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【資格試験】ようやく経験の棚卸しはじめ【中小企業診断士試験②総論】

(約14,000字)

 

 

前回の日記の冒頭でも触れましたが、この7月のはじめ、実務補習の一周目を終えました。
とても素敵なご縁に恵まれました。指導員の先生にも*1、診断先企業様にも、そして同じ班の仲間にも。
次は8月の下旬です。とってもとっても大変ですが、またがんばりたいと思います。

 

他方、僕は今、タキプロさんという診断士受験生支援団体にも所属して、ちょいちょい活動しています。
基本、東京で開催されるオフライン(リアル)の勉強会に顔を出していますが、その他、こないだはZoom撮影からのYouTubeデビューもしました笑
さらに、そのタキプロさんからご縁が繋がり、来月初旬には、診断士合格者同期が盛大*2に集まるオフ会にも顔を出せることになりました。

 

そういうわけでここのところ、頭の中の一角を常に診断士関係が占めています。
この勢いで、1月末に書いた診断士の記事の続きを書いておきたいと思います。
続きというかむしろ前提というか、今回は、「そもそも診断士試験とは?」みたいなお話です。

 

それにしても今年に入ってから、記事が他資格関連ばっかだな。

 

 

 


1.資格の位置付け

診断士っていう資格を設ける法律上の目的は、要約すれば、「中小企業の振興に寄与する」ために「中小企業者が…経営の診断及び経営に関する助言を受ける機会を確保する」こと、というまとめ方になりますかね。

中小企業支援法
1条(目的)
:この法律は、国、都道府県等及び独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業支援事業を計画的かつ効率的に推進するとともに、中小企業の経営の診断等の業務に従事する者の登録の制度及び中小企業の経営資源の確保を支援する事業に関する情報の提供等を行う者の認定の制度を設けること等により、中小企業の経営資源の確保を支援し、もつて中小企業の振興に寄与することを目的とする。
11条(中小企業の経営診断の業務に従事する者の登録)
1項経済産業大臣は、中小企業者がその経営資源に関し適切な経営の診断及び経営に関する助言(以下単に「経営診断」という。)を受ける機会を確保するため、登録簿を備え、中小企業の経営診断の業務に従事する者であつて次の各号のいずれかに該当するものに関する事項を登録する。
 1号 次条第1項の試験に合格し、かつ、経済産業省令で定める実務の経験その他の条件に適合する者
 2号 前号に掲げる者と同等以上の能力を有すると認められる者で、経済産業省令で定めるもの
2項:前項の規定により登録すべき事項及びその登録の手続は、経済産業省令で定める。

 

「中小企業」診断士、という名前が付いていますが、試験の内容として「中小企業」のみを対象とした知識が問われる、というわけではないです(基本的には*3)。どんな企業様を支援する上でも役に立つ知識が問われますし、実際、近時は、大企業にお勤めの若い方の間でこの資格が人気だ、というふうにも聞いています。
なので、診断士は、日本版MBAと呼ばれることもあるそうです*4

ただ他方、じゃあ診断士協会*5が大企業さんの仕事を受けているかというと、そういうわけではないです。
独立診断士がコンサルする相手に制限があるわけではないけど、協会、すなわちオフィシャルな団体としては、あくまで法律上の資格設置目的に沿う形の活動をしている、と。そういう形です。

まぁ、そりゃそうです。


SNS上で、要旨、

資格を広めたいんなら、名称に「中小」ってわざわざ付けてるのはかえってダサいんじゃないの?

みたいな意見を見かけたことがありますが*6、しょうがないじゃんね、大元の法律がそうなってんだから。
そんなとこ気にせんでも受ける人は受けるよ。現にそうなってるし。試験の中身だって社会人誰しも知ってて損がない内容なんだから。…というのが私見です。

 

個人でやるコンサルの相手に制限があるわけではないという話。
というか、そもそも、診断士には、いわゆる独占業務はありません。
例えば弁護士であれば、弁護士しか扱えないとされている業務があり(「法律事件に関して…法律事務を取り扱」うこと*7)、仮にそれを弁護士以外の人がやると非弁行為として刑事罰の対象になります*8。しかし診断士の場合、そういう業務はありません。
なので、それでご飯を食べていこうとすれば、無資格のコンサルさんともフラットな立場で競争する必要があります。
ここに着目すると、資格を取る意味が希釈されている側面は否定し得ないかもしれないです。


まあ、ただ、『法律上の』参入障壁って『法的な』(=重ーいおもい)責任とワンセットですし、その『法的な』責任の周辺には『社会的』責任という広大で漠然としたグレー領域があるわけで。で、その中には、当該士業への誤解に端を発して勝手なイメージを背負わされている部分もちょいちょいあるわけで。
そういうしゃらくさい縛りがなくて、怪しげなコンサルも跋扈する業界中、ただ『国家資格』というネームバリューからくる信頼のみがある資格、というのも、それはそれで十分アリじゃん、という気もしますけどね、個人的には*9

 

 

閑話休題。診断士の資格の位置付けの話です。

 

 

ネーミングの話で言うなら、僕個人としては、どちらかというと「診断」の方がやや違和感を感じます。
今のご時世「診断」はないんじゃないの、上から目線だし、分析だけしてるわけでもないし、「支援士」とかの方が実態に合うんじゃないの*10、などと思っていました*11

 

で、例によって、今回この記事書くに当たっていろいろ調べてて初めて知ったんですが、診断士って、資格じたいの歴史はかなり古いんですね。なんと1948年に制度が発足したもので、当時は公務員内の資格だったらしいです。
「診断」ってネーミング、その時以来のものだそうです。なるほどね。
たしかに:

