわけで、本書も買ってみた次第。

 

日本人が言いがちな英語表現のネイティブへの印象を扱った書籍は昔も買ったり読んだりしたことあるけど、本書は実は、それらと比べて情報量が多いところに特徴があると思う。適切な代替表現なんかも複数挙げられてるし、例文も豊富だし。
それなのに、本文会話形式だから読みやすいし。面白いし。
ハードカバーだけど1300円だしね。これは、お買い得な一冊だと思う。

 


音楽

数年前にハマった曲に再びハマり、エンドレスで聞いている。
凛として時雨『mib126』、という曲である。
動画に関してはオフィシャルなやつはなさそうなので、アップロードは自粛しておきます。お手数ですが、気になる方は適宜検索してみてください。

代わりと言ってはなんですが、収録されているアルバムがこちら↑。最後を飾るのがこの『mib126』。

 

途中、曲調が一気に変化して暴徒化する感じ。そこから最後までの疾走感が凄い。
僕の中で、個人的なイベントのうち、試合前とか試験前みたいなタイミングで聞くならこの曲を措いて他にはない。
脳汁出まくりの一曲である。

 


そもそもタイトルの読み方すら定説がない。僕自身は勝手に「エムアイビーいちにいろく」、と読んでいる。
当然、込められた意味も不明。ただ、ネット上の意見なども参考にしつつ、『mib』は『ミ・フラット』、『126』は『みよこ(345)不在』、という意味かな、と推測している。
音感がある人間ではないので、この曲が本当にミフラットの曲なのかどうかは僕は知らん。

 

 

他方、『345不在』の方は聞けばわかる。時雨ダブルボーカルの片翼、みよこさんの声が入っていない。
時雨の曲のボーカルでは通常、TKが叫んだりして暴れる合間にみよこさんのクールな高音が入り、全体として均衡が採れている。
mib126では、その抑制役のボーカルが不在なわけなので、つまりは均衡が崩れている。そこがそのまま、精神の均衡が崩れたかのような不安定さに満ちた曲調とリンクし、増幅している。
ところで、みよこさんはボーカルのほかベースも担当しているわけだけど、mib126にも、ベース音源の方は(もちろん)入っている。ただ、ベースの音は、何というか、エグい。
途中の間奏部分、TKのギターと手を取り合って、精神の平衡の向こう側へ加速度つけて突撃している感すらある。*13

 


先程から『ボーカル』『間奏』という言葉を何気なく使ってはいるが、この曲の場合、歌詞がもはやイメージの羅列に近いので、楽器演奏こそが主旋律に近く、『ボーカル』はもはや呟きとしての『点』に過ぎない、という側面もある。
ただ、かといってボーカルが脇役に過ぎないわけでもない。
前半の静かな曲調の中では、呪文を唱えるかのようなTKの呟きが印象的な不気味さでもって浮き出ている。
他方の後半は、シャウトがとても効いている。時雨の代名詞とも言えるTKのシャウト。

 


特にこの曲は、聴くたんび毎回、

オレンジプラスミイィーーー
クレィジーダンスィーーーン

と叫びたくなる。

 

 

 

 

 

 

 

*1:さすが結婚式でコスプレするだけある。

*2:正確に言うと「行動のグロテスクさと動機の美しさとの落差が大きい」、だろうか。

*3:当時の僕には、「なんか東京で凝った設定のアニメが流行ってるらしい」程度の認識しかなく、ほぼ予備知識なしに友達と劇場版(物語のラストを見た記憶はないから、たぶん、『劇場版 シト新生』だったんだと思う。)を見に行ったくらいだった。分析本みたいなのも買ったが、物語の筋そっちのけで「死海文書って名前がカッケエな、何だそれ?」みたいな読み方に淫していた記憶である。

*4:(この注釈はモロにネタバレです、未読の方注意→)①主人公(以下「X」)が、何らかの意味で『世界』を救う、②ただ、その『世界』はパラレルワールドのひとつである、③最後に、元の『世界』とは別のパラレルワールドに生き残った人たち(主人公の仲間(以下「Y」)とか)が描写される、④その『世界』では、YしかXのことを覚えていなかったり、あるいは、Yも含めて誰も、自分が今存在しているのがXのお陰だ、ということを知らなかったりする(当該作品の設定次第)、それがなんとも切ないというか、やりきれない読後感を読者に残す…みたいなまとめ方になるだろうか。

*5:こっちに関してはオマージュだという確信はない。というか、そもそもこの種の終わり方をしたのがジョジョが初めてなのか、それとも更なる先行作品があるのかもよく知らない(僕が知る範囲ではジョジョ6部が最初、というだけ)。SF界では昔から知られた手法だったりするのだろうか?

*6:この件、結局、謝罪はされずじまいだよな?もし万が一、私が不勉強で知らないだけならごめんなさい。

*7:書いておいてなんだけど、こう、「法律で特に規制されても違法とされてもいない行為に関して消極的な意見を述べること」について、個人的に、若干の躊躇があるな。法規制を離れたフワッとした倫理に基づく同調圧力みたいなものに対して警戒感が強いからだけど。まぁでもリスペクトを欠いたパクリに関しては、ダメだろ、って思う。

*8:10巻p114-115

*9:7巻p34-36

*10:まさかここで托卵のエピソードが活きてくるとは。

*11:回を追うごとに怪奇色を増してきた『幽麗塔』とは、ある意味、真逆かな。

*12:10巻p109

*13:本文では触れませんでしたが、(TKのみならず345までも"狂"側に加担してる分、)この曲が曲としての体裁を守れているのはひとえに、ピエール中野さん(ドラム)のおかげであると思う。

【日々の雑感】この夏の記憶

ああ懐かしいカスタネッツ


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(約5,000字)

 

 

 

 

 

 

HP

HPのリニューアル作業を進めている。

 

 

「進めている」と書いたが進められていない。法律ブログの方にも書いたのだが、先日、PCが壊れるハプニングもあった。
多少であるにせよ、作業結果の蓄積が全部パアになりかねなかったので、かなり目の前が暗くなった。幸いにしてデータは無事で、本当に良かった。
今さらながら、今後は対策(バックアップ)も考えておかないといけない。

 


ところで、塾講師をしていた頃、結構な量の教材を作り貯めていたので、以前から、
「機会があったら、汎用性の高そうなのを見繕って公開できるといいな」
みたいなことは考えていた。なので、HPリニューアルのこの機会に、ついでにそっちの(趣味の部屋?みたいな)ページもさわりだけ試作してみた。
遊び(息抜き)が3分の1、ボランティア的公共心が3分の1、自身のコーディング練習目的が残りの3分の1、みたいな感じである。

そして今、だいぶ久方ぶりに昔作った教材を眺めたりしているのだが、
「果たして、どれなら汎用性があって、人さまの参考になるもんだろうか」
と、考え出すと結構深刻に悩んでしまう。
僕の元勤務先は、途中で大手に買収されて大きく勤務環境が変わり、以前は好き勝手できていたものが、買収以降はかなり手足を縛られることになったのだけれど。
好き勝手できてた頃、すなわち、「俺の作った教材こそ至高!」などとイキっていた頃の教材は、今見るといろいろ恥ずかしい。
他方、裁量を羈束されてから作ったものは「補助教材」の範疇を超えることができなかったから、その多くが、『シリーズ性』とか『自己完結性』を欠く。しかも当時の入試問題を意識し過ぎているきらいもある。