  • 当時は「お上」意識が断然強かったでしょうし、
  • 公務員が特定の一企業ばかりを『支援』するのもそれはそれで問題ですから、「診断」というネーミングにも、一定の納得感はあります。

 

当初はそもそも無試験の登録制度として始まったのが、時代が下って試験制度・養成制度が整備されました。
今の試験制度(のひな形)ができたのは平成12年のことで*12、このときに、公務員内資格から、広く一般向けの資格に転換したようです。

僕、これまでは、資格じたいもこのとき(平成12年あたり)にできた(歴史の浅い)もんだと誤解してました…。

 

 

以上(診断士資格の歴史)につき、いくつかのブログ記事等を参照しましたが、特にエアゾールさんの記事は包括的にまとめていただいていて、とても勉強になりました。
この場をもってお礼申し上げます。

 

 

2.試験の内容

1次と2次に分かれており、1次が短答、2次が論文+口述です。1次合格者だけが論文に進み、論文に合格した人だけ口述に進めます。

中小企業支援法
12条(中小企業の経営診断の業務に従事する者に係る試験)
1項経済産業大臣は、中小企業の経営診断の業務に従事する者の資質の向上を図るため、中小企業の経営診断に関する必要な知識についての試験を行う。
(2項ないし8項 略)
9項:前各項に定めるもののほか、第1項の試験及び指定試験機関に関し必要な事項は、経済産業省令で定める。

中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則
前文
:中小企業指導法の一部を改正する法律(平成12年法律第43号)の一部の施行に伴い、並びに中小企業支援法(昭和38年法律第147号)第11条第1項各号及び第2項並びに第12条第2項及び第9項の規定に基づき、並びに同法を実施するため、中小企業診断士の登録及び試験に関する規則を次のように制定する。
第38条(試験の種類)
:試験を分けて、これを第一次試験及び第二次試験とする。
第39条(試験の実施及び公告)
1項:試験は、毎年度少なくとも一回行う。
(2項 略)
第40条(第一次試験)
:第一次試験は、中小企業診断士となるのに必要な学識を有するかどうかを判定することを目的とし、次の各号に掲げる科目について、多肢選択式又は短答式による筆記の方法により行う。
(各号 略)
第42条(第二次試験)
:第二次試験は、中小企業診断士となるのに必要な応用能力を有するかどうかを判定することを目的とし、中小企業の診断及び助言に関する実務の事例並びに助言に関する能力について、短答式又は論文式による筆記及び口述の方法により行う。
第43条(第二次試験受験の要件)
1項:第二次試験は、当該試験の期日の属する年度又はその前年度に実施された第一次試験に合格した者に限り、受けることができる。ただし、第二次試験のうち口述の方法により行うものは、当該第二次試験のうち筆記の方法により行うものにおいて経済産業大臣…が相当と認める成績を得た者について行うものとする。
(2項及び8項 略)

 

年一回の試験です。法文上は「毎年度少なくとも一回」となっていますけど(上記規則39条1項)、実際上、年一です。
ちなみにこれ、実は、司法試験とか予備試験も同じ。

 

⑴ 1次試験

ア 概要

科目は次の7科目です。

試験の実施時期等は都度、官報で公告という建付けになっていますが、、

まぁ、概ね、1次は7~8月の夏真っ盛りの時期に、2日に分けて行われます(会場受験、今のところペーパー)。

僕は令和2年と4年に一次を受けたのですが、その時の受験票が↓です。



そうそう。思い出しました。令和2年、2月くらいにダイヤモンド・プリンセス号の事件があって、そこからコロナが凄いことになったじゃないですか。なので、この年だけ会場が国際展示場になったんですよ。広い会場で、しっかり三密を避けられるように。
「やるじゃん診断士協会!」って思った記憶があります。*13


さて、各科目の詳細等は別記事を書くつもりなので(あくまでつもり笑)そちらに譲るとして。

イ 免除制度等について

免除制度があります。他資格等保有による免除制度と、いわゆる科目合格による免除制度の2つがあります。

 

まず前者(他資格等保有による免除)について。AP(応用技術者試験)合格者が経営情報システム免除になることは以前のブログでも触れました。

黄色のマーカーを引っ張ったとおり、経済学・経済政策、財務・会計、経営法務、経営情報システムの4科目については、人により、一度も受験せずに一次合格することが可能になっています。
逆に言うと、残る3科目(企業経営理論、運営管理、中小企業経営・中小企業政策)はさにあらずで、受験者は全員受けることが求められています。だからなのか、これら3科目は、他と違って、試験時間が30分長い90分です。

人によっては、これら3科目を『重点科目』と呼ぶこともあるようです。

 

われら弁護士は、まず、経営法務が免除になります(緑のマーカー)。
それに加え、税理士法第三条云々って書いてありますが、それが以下。

弁護士資格あれば一応、税理士業務もできることになってるわけで、その根拠条文が↑ですね。で、それに伴って、診断士試験上も、税理士の先生方と同じ特典を享受できると。
よって、弁護士は、財務・会計も受けなくて良い、ということになります。

 

まあ確かに、法令上、税理士業務をすることが認められている人間が、受験資格上はそれとは異なる扱いを受けるってのは一貫しないわけで、「そらまぁ、そうなるか」、という感じではあります。
とはいえ、まぁ、いいんすか本当に?、とは思いますが笑*14


さて、もうひとつの制度、科目合格による免除について。
中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則41条2項です。

例えば僕が今年(令和6年)の一次試験で企業経営理論科目に『合格』したとして、来年・再来年*15にまた一次試験を受ける場合、僕が申請すれば、企業経営理論科目は受けなくてよくなる、という代物です。
で、科目に『合格』ってどういうことよ?というと、次のように定義されています。

一般社団法人中小企業診断協会HP中『試験に関するよくある質問(FAQ)』のページより)

要は100点満点中60点取れば当該科目合格、というわけです。

 

…ちなみに今回、試験の合格点とか科目合格制度の詳細とかを定めている根拠をいろいろ探したんですけど、どうにも見つかりません。
協会(一般社団法人中小企業診断協会)が定めた試験事務規程があるはずだから、おそらくその中で規定されているのだと思います。

ただ、その試験事務規程が見つかりません。
多分ですが、同規程をネット上で公開はしていないが、その代わり、そのエッセンス的なものをHPのFAQにまとめている、という形になってるんじゃないかな、と思います。
そういう次第で、今後、ちょいちょいこのFAQを引用します。たぶん。

 

さて、この科目合格に関して、僕は実は誤解をしました。

一次試験の『一部の科目に』合格した者に対しては、って書いてあるじゃないですか。ここの部分、どうやら、一次試験じたいに合格した者は違うからね、という趣旨を含んでいるらしいんですね。
つまり、科目合格制度は、あくまで一次試験不合格者を対象とした制度だ、ということ。

 

どういうことか(以下蛇足)。
まず、そもそも、(『科目合格』ではない)一次試験の合格基準は、次のとおりです。

なので、全科目で60点以上をとる必要はないわけです。数科目60点を切っても(40点さえ切らなければ)、その分を他科目で取り返してトータルで6割をキープすればOK。
で、いっかい一次に合格すると、その年の二次試験に進めるほか、次の年に二次受験する場合にも一次試験免除の特典を受けることができます。

 

さて。
僕、令和2年の一次に合格したとき、運営管理以外は6割を超えました。他方、同年の二次はダメ。
それで次の年(令和3年)、二次の受験申込みはしたんですが、諸事情で受験を見送りました。

この場合、さらに次の年(令和4年)の一次はどうなるか?というと、もっかい全科目(他資格保有に基づく免除が受けられる2科目以外は)受け直さないといけないわけですね。
なぜなら、科目合格制度は一次不合格者対象の特典であり、一次に合格した時点で効果が消滅するから。
しかし、僕、ここを誤解しました。

「僕、令和2年に6科目は科目合格したはずだから、今年まではその効力が活きてるはずだ、だから、受けるのは運営管理だけでいいはずだ」

と勘違いしたんですね*16

で、そういう体で受験申込をしたところ*17、↓の紙が送られてきました。

…試験日まで約1か月半のところで、まさかの4科目追加受験決定です笑
焦りました。まぁ、2年前に入れた知識でも意外と覚えてたので助かりましたけど。

 

ウ むかしのはなし

余談。
先日、実務補習を受けた際、指導員の先生から、

「むかしは一次の科目に助言理論っていう科目があってね、今はなくなっちゃったけど、実際に実務やる上では大切な考え方があるんだよ」

みたいな年寄りの昔話ありがたいお話を聞きました。
調べてみたら、平成12年から平成17年までは、

  • 「中小企業経営・中小企業政策」科目が「中小企業経営・中小企業政策・助言理論」という科目で、
  • さらに、「新規事業開発」という科目が別にあった

みたいですね。
協会のHP上では、わずかに↓のページが見つかりました。正解と配点が載せられてるくせに、問題文のページはありません笑

科目の見直しがされた理由は以下のようです。

『中小企業診断士制度の見直しについて』(平成17年9月中小企業庁経営支援課)p4より*18

ぶっちゃけ、科目数が多すぎるせいで受験を敬遠している層がいると踏んだのが実際的理由なようにも読めます笑
ただ、たしかに、助言理論の中核とされている(らしい)『傾聴』だとか、新規事業立ち上げの是非判断については、今の二次で前提とされ、あるいは現に問われてはいます。

 

問題、どんなんだったのか、見てみたいですけどね。
協会HP、平成18年より前の試験問題は載せてくれてないんですよね。
何でなんですかね。

 

⑵ 2次試験

一方の2次。論文式試験は、毎年10月に行われます。1日だけです。
僕は令和2年・4年・5年の3回受けました。最後の令和5年の受験票が↓です。

試験科目は4科目(各80分)。『中小企業の診断及び助言に関する実務の事例』Ⅰ~Ⅳ。長いくせになにも伝わらない笑
1次試験と違って、規則の条文でも特に内容(科目)は決められていません。

 

ただ、各事例において問われる事柄は固まってはいて、

  • 事例Ⅰは組織・人事に関する事柄
  • 事例Ⅱはマーケティング・流通に関する事柄
  • 事例Ⅲは生産・技術に関する事柄
  • 事例Ⅳは財務・会計に関する事柄

です。

事例Ⅰ~Ⅲはいずれも、1000~3000字くらいの企業概要(『与件文』と呼ばれています。)を読んで4~6つの設問(記述式)に答える、というもの。慣れないうちは、なんというか、どれも同じように何となーくフワッとした設問で、何を書いたらいいんだろうか…と悩まされたりします。
事例Ⅳだけは毛色が違って、計算をさせられます。ちなみに、時間が全然たりません。

 