 


まぁ、あくまで趣味。
長くやってきた前職とはいえ、もう既に神様にお返ししてしまった能力のこと。
気楽にやろうと思う。

 

 


 

この夏の記録

この
「神様に能力をお返しした」
って表現、僕のオリジナル創作表現ではないのですが、どこで接したのだったか、遺憾ながら覚えていない。
とても素敵な表現だと思う。*1
ほんと、どこで接したんだったかな…。。

 

 

 

本にせよ映画にせよ音楽にせよ美術にせよ、著作物、創作物って、ほんとにいいものですよね。
以下、聴いたり読んだりしたものの記録です。

 

 

 

新書+α

完全にその場のノリで、好奇心で買った。特に何も考えてない。
子ども時代にNewtonを買ってみたのと同じノリである。時にそういうノリになることも大事なんじゃなかろうかとか思う今日この頃。
とはいえ徹頭徹尾「全くわからん…」状態はキツイ。だから、本の前半、ちゃんと一般相対性理論とかの基本部分を紹介してくれてるのも*2、本書を買った大きな理由。
結果的に正解だった。特に後半は本当に分からんかった。いや、前半も「ちゃんと分かったんかお前?」と詰められると怪しいけど。

 

なんか本屋さんで平積みされてたから(なぜ今頃?)、今さらではあるが買ってみた。
うーん…まぁ考えてみれば当然なのかもしれないが、法曹が普通に読んでも楽しめる、という種類の書籍ではないかな…、というのが率直な印象。いかんせん司法修習を経て、一定期間、刑事裁判官の法廷での顔と執務室での顔を両方間近で見る経験をした身としては、本書を読んで新たに感じることは特に(ほぼ)ない。
ただ逆に、きちんと業界外の方向けの説明がいい塩梅に交えてあるから、一般の方の読み物としては良く工夫されていると思う。

 

この3冊は、重厚だった。
扱われてる内容を、それなりにきちんと自分のものにしたいと思って買ったし、読了後はその思いが強まった。ただ、一読しただけでは無理だ。
再読しないと。

『戦略がすべて』。瀧本先生の本は全ての行が切実な学びを伴っている。一冊読むと他の著書ももっと読みたくなる。

現代思想入門』。この本のおかげで、ようやく、フランス現代思想のほんのさわりを捕まえることができた(、かな)。正直、ドゥルーズガタリとか、他の本読んでも何言ってるのかさっぱりだったもんな…。
そうそう。本筋とは少し離れた部分だけど、「読書はすべて不完全である」の箇所で書かれていること読んで、少し心が軽くなったよ。

『現実とは?脳と意識とテクノロジーの未来』。これ、ハヤカワ新書創刊シリーズの一冊らしいが、いかに創刊記念とはいえ豪華すぎんか?こんな錚々たるメンツの最先端議論がこの価格で読めていいのか?

 

これだけ新書じゃないのだけれど、電車の吊り広告で見て即購入決心した。
きちんとした肩書の方が書いてくれていて安心。また、経験に照らして腹落ちする内容も多かった。
それこそ、勉強になった。

 

中野先生の書いたウェブ記事を以前読んだことがあって、一度、MMTの考え方がコンパクトにまとまった書籍は読んでおきたいと思っていた。
僕にはここに書かれていることと伝統的経済学の是非を論ずる能力はないけれど、一応、書かれていることは(ある程度)理解できた。
なるほど。

 

前職の関係で興味があるテーマだったので、ためしに買ってみた。ところどころ、「あ、そうだったんだ」、と思う箇所もある。
ただ…この種の『世界史』と『英語』を直結させた各論的文献を読む前に、『英語史』をひととおり押さえることができる書籍を挟んでおくべきだったかな、その方がもっと面白く読めたかな…というのが個人的後悔。
他方、授業で使える小ネタの引き出しを増やす、みたいな読み方をする分には、良い御本だと思う。たぶん。

 

 


小説・随筆など

伊藤計劃さん×2。

伊藤計劃記録Ⅰ』。生前のブログ*3。何というか、虐殺器官とかハーモニーに繋がる思考の萌芽みたいなのをところどころで見つけることができて、ファンとしては読んでいて楽しい。
しかし、本当に伊藤計劃さんって速筆だったんだな…こんな量のブログ、こんな頻度で書けないよ。

メタルギアソリッド ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』。伊藤さんがメタルギアのヘビーなファンだということは知っていたので、そのメタルギアってどんなお話なんだろう、というのはずっと気になってはいた。ストーリー性を損なわず、でも『ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』の前提知識(けっこう膨大)がなくてもきちんと読めるように書かれている。凄い。

 

短編集*4であり、書かれた時期はバラバラ。
本屋さんで見つけて、「こんな短編集出てたのか!」と驚いて買った。
アゴタ・クリストフ節を再び味わえて本当に嬉しい。三部作*5・二戯曲集*6を読んだ時に感じた感情の空気感みたいなものを思い出すことができた。

 

しかし、伊藤さんにせよアゴタ・クリストフさんにせよ、本当に惜しい方が命を失われている。

 

ゴッホの半生の紹介+ご著書の『たゆたえども沈まず』の紹介)÷2、みたいな感じ。『たゆたえども~』のほうは未読だから正直、後者の側面は要らんと思ったが、巧い角度の付け方ではあるかな、とも思う。史実とご自身の創作はきちんと分けて書いてくださっているから、気に障るほどではない。
自分が左脳人間なだけだとは思うが、個人的には、美術作品見る上では画家の人生の知識もあった方が断然楽しめる派。なのでこういう御本はむしろありがたい。
修道院(の精神科病院)においてこそゴッホがすぐれた絵を描いた、という評価は、救いがあってとても好き。*7
なお、以前の日記で「アルルと言えばゴッホのイメージ」と書いたが、アルル行きを明確に「都落ち」と表現されると、何故だか僕も少し落ち込むな 笑

 

 


音楽

この↓曲がいい。ここ半年くらい、毎日聞いてると言って過言ではない。


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「心に花を咲かせながら時を刻んで生きていこう」みたいな曲、かな。直接的に歌詞の中に「花」が何回も出てくるわけではないからあくまで私見だけど。*8
朝起きた時に聞くととても気持ちがいい。*9
前向きな曲。

 

前向きだけど、「もともとネガティブ寄りの人間が、少し頑張って、前向きであろうとしている瞬間を切り取った歌」、だと思う。*10
歌詞でいうと特に中盤あたり。

しかたがないから歌を歌おう
気の向くままにギターを奏でよう
きっと晴れのち雨は降るから
素敵な傘を探しに行こう

とか。

 

「前向きであろうとしている」、と書いたけど、決してウジウジした歌詞ではなく、むしろ潔く割り切ってますよね。それこそ朝の気持ちいい空気が似合う仕上がりになっていると思います。
その塩梅というか、醸し出されてる空気感みたいなものがすごく好きです。
そんな歌詞世界に、リズミカルだけど落ち着いたメロディー、ややゆっくりめのテンポ、Shihoさんの声の透明感(ちょっとかすれ気味)がとてもマッチしていると思います。


映像もいい。
影の、青みがかったグレーの色味が何とも言えない効果を出して、どことなく凛とした雰囲気が出てる。

 

 

 