合格基準は、1次と同じで、6割。

ただ、こっちは、受験生の出来に応じて配点とか採点基準とかをゴニョゴニョ操作してるはずなので、「6割」という数値にはあまり意味がありません。

 

なお、1次に合格したら翌年まで2次が受けられるのは前述のとおりですが、上記画像にわざわざ書かれてるとおり、論文に合格しても、口述を受けられるのはその年だけです。翌年はダメ。
口述はほとんど落ちないだけに、万が一落ちちゃったら悲惨ですね…。

その口述については、前の記事をご参照ください。
また、論述の詳細についても、別記事(予定)に譲ります。

 

 

3.統計情報

以下、協会HPからいくつか引用します。

⑴ 受験者数とか合格率とか

『申込者数・合格率等の推移』より)

  • 受験申込者数、令和3年以降は毎年約25,000人ですね。結構な数という印象です。令和2年→3年で人数がハネましたね(前年比2割強増加)。コロナで多くの中小企業が危機に瀕したのを目の当たりにして、それを支援できる資格の魅力が増した、ということですかね?
  • 一次の、実際に受験した人数を母数とした合格率は…年によってかなり違いますね。こんなバラついてんのか。近時は3割前後で高止まり、という感じでしょうか。

『申込者数・合格率等の推移』より)

  • 二次の受験申込者は、近時は毎年だいたい9,000人、といったところでしょうか。
  • 対する最終合格者数は約1,500人。ちなみに口述はほぼ落ちないから、これは筆記合格者数とニアリーイコール。
  • こっちの対受験者数合格率は安定してるんですよね。というか、そうなるように得点調整してるんだと思いますけど。18~19%。
  • で、一次の対受験者数合格率を30%として、試しにこれ(18~19%)と掛け合わせてみると*19、5.4%~5.7%という数値を得ます。難関寄りの国家資格としてはまぁこんなもんかな、という感じ。

 

⑵ どんな人が受けてるのかとか

以下は、現時点で最新の令和5年の資料からの引用です。

ア 一次

資料は『令和5年度 第一次試験』より。
なお、同年の一次は台風6号の影響で那覇地区の試験が取り止め→再試験となったところ、以下の資料では、那覇地区のデータは除外されています。

  • 女性、少なっ。
  • 受験申込者、ボリュームゾーンは30~40代か。体感には合致しますね。
  • 他方、50代もそれなりに(6,000人弱)いらっしゃる*20一方、それに比べると20代はやや少なめ(約3,500人)。
  • 申込者数と一次合格者数を比べてみて、パッと見、年齢によって合格率に有意な差があるようには見えないかな。若いほど勢いで受かりやすいとか高年齢者ほど年の功で受かりやすいとか、そういうのはないみたいですね。

  • 圧倒的に事業会社勤務の方が多数ですね。僕としては意外ですが、金融機関にお勤めの方がそこまで多いわけではない。
  • 自営は、申込者数でいうと、全部で約26,000人に対して1,300~1,400人、5%強か。僕的には、これも予想よりは少ないですね。

 

イ 二次

『令和5年度 第二次試験』より)

こちらは一次の資料の母数をそのまま小さくしたらこうなる、みたいな数値かな。特にコメントはありません。


4.試験後のはなし(診断士になるまで)

さて、ここから先は僕は一部未体験であり、実体験を伴わない机上調査ベースのお話も含みます。

⑴ 実務補習及び実務従事について

診断士は試験に合格して即、取得できる資格ではなく、一定期間、実務(っぽいもの)に携わる必要があります。

中小企業支援法11条(中小企業の経営診断の業務に従事する者の登録)
1項経済産業大臣は、中小企業者がその経営資源に関し適切な経営の診断及び経営に関する助言(以下単に「経営診断」という。)を受ける機会を確保するため、登録簿を備え、中小企業の経営診断の業務に従事する者であつて次の各号のいずれかに該当するものに関する事項を登録する。
 1号 次条第一項の試験に合格し、かつ、経済産業省令で定める実務の経験その他の条件に適合する者
(2号 略)
(2項 略)

中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則1条(中小企業診断士の登録の条件等)

1項柱書:中小企業支援法(昭和38年法律第147号。以下「法」という。)第11条第1項第1号の経済産業省令で定める条件は、同項の規定による登録(第二節から第四節を除いて以下単に「登録」という。)の申請の日前3年以内に中小企業診断士試験(法第12条第1項の試験をいう。以下単に「試験」という。)に合格し、かつ、合格した日から当該申請の日までの期間において、第1号に掲げるいずれか一以上の実務に従事した日数又は第2号に掲げるいずれか一以上の実務補習を受講した日数の合計が15日以上であることとする。
(各号 略)
(2項 略)

要するに、試験合格から3年以内に、合計15日以上、法所定の実務に従事するか(いわゆる実務従事)、実務補習なるものを受けろ、と。
ちなみに両者は排他的なものではないです。一部実務補習+一部実務従事も可。合計15日以上であればOK。

ア 実務補習について

多くの方はこれを受けます。協会のHPから申し込めば受けられますから、そういう意味では、楽と言えるのかもしれないです。
六人前後で一班となり、ベテラン診断士である指導員の下、実際の企業の診断を経験します。

 

この実務補習、今までは、1回5日間のコースになっていたのですが、それが来年から変わります。
1回8日か、ワンシーズンに一気に受ける場合のみ、8日+7日=15日コースのご提供となります。

『令和6年度からの中小企業診断士実務補習に関するお知らせ』より)

僕はこの7月に、5日間コースを一回だけ経験したところですが、とてもとてもとてもとても、しんどかったです。
詳細は別記事で書く予定(あくまで予定)ですが概要だけ書くと…

  • 金曜:都内会議室に集合して午前中打ち合わせ、午後に企業訪問して社長面談・ヒアリング
  • 土曜:ヒアリングの結果やら資料やらをもとにSWOT分析等して診断報告書の全体像共有
  • 日曜~土曜:自主作業という一人旅
  • 日曜:同時点での検討結果を持ち寄って内容擦り合わせ、執筆
  • 月曜=海の日:再び内容を擦り合わせて微調整、各パート合体して書式を整え報告書完成、プレゼンリハーサル
  • 火曜:プレゼン、3回目の人は修了式あり、反省会(打ち上げ)

という感じ。要するに、現実に拘束される5日の間は対外的なイベント(社長ヒアリング等)と班内の他メンバーとの調整でいっぱいいっぱいで、自分の分の報告書を起案する時間は相当限定されていました。
僕の班、指導員の先生が入念なタイプで一定量を事前準備として前出ししてくださったんですけどね。それでも5日間はパッツパツでした。
ちなみに間に挟まる自主作業期間ですが、僕の班は、この間にも、①月曜に社長に追加ヒアリング、②木曜にメンバー間の中間報告が入りました。要は、執筆のための材料が先立つ金曜・土曜で全て出揃った状態で同期間を起案に充てられるわけでもないです。
睡眠時間を削って作業せざるを得なかったですね。日曜~海の日は久しぶりの徹夜でした。


ことほど左様に、このネット上では、実務補習はとってもしんどいよ、という記事がいっぱいいっぱい見つかることと思います。要は、試験合格者の共通認識です。
なので、今回のコース日数変更は、この無茶な日程の見直し、というか緩和に主眼があるのではないか、と言われています。

では実際問題、日数延長で緩和が実現されるのかについては、肯定説も否定説もあります。
普通に考えれば多少はマシになるような気もしますが、長くなればなったでやらされることが増えるだけではないのか、という疑念もよく分かります。だって、そもそもが無茶な日程で、本来せにゃならんことを削ってるわけですもん。僕の実感としては、社長への追加インタビューなんて絶対必要ですよ。それが5日間の中に組み込まれてない方がおかしい。
さて、どうなりますかね。

 

…という、とってもしんどい実務補習ですが、それと同時に、それでも一回は受けておけ、とも言われています。
フルスケールでの企業診断の方法論をベテラン診断士の先生から教えてもらえる機会なんて、これを除いて二度とないから。
また、一緒に班を組んだチームメイトは、強い絆で結ばれた貴重な診断士仲間になり得るから。
実際、こんだけしんどかった言ってる僕も、受けて良かったと思ってますし。めちゃくちゃ充実した半月でした。
終わってみれば一瞬の夢だったように感じますし*21、既に早くも、今秋、指導員の先生も交えて同窓会(ただの飲み会)することが決まっています。

 

以上のような次第で、診断士試験合格者の多くが、この実務補習の受講を申し込みます。が、しかし。
まず、上の画像にあるとおり、実務補習の実施時期は、2月と7~9月です。通年で開催されてるわけではなく、受講の機会は年二回に限られています。

【2月の実務補習】

まず、これ、いつ申し込むかというと、実は、筆記の合格発表の次の日です。つまりは最終合格前。*22
で、当該年度の筆記合格者よりも先に、既に受講資格を得ている前年度以前の最終合格者向け募集がスタートします。したがって、当該年度の筆記合格者は、既に一定数が申し込まれてパイが削られた残りを享受できるにすぎません。
そこに、筆記に合格して「よっしゃ!早く資格とって名刺に書いてやるわ!」と意気込んだ受験生の応募が殺到します。
なので、募集開始からものの数分で枠が埋まってしまうそうです。

【7~9月の実務補習】

対して、こちらはそこまで、必死こいて申し込まなくても大丈夫です。応募開始は、たしか5月くらいだったと思います。
ただし、2月の申込みではそれなりの人があぶれ、その方々が夏の応募に雪崩れ込む上、近時は合格者も増加傾向ですから、そうそうのんびりできるわけではありません。
こちらも、30分とかそこらで埋まってしまう、というふうに聞いています。
応募開始は平日の朝10時とかだったはずですから、会社勤めの方は、その時刻、プライベートでネットにアクセスできる手筈を整えておく必要があります。*23

 

実務補習は、そんな感じです。
ちなみに、気になるお値段は…

『令和6年度からの中小企業診断士実務補習に関するお知らせ』より)


イ 実務従事

対する実務従事ですが、正直、僕はよく分かっていません。
協会がオフィシャルに提供する合格者向けの半・模擬実務経験の場が実務補習なのに対し、そうではない実務経験の場全般を実務従事と呼んでいる、くらいの感覚でいます。
法文(中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則1条1項1号)上は、こんなん↓です。

一方、僕の現実的な認識としては、

  1. 主に、実務従事の機会を提供する各種民間団体が募集しているやつに申し込む
  2. 自分で知り合いの社長さん/個人事業主に頼んで、実務従事をやらせてもらい、サイン&ハンコをもらうかの二択で、
  3. その他、一応、合格後であれば資格取得前でも協会には入れるところ、入った協会で伝手ができれば、協会を通じた実務従事の機会をもらえることもある、

という感じ。
法文と見比べると、たぶん、①がハ、②がニ、③がイ(&ロ)と対応するのかな、と思います*24

 