「花」時計という名前の曲なわけだけど、こう、子ども時代から20代にかけて、自分にとって「花」のイメージって"可憐""か弱い・脆弱"寄りで、自分(男性、大柄)にはそぐわない存在だと思ってたし、特に嫌いではないけど好きでもなかった。
Jポップで言うなら、パッと思いつくのは、ラルクのflowerにおける花のイメージだろうか。


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「かなわぬ想いならせめて枯れたい」とか、冷静に考えて病んでいる。*11返歌を待ってる平安貴族か。


あるいはコレ↓か。PV見る方、涙腺注意。


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この曲の場合は最後ちょっと捻りがあるにせよ、でもやっぱり基本的には庇護の対象だしな。


そういうイメージが少し変わったのは30前後だったかな。
この曲↓の「花」のイメージ*12はとても素敵だと思う。


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凛々としたしなやかな強さ、みたいなものが感じられる花、いいなぁって思う。
ココロに花を

 

エレカシ的ダンディズムにおける「花」まで行くと、またちょっと別の存在という気もしますが。


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はーなーをかーざーあってくうぅれよおー
いーつもおーのへーやにー

 

 

 

 

 

 

 

*1:一応断っておきますが、僕は無神論者であり、いかなる宗教にも帰依していません。

*2:ちゃんと覚えてなくて、科学関係のウェブ記事で出てきたときにもどかしく感じることがそれなりにあった。

*3:まさにこのはてなブログの前身、はてなダイアリーで伊藤さんが付けていらっしゃった日記。

*4:短編というよりショートショートと言った方がいい長さ。

*5:悪童日記』『ふたりの証拠』『第三の嘘』

*6:『怪物』『伝染病』

*7:ゴッホはサン=レミで画家としてのある種の勝利を得た。何かに打ち勝ったという気がします。」p96。

*8:むしろ出てこない。1回だけだし、それも慣用句(「言わぬが花」)としての用例である。

*9:歌詞にも「目を覚ませば幸せな時のはじまりみたいな朝」、などとある。何回か"Good morning"ってフレーズも出てきます。

*10:そういう点で、僕の中では、鬼束ちひろさんの『We can go』と少しイメージがかぶる。旅先なんかでぶらっと散歩するときに聞くとすごくいいんだよなあの曲。

*11:いや、めっちゃ歌いましたけどね。高音出ないくせして。学生時代、カラオケで。

*12:「花のように空をただまっすぐに見られたなら」など。

【映画】PSYCO-PASS PROVIDENCE(承前)

(約3900字)

 

前回のつづきです。

 

 

 

 

 

 

砺波の実像がいまひとつ掴めないって話。

 

そうそう。誤解がないように今さらながら断っておきたいのだが、僕、砺波のあのたたずまい、むしろ好きなんですよ。
表面的には紳士的と言えなくもない、でも静かに狂ってる、老いてなお強い大柄なジイサン、みたいな感じ。
だから若干こだわってるところもあるんですが。

 

で。しかし。

 

 

 

砺波っていうか、ピースブレイカー周辺、よく分からんことが多いな…と感じていたのだが、考えてみれば、それはそれでいいのかな。
今回で全貌を明らかにした体裁ではないわけで、結成の話含め、掘り下げ・情報の補完は今後あるわけだし。
ひとまず、疑問が思ったことを備忘がてら書いておきますかね。
まだ約半月だけど、既に多少忘れかけてるし 汗

 

・前回書いたとおり、多大な犠牲を覚悟してまでストロンスカヤ文書を求める必然性がどこにあったのか、今ひとつ判然としなかった。「ジェネラルの進化・バージョンアップが目的だ」、というだけでは、漠然とし過ぎてはいないかと。
・他方、その意思決定(「犠牲を覚悟してでもストロンスカヤ文書を奪取する」)を下した主体もよく分からない。ジェネラルだとしても砺波だとしても、どっちもしっくりこない気がする。
・というか、考えてみれば、今回の件を離れた一般論として、団体内での砺波のポジション自体も、不分明なところがないではない。ジェネラルが神・砺波が教皇みたいなものであり*1、一般信徒はディバイダ―で精神(の一部)を砺波=教皇に委ねることで色相をクリアに保つ、という設定だったと思うが、そうすると、砺波自身はどうやって色相をクリアに保っているんだろ?信仰心によってジェネラル=神に精神を委ねている、ということだろうか。砺波レベルになるとディバイダ―を「委ねる」方向で使わなくても*2いわば自力で色相をクリアに保つことができるのである、と?
・逆に、ジェネラルがどの程度、砺波から独立して行動をとっているのかもよく分からない。この点に関連して、映画の中盤、シビュラシステムas禾生が「ジェネラルと話をした」って言ってたけど、それ、どうやって話をしたの、という疑問がある。前回の記事で考察したとおり、砺波はそもそも、ジェネラルとシビュラシステムが直接コンタクトをとる事態を想定していたとは思えない。そうすると砺波がセッティングしたわけではないことになるし、かといってシビュラ側からコンタクトしようにも、北方列島はほぼほぼオフラインのはず。そうすると、ジェネラル自らがラファエルを通じてシビュラにコンタクトした、ということしか考えられない気がするのだが、やっぱりこれも釈然としない。ジェネラルが砺波の頭越しに行動したってのは、ちょっと、ジェネラルの存在感が肥大化しすぎる感じがする。
・ところで、そもそもピースブレイカーが(解体後も)海外で暴れてたのは、そうせよとジェネラルが命じていたから、という理解でいいのかな?で、なぜジェネラルがそういう命令を下していたかというと、そうすることが日本の略奪経済を回し、祖国繁栄に寄与する上で合理的だと、AIとして判断したからだ、と。こういう理解で良いのかしら?ただ、いかにジェネラルのオラクルといえど、この考え方、砺波は全力で反発しそうだけどな…だって海外の悲惨を目にして政府に逆らってAI教に帰依したはずなのに、何と言うか、元の木阿弥というか、かえって逆効果というか…
・ちなみに、二分進化説って何?ググっても出てこないんですが…
・以上と方向性が全然違う疑問だけど、ピースブレイカーのアジトのジェネラルがおわすところ、あそこ、ケース入りの脳味噌がズラッと並んでる(廃棄されてる?)描写ありましたよね、確か。

アレ、何?

ジェネラルってあくまで補助AIであってシビュラシステムとは質的に異なる存在だ、という理解で良いのだよね?
博士の脳味噌で文書を代用しようとしたってのは、よもや、砺波がシビュラシステムの正体を知っていたということではないよね?*3

 


…こんなところだったかな…。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

以下は本当にただの感想。

 

 

 

キャラの変化。

狡嚙の角が取れてきた一方、須郷パイセンが凄い人になっていく 笑

いや、須郷さんの空中戦、すごかったなアレ。主役級の活躍じゃないですか。
ラファエルのビジュアルも恰好いいしさ。レーザーが発射されるときのあの「ビイン」って音、耳障りでえげつないし。
あそこは見応えありましたね。映画館の大画面で見た甲斐あったよ。

 

一方で、狡噛の突っ走りがちなところが、ほんのちょっとだけ、鳴りを潜めてきた。ような気がする。
今回も一応、一匹狼としてではなく、チームの一員として動いてはいるしね。*4
まぁ、これは気のせいかもしれない。宜野座さんの発言*5に引きずられてるだけかもしれない。砺波のことも結局殺しちゃったし。煇のこともすーぐ「殺す…!」とか言うし。
ただ、狡嚙も『恩讐の彼方に』で思うところあって帰国したわけだし、多少は丸くなっていなければ噓ではある。砺波を殺したのだって冷静に汚れ役を引き受けた、みたいな感じだったし。*6
煇のアレは完全に沸騰して我を忘れてましたけどね 笑