冒頭書いたとおり、僕は今、タキプロという受験生支援団体に所属しているのですが、そこで知り合った方々には、そこそこ、実務従事を利用したという方がいらっしゃるんですよね。これ、僕的には意外でした。もっと少数派なのかと思っていました。
で、もともと僕は実務補習一本で15日分完遂するつもりだったのですが、ちょっと考えて予定を変更し、

  • 10日分(5日分×2)は実務補習やって
  • 残る5日分は、上記②の方法で実務従事をする

ことにしました。
実務補習、きついって聞いてましたし。2回やれば十分かな*25、お金ももったいないし、一応伝手もあるし、などと考えて。

実務従事をした場合、それを証明する書面を提出する必要があります。
このサイトの「2」のとこにあるやつを提出するみたいですね。僕の場合(上記②の場合)は様式19かな。


⑵ その他

ちょろっと上で書きましたが、各都道府県協会には、合格後であれば診断士未登録でも入れます。
入れば、うまくいけば、実務従事の機会ももらえるかもしれないし、早めに入っておけば、その後の仕事にも繋がりやすいのかもしれないです。
ただ他方、入る以上はおそらく、弁護士会で言うところの会務みたいなものもあるんだと思います。なので僕は、入るなら診断士の肩書で仕事もできる状態で入ろうと考え、保留にしています。*26
ちなみに都内での活動をお考えの方の場合、春と秋とで協会主催の説明会みたいなもの(Spring Forum・Autumn Forum)があります。
なので、まずはそこに行ってみて、それから考えるというのも手かと。

 

他方、登録前に協会に入らず、かつ、仮に、夏まで実務補習開催を待つとすると、それはそれで逆に時間がもったいない。
僕はそう感じたので、タキプロさんに入りました。
けっこう、これはお勧めですよ。登録前から人脈が広がりますし。知り合った方々から実務補習とか実務従事とかの話も聞けますしね。
ただ、他団体さんの多くは参加締切がそこそこ早めだったりするようですから、最低限、筆記合格前から、SNSで複数団体をフォローだけでもしておいた方がいいかもしれません。*27

 

 

 

 

 

 

 

*1:僕、司法修習でも恩師に巡り合えましたから、この種の運は持ってるのかもしれません。

*2:70人とか言ってたような。

*3:中小企業ならば特に役に立つ、ということは言えるかもしれませんが。あ、1次の中小企業経営/政策は例外です。

*4:カリキュラムと試験内容とで類似性も認められるらしいです。しらんけど。

*5:東京の場合は支部や区会。

*6:ちなみにそう言ってた人は某コンサルさんでしたが、仮に、診断士資格関連業務が中小企業庁から経産省に戻されて、協会が(多少廉価で)大企業さんのお仕事も請け負うようになったとしたら、それに一番文句言うのはおたくらなんちゃうの?、などと思わないでもない。

*7:弁護士法72条

*8:2年以下の懲役又は300万円以下の罰金。弁護士法77条3号、同法72条。

*9:あんまコレ言い過ぎるとマリーアントワネット発言にもなりかねないので自重しますが。

*10:他の資格の例で言うと、「情報処理安全確保支援士」とかがありますね。

*11:実務補習を経て尚更そう思います。

*12:なので、今パッと調べられる試験関係の統計情報などは同年以降の分しかない。

*13:「それにひきかえ我らが司法試験委員会ときたら…」と情けなくなった記憶もね…本っっっ当に何の手も打たなかったですからねあの人たち。

*14:中村真先生もお書きのとおり。

*15:条文上は、「合格した第一次試験の行われた年度の初めから三年以内に第一次試験を受ける場合」です。これを本文中の例に当てはめると、「合格した第一次試験の行われた年度の初め」=令和6年4月1日で、この日「から3年以内に第一次試験を受ける場合」というのは、令和7年夏に一次を受ける場合と、令和8年夏に一次を受ける場合です。

*16:そういえば、令和2年の一次受験後、協会から送られてきたのは一次の合格証(兼二次受験票)だけで、各科目の点数をオフィシャルな形で教えてもらったわけではありませんでした。つまり、「科目合格してるはずだ」というのも自己採点に基づく推測でしかないわけで、冷静に考えれば、それで科目合格の特典が受けられるわけがなかったんですけどね。

*17:正確に言えば(超たまたま)、経営法務と財務・会計は他資格保有に基づく免除申請をして、経済学・経済政策、企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策の4科目は科目合格に基づく免除申請をしました。これ、今考えるとホントに危なかったわけで、上記6科目ぜんぶを科目合格に基づく免除申請してたら、経営法務と財務・会計まで無駄に受け直さないといけないところでした…。

*18:たった今この資料を読んで知ったところなのですが、このときの制度見直し、結構大きなやつだったんですね。科目合格制度なんかもこのとき導入されたようで。

*19:二次の受験者には前年の一次合格者も含まれるので、厳密に考えれば、一次と二次の対受験者数合格率を掛け合わせるのは不正確というかナンセンスなんですが、そこはまあ試験イメージを大掴みに捉えるための試算ということでご容赦ください。

*20:セカンドキャリア開拓を考えた際に魅力的に映るみたいです。ちなみに僕の実務補習一周目の班、6名中3名の方が50代でした。

*21:短期間のうちに濃密で充実したスキルに触れたという意味で、アヤコ姐さん(@スラムダンク)のセリフ、「この4ヶ月がまるで夢だったかのように……」という一節が、とても身に沁みます。僕はまだちゃんと、学んだことを覚えていられているのだろうか。