そうそう。煇とのアレ。狡嚙、ふつうにやられたじゃん。ちょっとびっくりした。
でもいいよ。無双されてもそれはそれで微妙だし、それにFirst Inspectorで炯が狡嚙に歯が立たなかったの思い出して、
「兄貴はこんなに強かったのか…」
って胸熱でもあった。

 

それと、三期以降、サイコパス、一期の描写を微妙にかぶせてくるね。
煇と狡嚙の戦闘シーン、資料室を無理にホロで屋外っぽくしたの、完全に槙島との対決をなぞったね。*7
三期でトーリが舞子を人質に取ったシーンも、槙島とゆきのアレだったし。
そして、かぶせた上で外してくるね。

 

 

ところで、僕はギノザーなんだけれど。
宜野座さんの髪型、同じロン毛でも、毎回、微妙に変わってるね。しかし相変わらずイケメンで万能だ。
最後のフレデリカとの共闘はフラグかしら。

 

 

 

 

テーマについて。

本作のテーマは、徹頭徹尾、一貫してましたね。最初の会議から最後の朱の行動、狡嚙への手紙、そして法務省の解体の白紙化に至るまで、もちろん砺波の思想と朱の信念の対立軸も含めて。
人の創った不完全な法というものに、果たして積極的な存在意義はあるのか、と。

僕にとっては職業柄、とてもリアルに感じる問題でもある。で、この作品の、人を法の能動的な作り手として描いている点がとても良かった。
砺波との対決時の朱の咆哮は痺れたね。
シビュラは絶対じゃない、人はシステムと共生していかなければいけないんだと。
人は神から与えられる幸福を口を開けて待っているだけの浅ましい存在などではないんだ、システムの奴隷となり果てた先に存在意義などないのだ、と。(意訳)

 


しかしこの場面、直前に砺波が「お前はこの世に混沌をもたらす魔女だ」みたいなこと言ってたこともあって、僕の中で、原作ナウシカの名ラストとすげーかぶるんだよな。*8
単に自分の趣味のせいで認知が歪んでるだけなのか、本当にオマージュとして寄せてきてるのかが判断つかん。
まぁ前者の側面は確実にある。前回の記事の注でも触れたが、僕、伊藤計劃テイストも微妙に感じる。
人(クソデカ主語)って、認識対象の中に自分の見たいものを見出すよね。

 

 

 

 

美術面。

上でも書いたけど、須郷の空中戦は凄かった。
それと今回、背景がすごい細密で綺麗に感じたな…それこそ資料館のホロもそうだし、霧にけぶる出島とか、北方列島のアジトとか。
前回の劇場版のFirst Inspectorがほぼ建物内で完結する話だったのに対して、今回は盛りだくさんで常に新鮮に見られた。
むしろ、雰囲気出し過ぎですよ。狡噛の出島で泊まってた部屋の壁一面の図書とか絵とか、凝ってたなぁ 笑

 

 

 

 

 


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大好きな凛として時雨ですが、曲名がしばらく覚えられんかったよ 笑
自分が時雨にはまったきっかけは、abnormalizeとEnigmatic feelingでした。そのせいか、サイコパス絡みの時雨の曲は特にスッと入ってくる。歌詞もサウンドも。

 

 

 


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他方のEgoistさん、今回はこういうテイストで来たか…という感じ。
屍者の帝国の『Door』に多少近いが、より軽やかかな。自分はこっちのが好みですね。
これ、映画館で流れただけだと分からなかったけど、朱が最後にしたことと歌詞をかぶせてるんですね。巧い。

ジャジーサウンドと鋭さのある歌詞が不思議と調和してて、とても素敵な仕上がりの曲だと思う。

 

 

 

 

 

*1:雑賀と狡嚙の会話で砺波が自分を使徒に重ねている的な指摘がありましたからね。ペテロじゃなくてパウロでしたが。

*2:たぶん、砺波は一般信徒を「操る」方向でしかディバイダ―を使ってないよね?自分は映画見た感じでそんな印象を持ったのだけれど。それともそこから違うのかしら。

*3:期を重ねるごとに、こう、過去・未来両方向でシビュラシステムの正体を知っている人間が増えてきてるせいでともすると忘れがちですが、アレは一応、超超超・超最高機密って設定である。

*4:ただま、言うてサイコパスは執行官の群像劇みたいな色彩も強いから、チームプレーと個人プレーの境界が曖昧なとこありますけど。

*5:「ほんの少しまともになったな」だっけか。

*6:サイコパスって、執行官を止めようとする監視官の判断を常に全面的に是とはしないよね。良くも悪くも。三期でも灼、自爆テロ犯を無理に捕まえようとして入江と廿六木にキレられたし。

*7:馬は謎。

*8:そうすると、狡嚙は巨神兵(オーガ)ということになる 笑

【映画】PSYCO-PASS PROVIDENCE

(約7,000字)

 

見てきた。

psycho-pass.com

注:以下の内容は思いっきりネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

ワシらの朱ちゃんを何泣かせてくれとんのじゃ(激怒)*1
…と思わずにはいられない終わり方でしたが*2、まぁ三部で朱が施設に入ってた時点で、これは既定路線であったはずではある。そりゃ泣くだろう。別に朱は免罪体質じゃなく、色相が濁りにくいってだけなんだから。

 

そして、いつからアニメ*3って、こんなに難解になったんですかね。

2回見た。でもまだ全部は分からない。


というか今作=劇場版第三作の場合、内容的なつながりが強い三期・劇場版第二作の公開から時間がだいぶ経ってしまっていて、僕の方がそもそもの前提知識を忘れてしまっていた、という事情もある。だから、映画1回見てから2回目見るまでの間に、三期と劇場版第二作も見直してみた。

psycho-pass.com


まあ、大まかな流れは掴めたかな。

 

 

 

 

 

だいたいわかったこと。

三期で新たに主人公になった二人(慎導灼と炯・ミハイル・イグナトフ)が監視官になった動機は家族(灼は父・篤志、炯は兄・煇)の死の真相究明にあったわけだけど、それは結局、三期の中でも劇場版第二作でも明らかにされてこなかった。
それが、本作で『一応は』明かされた。

 

すなわち、篤志は、シビュラシステムとの取引の結果として自殺した。シビュラは、篤志が惹起した事態の収束のためには篤志を自殺させて罪をかぶせることが合理的だと判断したんだと思う。*4その代わり、「息子や友人たちの安全は保障」し、「餞別だ」と言って銃を渡した。*5で、篤志はその『取引』を受け入れて自殺した。
他方、煇は、ピースブレイカーの洗脳に決死の抵抗をして自我を維持し、篤志に自分を撃たせた。俺を撃て、炯のことは頼みます、あいつには俺とは違う道を、と言って。三部では、篤志が煇を殺した、という事実の真偽が問題になっていたが、表面的には事実・ただしそれは煇自身が望んだことだった、というオチを付けた形である。

 


しかし、これだけの説明で灼と炯が納得できるかと言うと、それは無理なはずである。だって、これで分かったことって要するに、⑴ 篤志と煇が対立して死んだわけじゃないこと、⑵ 二人がそれぞれ(究極的には)灼・炯のために死んだこと、の2点に尽きるんだもの。なんで篤志が今作冒頭の事態を仕組んだのか*6、なぜ煇が自分の顔を焼いてまでピースブレイカーへの潜入に志願したのか、そこが分からないと「なぜ二人は死ななくてはいけなかったのか」の答えにはなってない。
シリーズの一連の流れで言うと、今作は、劇場版第二作のラストで朱が灼・炯に「自分が知っていることを教える」と言った直接の続きであり、その「自分が知っていること」の内容が(ほぼ)そのまま今作の内容だ、という体裁になっている。*7もっとも、朱もすべてを知っているわけではないから、朱は(今作で)灼には自力で真実を探しなさいと言ったし、三期中のモノローグでは「二人に真実を探すことを託すことにした」旨述べていた(よね?確か。)。
で、後者の「真実」の中身には、必ず暴くと砺波に約束した「ピースブレイカー隊が作られた闇」も含まれているんだろうと思われるし、煇が潜入した経緯は、それと不可分に結びついているんでしょう、多分。また、篤志がインスペクターでもあり、さらにはシビュラの実体も知っていたことからすれば、篤志の死の(広義での)『真相』には、シビュラやビフロスト成立の過程も含まれるんでしょう。
他方、三期以来謎な存在である法斑静火の内面については、今作では一切触れられていない。ワンカット、親父さんと映っただけ。

 

 

…なので。

四期は、三期の後の話を描きつつ、事件の捜査の過程で上記の諸点が明かされる、みたいな構成になるのだろうか。*8
遂にこう、物語の根幹であるシビュラの成り立ちと絡めつつ、物語が大きく収束に向けて動いていく予感がしますな。
今からわくわくが止まらないぜ。

 

 

 

 


…と、こんな感じで、シリーズの中の本作の位置付け、一連の流れみたいなものは、大まかにはまぁ、把握できたかな、と思う。
他方、分からんのは、ピースブレイカーを率いる砺波のビジョンみたいなものである。

 

 

よくわからないこと。

ビジョンというと語弊があるかな。終局的な目的あるいは理念みたいなものは物語終盤で繰り返し触れられていて、

「人を支配するのはAIであるべきだ、人は人を支配してはいけないのだ」

というもの。*9
それは良いとして、分からないのは、もうちょっとブレイクダウンしたレベルの行動目的というか、行動原理というか、実像とでも言えばいいのか…

 

うーん、説明しづらい。

 

 

 

ひとまず、
「なぜ砺波はストロンスカヤ文書を欲したのか」
という問題に焦点を絞ってみる。

 

 

物語が中盤に差し掛かったあたりの煇への取調べの中で、ストロンスカヤ文書の内容(民族対立や大衆の暴走を予測し数値化したシュミレーション理論*10)が明かされ、それを使えば、シビュラが世界に与える影響を予測でき、紛争の予防も拡大も可能だ、ということが述べられる。このとき、砺波の目的は紛争の拡大であろうと予測がされ*11、僕ら観衆としては、以後そういう頭で映画を見る。
しかしさにあらず、砺波の理念は、実際は社会に平等をもたらすことだったことが後に砺波自身の口から語られる。そのために人はAIに帰依すべきなのだと。しかし自身らの神たるAI、ジェネラルは不完全である、ミリシアの脳で代用しても補完は叶わなかった、と言い、だからストロンスカヤ文書を渡せと朱に迫る。
僕としては、なるほど、砺波の目的は人類のハーモニクスか、この世の悲惨をなくそうという話か、紛争の拡大とはむしろ真逆の方向性だったのかと、一旦、納得した。

 

しかしその後、また分からなくなった。それは、

①朱が、あなたの神様にストロンスカヤ文書を入れる、ただし正しいやり方で、と言って、ドミネーターをジェネラルに向けて放り投げ、
②それを止めようとした砺波の手をすり抜け、ドミネーターがジェネラルに接触すると、
③ジェネラルが反応し、「約束の地でシビュラシステムと一つになる」「不要な端末を消去する」と言い残して*12、シャットダウンしてしまう、
④それを見た砺波が「それがあなたの選択か」「しかしシビュラとの統合は遅かれ早かれ辿る道だ」*13みたいなことを言う

という場面があったから。


え?どういうこと?
朱の言う「正しいやり方」って何?普通に砺波に渡すんじゃダメなの?
そして砺波は結局何がしたかったの?シビュラとの統合を強く拒否するわけではなく、でもそれが現時点でなされるのは想定していなかった、ということ?
それってどういうビジョンなわけ?
ストロンスカヤ文書を入れることで、ジェネラルがどうなると想定していたの?
…等、一気に混乱した。

 

 

 

 

 

 

で、見終わってからいろいろ考えたのだけれども、僕個人としては、結局、砺波はその点(ストロンスカヤ文書を入れることで、ジェネラルがどうなるか)について明確な想定は持っていなかった、と考えざるを得ないと思う。だって、そこを具体的に掘り下げるヒントになるような描写、いくら思い出したって、なかったもの。
たぶん、単に、あるいは漠然と、ジェネラルが進化する、くらいの認識でいたんだと思う。
他方、朱の言う「正しいやり方で」文書を入れる、というのは、文字どおりドミネーターを媒介する、という部分がポイントなんだろうと思う。媒介すると言うか、起動されたドミネーター=シビュラと繋がった端末とワンセットで、文書を渡すことが。

 

整理してみる。
.まず実践的な側面から言うと、ストロンスカヤ文書はすなわち、シビュラが世界に与える影響を予測することを可能にする理論である、という設定である。ここで、シビュラの効用・必要性を肯定する朱からすれば、その「影響」とは一言で言えば、世界により良い状況をもたらす、という結論であるはずである。となると、朱にとって文書とは、直観ではなく理論により、相手がAIであっても説得可能な形で、シビュラの有用性を基礎付け裏付ける代物、という位置づけになる。よって、(AIであると想定されるところの)ジェネラルに文書を渡せば、ジェネラルもまた、シビュラの必要性を理解するはずだ。*14つまり、

  ジェネラル+ストロンスカヤ文書=シビュラの必要性を理解したジェネラル

ということになる。

  では、そのような文書とともに、シビュラにアクセスする媒体、すなわち(起動された)ドミネーターをもジェネラルに渡した場合、ジェネラルは、どういう行動に出るか?すなわち…

  ジェネラル+ストロンスカヤ文書+起動したドミネーター

 =シビュラの必要性を理解したジェネラル+シビュラへのアクセス媒体

 =?