*22:僕は、そのことも知らなかったし、そもそも合格発表日じたいも失念していたので、当然、申込みチャレンジすらしません(できません)でした。

*23:ちなみに受験番号とかを入力する必要があったはずですから、受験票の現物なり番号の手控えなりが必要です。

*24:なお、ホは、近時に診断対象が中小企業支援法上の中小企業から若干拡大した(お医者さんとかも含まれるようになった)のに対応して設けられた条文のはず。ヘは読んで明らかなとおり、海外での活動も一応はアリだよ、というものですね。

*25:ここは判断が分かれるところだと思います。実務補習に複数回申し込む場合、できるだけではありますが、診断先の業種がかぶらないように協会が配慮してくれるらしいです。で、例えば、製造業の診断と小売業の診断とではおそらく趣が全然違うはずだから、「何回も実務補習やることに意味がない」わけでは全然ないはずです。しかも、指導員の先生によってもやり方は全然違うようですから尚更。結局はコスパ・タイパ・労力とのバランスになるんだと思います。

*26:ちなみに、協会から振られる仕事を個人事業主として請ける場合、インボイス登録が必要だ、という話を聞いています。

*27:タキプロはたぶん一番遅いです。というか、今でも、追加参加希望者を受け入れているくらいです笑

【資格試験】AP試験

(約10,000字)

 

 

 

※今日の日記①※

間が空いてしまいました…確定申告祭り以降、仕事に加えて診断士界隈のイベントとか諸々重なりました。
今は、実務補習の一周目が終わり、その間の分のリカバリーも終わり、少しだけ一息つけました。
頭の中は、どちらかというとそっち(実務補習)の思い出とかでいっぱいなのですが笑、書きかけの記事(4月に書いといたやつ)がありますので、先にこちらを上げさせていただきます。

 

 

 

 

 

 

※4月の日記※

本日、4月24日。
去る21日、応用情報技術者試験(AP)を受けてきたのですが、たぶん受かったと思うので、記録を付けておきたいと思います。
僕の場合、先行して中小企業診断士試験を受けていますので、これから書く日記の内容も、それに引っ張られた感じになりそうな気がしています。
なので、同様or類似の属性の方がもしいらっしゃれば、多少の参考になるかもしれません。

 

で、結論めいたものを先に書きますと、診断士1次の経営情報システム科目を学習された方なら、たぶん、

  • APの午前試験の学習時間はかなり圧縮できますし、
  • 午後試験に関しては、勉強時間数時間とかで行けるんじゃないかな、と思います。
  • ただし、資格を取ってどうなる?という点は、よく分かりませんので本稿の対象外です笑

 

1.資格の位置付け

情報処理の促進に関する法律に基づいて経済産業大臣が行う(実際の試験事務は、同法29条2項に基づき、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に委託されている。)情報処理技術者試験の一つで、4つに区分されている試験レベル中、レベル3に相当するものとされています。
1個上のレベル4になると、ITストラテジストとかネットワークスペシャリストとか、何ともイカした名前の試験になってきます。

試験要綱Ver.5.3p1より)

試験要綱Ver.5.3p11より)

 

ちなみに、この4つのレベル区分てやつ、今回はじめて多少突っ込んで調べてみたんですが、「共通キャリア・スキルフレームワーク」なる文書*1で整理されてるものっぽい*2

同文書の性質について、同書(第一版・追補版)p2から抜粋すると:

経済産業省では2006年10月、産業構造審議会情報経済分科会サービス・ソフトウェア小委員会の下に「人材育成ワーキンググループ」を設置した。翌年7月には「高度IT人材の育成をめざして」と題する報告書が同ワーキンググループにより取りまとめられた。同報告書では、ITスキル標準ITSS)や組込みスキル標準(ETSS)、情報システムユーザースキル標準(UISS)を整理するとともに、これらと情報処理技術者試験の対応関係を明確にし、客観的な人材育成・評価メカニズムを構築する必要性が示された。 
当文書は、同報告書でその中核として位置づけられた「共通キャリア・スキルフレームワーク」を具体的に整理するものである。

…とのこと。要は国としての人材育成の枠組みをまとめたってことかな。

で、同書は、当該人材に必要とされる能力と果たすべき役割(貢献)の程度によってレベルを分けて定義しているのですが、そこでは実は、4段階ではなく7段階にレベル分けされています。

(同書p7より)

このうち下位4レベルが、試験の4レベル区分に対応しています。他方、

レベル5以上については、プロフェッショナルとしての貢献等も含めて経験と実績等を確認するとともに、上位のレベル又は同レベルのピアレビュー等を通じて各スキル標準の評価基準によって判断する。

とのこと(同書p7より)。個々の具体的文脈に応じた業績評価でしか測れないレベルであって、試験による画一的判定に適する範疇にはない、ってことかな、たぶん。*3

試験との対応関係については、同書p14にドンピシャな図が載ってました。

(同書p14より)

 

 

はい。

なお、診断士との絡みで言うと、APに合格した場合は1次の経営情報システムが免除になります。

中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則
41条(第一次試験の免除)1項
:次の各号に掲げる者に対しては、その申請により、それぞれ当該各号に掲げる科目について第一次試験を免除する。
6号 情報処理の促進に関する法律(昭和45年法律第90号)第29条第1項の規定による情報処理技術者試験情報処理の促進に関する法律施行規則(平成28年経済産業省令第102号)の規定によるITストラテジスト試験、システムアーキテクト試験、プロジェクトマネージャ試験、システム監査技術者試験又は応用情報技術者試験に限る。)に合格した者 経営情報システム