  …以上のような思考の筋道で、朱は、「起動されたドミネーターに文書を入れて渡せば、ジェネラルは、シビュラとの合一を選択するはずだ」、という予測を立て得たのだと思う。
.ではそれが「正しいやり方」だ、というのはなぜか。

  ここで、シビュラは、単に文書の交付を朱に命じただけであることからして、今回、いわば一気にジェネラルと合一しようとまでは考えていなかったことになる。だから実際、ピースブレイカーの独立を認めるつもりだった。しかし、朱はそれを是としなかった。シビュラと違い、(日本)社会が安定しさえすれば良い、手段は不問であるとは考えず、砺波はじめピースブレイカーたちには然るべき裁きが下されるべきだと思料した。よって、砺波(たち)は逮捕される必要があるし、そのためには結局、組織としてのピースブレイカーは解体する必要がある。
  だから、紛争を命じることも厭わない存在としてジェネラルが存続することもまた、許すわけにはいかない。ジェネラルは、シビュラと合一されるべきである。したがって、ただ文書を渡すだけではダメであり、ジェネラルがシビュラとの合一を選択するであろう形、すなわち、ドミネーターとセットでなければ「正しい形」とは言えない。

  …こういうことなのかなぁ、と思う。たぶん。
.他方、砺波の思考はどうか。
  砺波は確かに、AIへの帰依による人類のハーモニクスを望んでいる。そのために必要というならば、ジェネラルとシビュラが合一すること自体については、拒絶するつもりは特にない。ただ、シビュラを肯定することと、日本社会への評価は別である。シビュラを奉じているはずの日本社会は、未だ、人が人を裁くための法を捨て去ってはいない。だから間違える。現に自分たちピースブレイカーは、歪んだ人為によって略奪経済の道具にされ、世界に惨苦をまき散らし、そして使い捨てられた。ゆえにこそ自分たちは帰国命令を拒絶した。よって当面、砺波としては、シビュラの友好国として独立するという途を採るしかない。
  しかも実際上、ピースブレイカーの本拠地たる北方列島は、電波状況が悪く、ドミネーターの継続使用もできない。そのような場所だから、シビュラがジェネラルと接触すること自体、そもそも想定の外にある。それは、敵勢力が攻め入ってきたとしても同じである。ピースブレイカーの殲滅を望むなら、ドミネーターに固執する必要はない。単に重火器を使えばよいのだから、わざわざ苦労してオンライン状況を作ることに戦略的意味はない。
  しかし、朱はそうは考えなかった。わざわざラファエルをハッキングしてまでドミネーターを使ってきた。そしてそこに文書を入れた。しかも、ジェネラルとシビュラの合一を意図して。
  …たぶん、朱がドミネーターを放り投げた瞬間、砺波が以上の全部を理解したわけではないと思う。オンライン状況自体が想定外だし、それに起因するディバイダ―の変調で頭が割れそうな状況下でもある。*15仮にハッキングによって電波が逆利用されていると気づいたとしても、それが(頭痛以上に)何を意味するかなんて分かりようがない。朱が本当は文書を持ってきていたことだって、ほんの数瞬前に知ったのだから。
  しかし、朱が狙ってドミネーターを放った以上、それは止めるべき行為であると、いわば条件反射的に判断したはずではある。だから手を伸ばして防ごうとした。でも間に合わなかった。
  そして、結果として、ジェネラルはシビュラと合一し、消滅した。
  それは、砺波としては、先々であれば受け入れる余地がある事態であったが、現時点で起こることは、決して想定していなかった。現在の日本政府を肯定できないのと同じように。
  だから、落胆した。「ジェネラル、それがあなたの選択か」、と。

 

 

 

 

 

…ということかなぁ、とは思う。現状、僕としては、これ以外に整合的説明が付けられる解釈は思いつきそうにない。
そうは思うんですがね。

 

そうだとすると、話は戻って、結局、砺波は、
「ジェネラルにストロンスカヤ文書を入れることで、具体的にどうなるとは想定していなかった」
「漠然と、ジェネラルがより完璧な神に近づく、と理解していた」
ということになるわけで、それが何とも釈然としない。
だって、映画冒頭の戦闘シーンも出島襲撃の戦闘シーンも、激しいよ?ピースブレイカー側も死者が出てるどころの話ではないしね。砺波自らが同胞を操って自爆させたりしてるし。
ジェネラルは現状でも十分、信仰対象として求心力を備えているのに、言ってしまえば具体的効用も不明なアップデートっていう漠然とした目的のために、仲間を死地に行かせるかね。*16

本来は博愛主義者に近いはずなのに、やってることがそれこそサイコパスということになって、砺波の実像が微妙にぼやける。*17

 

あるいは、「文書を手に入れよ」っていうのは、砺波の判断じゃなくて、ジェネラルのオラクルなのか、と考えたりもする。ジェネラル自身が、自身の進化のためには文書が必要だと判断し、入手するよう砺波らに命じたのだと。
…でも、その場合、
・(軍事転用されたとはいえ、元は)単なる補助AIに過ぎない、というジェネラルの位置付けが一気に(いわば)主犯級に変わりかねず、物語全体の印象とだいぶ大きな齟齬を来すし、
篤志(と矢吹)はピースブレイカーが文書入手に動くことを見越してわざとミリシア来日の情報を漏らした、という設定だから、文書入手すべしと判断したのが(砺波ではなく)ジェネラルだ、ということになると、篤志が思考を読んだのもまた、砺波ではなくてジェネラルの思考だ、ということになる。それもまた何と言うか、違和感が拭えない。
・他方、それならそれで、やっぱり砺波の人物像がぼやける。地獄を見てAIに帰依した一個の強固な人格の持ち主、という位置づけから、ただのジェネラルの傀儡に成り下がりかねない。

 

 

 

…ちょっと中途半端なところですが、だいぶ長く書いたので、続きはまた後日にします。

 

 

 

 

 

*1:最後のは耳にしばらく残っちゃうような号泣だったし、その上さらに、雑賀教授のくだりでも1回泣かせてますからね。

*2:狡嚙先輩にキリッとされてもワシらの救いにはなりませんからね 笑

*3:というか映像作品、又はフィクション全般か?

*4:篤志は、シビュラがそう判断することまで織り込み済みだったみたいですが。

*5:ここ、かぎかっこの中のセリフは映画の中で述べられたセリフですが(ただし、まんま正確かは自信がないです。以下同じ。)、地の文の部分は文脈に基づいた僕の推測です。

*6:作中ではもったいぶった言い方(「想像力が豊かだね」)で暈されてるけど、ピースブレイカー側に情報漏らしたの、篤志(と矢吹)だよね?

*7:ただ、そうすると、朱は、今作、すなわち自分の知っていることを灼と炯に伝えた段階で、シビュラがどういう存在であるかも炯に知らせた、ということになる。劇場版第二作のラストで灼と炯は「お互い秘密ができちゃったけど、いつか必ず隠さず話すよ」みたいな約束をしたわけだけど、その秘密の片方(灼の方の秘密)であるシビュラの秘密を、朱が一方的に(いわば)暴露してしまった形になってしまう。そこは今後、どういう整合性をつけるつもりなんだろう?(それとももしかして、灼の方の秘密がシビュラの内実だ、っていう解釈の方が間違いだったかな?僕、当然そうだと思ってたんだけど…。)

*8:そんなの一期の尺に収まるのかな、という疑問はあるが。

*9:個人的には、伊藤計劃さん作品でいえば『ハーモニー』でミァハが目指した人類のハーモニクスに近いものかな、という印象。

*10:こっちは、『虐殺器官』で言う『ジョン・ポールのメモ』、『虐殺の文法を生成することができるエディター』(同書p394)みたいなものかな。

*11:これ、狡嚙が言ったんだっけ?フレデリカだっけ?

*12:厳密に言うと、後者の方は、ジェネラルを吸収した後のシビュラのセリフだっけか?よく覚えてないや…。

*13:ここのセリフは特に超あやふやです。肝心なとこなのに面目ない。

*14:ここは、シビュラがジェネラルを話の分かる相手として認識したこと、つまり「ジェネラルがシビュラと同一目的(社会の安定)を有し、かつ、目的のために合理的手段を選択する存在であること」もまた前提となる。

*15:砺波も痛がってましたからね。

*16:というか、今回のミリシア襲撃・出島襲撃もさることながら、海外における従前の破壊活動自体、そもそも何のためにやっていたの?、という話でもある。平和のために必要な過程としての戦争だった、みたいなロジックなのかしら。

*17:まぁ言うて狂信者だ、みたいな粗い理屈は立つのかもしれませんが、それは暴論じゃなかろうか。

【日々の雑感】<mourn>

気付けば3か月ぶりかあ…まぁ、忙しかったしな…。

 


(約4500字)

 

 

 

 

司法修習地について。

 

昨日、サウナに入っていたら、某バラエティ番組で、我が修習地の商店街を舞台にお笑いが繰り広げられていました

本当に懐かしかったです。修習地、自分にとっては、故郷よりも故郷な存在です。

 


司法試験に受かった後、実務に出る前に、我々はちょっと長い間、司法修習と呼ばれる(いわば)見習い期間を経ます。*1
期間・時期・やり方は期によって微妙な変遷があります。ただし、中核は変わりません。各地の裁判所所在地に散らばって受ける、実務を間近に見てのトレーニング(実務修習)です。我々の言う「修習地」というのは、この実務修習を自分が受けた場所のことを言います。
僕(71期)の場合は、司法修習じたいが12月初めから翌年の12月初めまでの1年間で、そのうち1月の頭から9月の終わりまでの9か月が実務修習でした。*2

 

地方会の場合、本庁裁判所・検察庁、そして弁護士の先生方皆様が、我々を歓迎して下さいます。全体としても、お一方お一方としても。
また、同地修習生じたいもそんなに多くはなりません。僕の場合は18人でした。結果、(良くも悪くも)関係は密になります。

 

僕は、こう、恩師なり友人なり、「今の状況が落ち着いたらご挨拶に伺おう、飲みに誘ってみよう」などと思っているうちに機会を逸して交友関係が希薄なりがちなタイプなのですが、結果としてそうなりがちなだけで、会いたい人には本当に会いたいと思っているわけで(誰に対する言い訳ですかね 笑)。
上記番組を見て、その人たちの顔が浮かびました。

 

みんな、どうしてるかなと。どちらかというと、多かれ少なかれ大変な思いしてる可能性の方が高いと思うけど。
別にいいことだとも悪いことだとも思ってはいないが、僕は、一応まだ、バッヂは外さずにやっています。

 

あまりしょい込み過ぎず、気楽にと言うと少し違うが、まあ、多少淡々と、それなりに平和にやっていけたらいいよな、お互いに。*3

 

 

 

 

 

 

 

以下、ここ数ヶ月の間に読んだマンガやら本やら、聴いた音楽のうち一部の記録です。

 

 

マンガから。

 

真希かわいい。最後急展開。

 

ビディかわいい。部長がフィオナに目つけてたの草。

 

この漫画、ホワイダニットの解明にカタルシスがある上、微妙な心理の描写がすごくお上手で、読むたびに何かこう、新鮮な気持ちになるんですよね。*4
でも紅娘こわい。

 

9巻、よもやのオチ…ネットで「こいつ怪しくね?」とか言われてたのは知ってましたが、職業柄と言うのか何というのか、それはないと思ってました。安易なそのオチは寒いぞと。
しかし、予想のナナメ上を来た経緯でしたね。それに、確かに言われてみれば、伏線はいくつか張ってあったんだよな。婚約不履行で訴える云々のくだりはさすがに不自然だし。*5
で、10巻。セリフにいちいち、共感できるところが多かったなぁ…。

乃木坂太郎さんの漫画、いつもこうなんだよな。
話の中盤あたりから怒涛の展開になってきて、いろんな描写がグサグサグサグサ刺さってくるんだよ。

 

 

以上に加えて、中武士竜さんの『十字架のろくにん』を一気買いしました。最新刊の10巻だけ画像貼り付けます。

別マガ(購読してる)に載ってた頃(超初期)おもしれえ!!って思ってたんですが、すーぐマガポケ(購読してない)に移籍しちゃって、以降の展開を追えずにいました。ようやく追いついたぜ。
まさかの第二部的展開ですよ。わくわく。

 

 

次、小説。

 

裏表紙のあらすじ読んで、表題作がなんか伊藤計劃さんっぽいなーって思って、気になって購入しました。
初ハードSF。こういうのか、ハードSFって。
3つの短編(中編)が入ってますが、1編め、これは……いや、やめよう。ネタバレになる。

 

 

淡々とした筆致がいい。
ちなみにマティス展、今、東京都美術館でやってますね。行きたいな。

 

 

新書。

 

前者は流れを付けて説明してくれてるから、それなりに頭に入ってきやすかったな。

 

 

業界変化の予想内容がちゃんと具体的なのが凄いな。
これ、シリーズものなのね。気が向いたら他も読んでみよう。

 

隣の芝は青い、みたいな読後感で終わりがちなこの種のテーマだけど、ちゃんとフィンランドの課題にも随所で言及されてるのが良心的。
しかし、いいなぁフィンランド…パーソナルスペースが広いって話、初めて聞いた。
バス待ちの画像って、例えばこれか。
いいなぁ、この国民性…いいなぁ……距離感が遠いのに、ものすごく親近感がある…。

 

最後、音楽。*6

ちょっと前にご紹介したことがある『Ghost of a smile』、ふと思いついて、カバーの聞き比べをしてみた。

 

EGOISTさんの本家本元だけど*7、僕、最後の最後の、「散歩でもしに行こう」と「君に会いたい」の間のとこが超・絶妙で、すごく好きです。
ここ、それまでずーっと4分以上抑制して歌ってきた感情が、一瞬だけ迸る箇所なんですよね。かといって絶叫するわけではない。
"ah"が2回入るんですが、特に1回め、声が揺れてタガが外れかけるところがすごくいい。で、2回めの、かすれて悲しみに満ちた"ah"が続いて、血を吐くような「君に会いたい…」に繋がる。
歌詞の詠み手の感情が凝縮されているようで、とても、とても好きです。

 

 

 

で、カバー。
いろいろ聞きましたが、本家に近いのは、花鋏さんのバージョンかな。


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染み入るみたいに、声がスッと入ってくる。

 

 

他方、以前ご紹介したLuciaさん&ぱあぷさんverは、なんというか、豪華版というか、sanctified verとでも言うか。*8


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この曲は慟哭と抑制の絶妙なバランスで成り立ってるわけだけど、それを2人の歌声を合わせることで表現してらっしゃるところ、新鮮。

 

 

男性ボーカルによるカバー、というのもいくつかお見掛けした。


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その中で一番イイな、と思ったのは、この↑甲斐田晴さんのバージョン。*9
正直、歌詞的に男性が歌うイメージはなかったのだけれど、この方のカバーは、キーを下げてらっしゃる分、特に前半、囁いてるみたいな静かめのトーンを実現できてて、違和感がない。と同時に、間奏後の後半の感情が入ってる部分との歌い分けが効いてる気がする。

 

 

さて、今回一番「これはいい…」と感じたのは、実はEnglish Coverである。Leirionさんという方が翻訳して、かつ歌っていらっしゃる。


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ご本人様のブログのうち、掲載箇所は【こちら】。
僕は純国産人間ですが、これがすごく工夫された訳であることは感じ取れるし*10、しかも、ただ訳しただけじゃなくてメロディーに乗せて原曲と同じように歌えるように仕上げられているなんて、凄いな…の一言に尽きる。

 

僕は曲の好き嫌いに歌詞の内容が影響する程度(割合)がかなり高い人間です。歌詞重視派。
で、僕は、この曲をもともと日本語で聞いて好きになったわけですが、当時の感動みたいなものは、何度も繰り返し聞いてるうちに、どうしても、少しずつ薄れてくる。
それが今回、Leirionさんの英語バージョンを聞くことで、この曲の歌詞に初めて接したときの新鮮な気持ちを再体験することができた。これは初めての経験でした。まさか、同じ曲の歌詞で2回、感動できるとは思わなかった。

 

 

 

また、お陰さまで、この曲を通じて、僕の中で、(改めて)故人を弔うこともできた。

 

 

 

この場を借りて、Leirionさんに、お礼を申し上げたいと思う。

 

 

 

 

</mourn>*11

 

 

 

 

 

 

*1:なお、締め括りには、地獄の試験が待っています。

*2:ちなみに、今年(令和5年)から、司法試験の日程が7月中旬に変更になります(僕の時は5月)。で、当然、それに伴って司法修習(今年受かった方々は、77期司法修習生になられます。)の時期もずれ込んで、今後は3月半ば開始になるみたいです(いくつかのサイトでそう書かれてただけでソースが見当たらず、未確認情報ですが。)。とすると4月初旬~中旬に実務修習開始かな。それもまた季節柄、風流ですね。

*3:同期に話しかける口調で書いてしまったが、恩師の先生(弁護修習指導担当)はお元気だろうか。事務所の事務局の皆様はお元気だろうか。気さくに飲みにつれていって下さった、裁判官の皆様や弁護士会の先生方はご健勝だろうか。

*4:ただ、僕、原作小説未読です。読みたさバロメーターが閾値に達したら一気買いしようとか思ってます。

*5:フィクションに業界的自然さをどこまで求めるかの問題はあるけど、乃木坂太郎さん、基本的には、本当によくお調べになってるんだなぁ…と随所で感じる(法廷でのやりあいは変だけど、まぁ、ここはしょうがないよね。)。

*6:Ghost of a smileの話で書き疲れた笑 新たに接した曲の記録はまた今度。

*7:ライブ版じゃないやつでオフィシャルな動画はどうやら見当たらないっぽいので、他の方が上げてるEGOISTさんのボーカル音源貼るのも自粛しておきます。

*8:SingLikeTalkingがシングル『Spirit of Love』をアルバム『Welcome to Another World』に収録する際、アレンジを施してSanctified Versionと名付けた、という少しマニアックな事例がある 笑

*9:ただね、肝心なところで歌詞間違えないでくださいよ!

*10:むしろ、目から鱗でもある。なるほど、「見たことないような顔で」とか「僕の分まで泣かなくていい」とか、そんなふうに訳せるのか…と。

*11:元ネタは、分かる人には分かるでしょう。

【小説】Echo

(追記部分含めると、約1800字)

 

 

浜松の砂浜で大きい鉄球が見つかった

…という不思議なニュースを今日サウナで見て、「ほええ?」となるとともに、『Echo』という短編を思い出した。

 

第二部『Farside』の9/10篇目、全体ラストの一つ手前の短編。

砂浜で波に洗われている不思議な箱が実は巨大知性体エコーで、子どものこんにちはに対してこんにちはって返してくれる、というお話。

 

 

これをついさっき読み返しました。

何かレビュー書けるかなと思って日記をつけてみたけど、ダメだ、いまいち言語化がうまくいかないや。今度気が向いたら追記します。

ただ、アレですね。正にこう、(サウナにせよ何にせよ)ほっと一息ついて、少しだけ日常から距離とったところで読み返すと沁みてくる小品ですね。

『ただ入り組んだだけのこんにちはの挨拶』があって、そして『何かが通じてしまってい』て*1、子どもたちがこんにちはを返す、っていう構図とか。

沁みてきて、ホッとします。

 

 

まぁ、浜松のアレはもちろん散文的な代物で(笑)、僕がサウナで見たテレビによれば、南のほうの漁業関係者の方が使うブイの一種ではないか、とのことでしたが。

 

 

 

*(2/24追記)

再び読み直した。やっぱり良い。特にラストシーン間際、p333-335のワンパッセージがすごくいい。

 

すごくいいんだけど、この短編、というかSelf-Reference ENGINEの短編全部(何なら円城塔さんの小説ぜんぶ…って全部は言い過ぎか、さすがに)、筋を要約して説明するのがめっちゃ難しいんですよね。*2

えーと。

巨大知性体エコーは元人間で、3回(実質4回?)ノーベル賞を受賞したという設定のとんでもない異能者なのだが、他方で、ナイフとフォークで食事をしたい、両手で恋人を抱きしめたい、ピアノを弾きたいと述べる人間らしい側面も同時に描かれている(そして、自身の失った両手を、あっけなく(あっけないように読める感じで)生体融合技術を用いて自作する 笑)。*3

そんな人物が『立方体をした非晶質金属体』、すなわち巨大知性体として『自分をリプレースした』上で沈思黙考みたいな状態に入った、その現在の内面が詩的な形で綴られている短編です。*4

 

人間の言葉では語り得ず、人間の思考では思考し得ない事柄を思考すべく、エコーは、知識欲に基づき、自身を適宜の構造物として再編した。*5

しかし今、自分は今、もう一度、誰かへ伸ばせる両手を作り、自身の内面を喚いてみようと考えているのだ、と。*6

 

好んでそうしたのとはちょっと違うが、少なくとも結果として自閉に近い状態にあって、それに特に不満も覚えなかった人(?)が、自分なりのやり方で、再び外の世界に対し、自身を開き出そうとしている。

そういう感じの心境・思考が、過去を後悔しているようなふうでもなく、淡々と、かすかな抑揚だけが伝わるような形で書かれています。そこが共感するし、沁みるんですよ。沁みるっていうの今日三回目ですけど 笑

我が身振り返って言いますけど、自分の内面に従って生きてる限り、多かれ少なかれ内に閉じざるを得ない部分はあると思うんですよ。敢えてそうしようと自虐的に望むのではないにせよ、なんで自分がこうなったのか、他人に説明しようとしてもできない部分なんて山ほどあるというか、むしろそちらの方が多い。

別にそれはそれで構わない、安心できる人間関係を求めてるわけでもないし、相互理解に夢を見たいわけでもない。

何かに強いられて人とつながるなんて真っ平だ。

ただ自分は、自分がそうしたいから手を伸ばすのだ、例えばピアノを弾くように。*7

 

…ああ、共感できるなぁ。

って、自分で自分が共感できるふうに自分の解釈書いてるんだから、当たり前ですね 笑

 

 

 

*1:p329

*2:円城塔さんと奥様(同じく作家の田辺青蛙さん)がお互いに本を紹介し合い、紹介された本をレビューする、という内容の本(『読書で離婚を考えた』)があるんですが、もしも田辺さんが円城さんの小説をレビューすることになったら、どんな感じで要約して、どんな感じの感想を漏らされるのかすごく興味がある。お互いの著作は読まないことにしていらっしゃるらしいので、実現しないだろうけど。

*3:p324-325

*4:p326-327

*5:p331

*6:p333-334

*7:「もう一度、ピアノを弾くために。」、p335