 

 

2.試験の内容

午前試験と午後試験に分かれています。午前が選択問題で、午後が記述問題。

試験要綱Ver.5.3p13より)

必要な知識は、午前試験対策として入れます。他方、午後試験は、そのうちいくつかの分野につき、記述問題に答えられるレベルで当該分野の知識が「ちゃんと」身についているかが問われる、というイメージでしょうか。*4

 

⑴ 午前試験

出題範囲の大枠は、基本情報といっしょです。ただ、それぞれの分野をもう少し掘り下げてインプットしないといけない感じ。

試験要綱Ver.5.3p22より)

↑の表左側にある出題分野欄を拡大すると、次のようになっています。

範囲の広狭のみを問題として診断士と比較した場合、上記の中分類で言う1~4(基礎理論、アルゴリズムとプログラミング、コンピュータ構成要素、システム構成要素)とか16(システム監査)とかは情報処理試験独自の分野ですね。ここは新たに勉強しないといけないです。といっても別に大したことはないですが。
他方、22(企業活動)とか23(法務)は、診断士だと他科目でガチで問われますから、特段何もしなくて良いです。あ、でも23(法務)は情報処理関連だけを抜き出してる感じだから、経営法務の内容とはかぶらないか。まぁ、とはいえこれも、言ってしまえば正直、豆知識的位置づけに近い。
ちなみに、たぶん1(基礎理論)の中に一応、統計の基礎知識も含まれている、っていう建付けになってるんだと思います。ただこれも出て1問、という感じ。

 

要は、大部分はかぶっていて、経営情報システムの勉強が、わりとそのまま活きます。
もちろん、"活きる"であって、多少の掘り下げは必要ですけれど。

 

で、配点は、1問1.25点。

試験要綱Ver.5.3p16より)

合格点は60点。

試験要綱Ver.5.3p14より)

なので、48問以上正解する必要があるわけですね。

 

ちなみに、午前試験が基準点に達しなかった場合、午後試験は採点されません。

試験要綱Ver.5.3p16より)

イヤですねぇ。*5

 

⑵ 午後試験

こんな↓感じになっているのですが…

試験要綱Ver.5.3p44より)

どっちかというと、過去問の問題一覧ページを見た方が分かりやすいですかね。以下は、僕が受けたR6春期午後試験のp3です。*6

そこにあるとおり、大問数にして全部で5問に答えないといけなくて、うち1問は情報セキュリティ問題で固定(必須)、残り4問は10問の中から好きなのを選んで答えます。
問3~問8は技術系(いわゆるテクノロジ系)の問題ですから、僕みたいな文型畑の人間は、残る問2(いわゆるストラテジ系の問題)・問9~11(いわゆるマネジメント系の問題)を選択することになります。
たぶん、診断士を受けた方で非IT職の場合、大多数が同じ感じになるんじゃないかな、と思います。

 

実際の問題は、例えば同じくR6春期午後の問10であれば、こんな↓感じですね。

選択問題もあるにはあります。が、記述が主です。
字数は少なめです。

 

3.統計情報

合格率とかはあんまり気にせずに受けましたので、ここらへんの話は特に、今回調べて初めて知ります。

統計資料p5より)

APの数字のとこだけ抜き出すと、こんな↓感じ。

  • 1年あたり概ね、約10万人*7が申し込み、
  • そのうち約3分の2が実際に受験し、
  • 合格者は概ね15,000人前後、合格率は2割前後(近年は易化傾向で25%くらい)

という感じみたいですね。
毎年そんなに受けてんのか、すげえな、という感想です。

 

一方、令和6年春期試験の応募者55,569人の属性の内訳を見ますと…

統計資料p12より)*8

社会人が圧倒的に多くて、48,221人。ただ、比較すると社会人の方が多いというだけで、学生さんも7,000人を超えているわけで、絶対的に見れば、これも十分多いって気がしますけどね。しかも春期だけの数だし。

 

平均年齢のデータはなぜか別ファイルになっているのですが…

平均年齢資料p1より)

概ね30歳ですね。
当然っちゃ当然ですが、例えば基本情報と比べると、ちゃんと高年齢層が受ける感じになっているんですね。5歳差くらいでしょうか。

 

4.実施時期、実施方法等

基本情報と違ってCBT化はされていません。年2回(春と秋)しか実施されていませんし、会場でのペーパー受験が必要です。

試験要綱Ver.5.3p18より)

なので…

  • これまた(昔の)基本情報と違い、『午前試験』『午後試験』という名称についても中身が無内容化しているわけではないです。午前試験は午前中に、午後試験は午後に受けます笑
  • 試験終了直後にスコアレポートを送ってくれるようなサービスもありません。結果が出るまで2か月ちょい待たされます。ただ、午前試験の解答はその日のうちにIPAのHPで公表してくれます(夜8時ごろにアップされてたかな、たしか)。このスピード感はさすがIT関連資格、という感じがしますね。

なお、お受験料は、お決まり¥7,500です。

 

5.お受験体験記

ここからは、僕の個人的な感想など。

 

⑴ 受験動機

大きく2つありまして、一つは、「せっかく基本情報とったしな…」というもの
基本情報の勉強を始めたのは純粋に知識吸収のためだったわけですけど、当然、同じ勉強するなら資格とっといた方がいいじゃないですか。だから教本買って読むだけじゃなくて受験も申し込んだわけで。
で、その延長で、「せっかく齧ったし、どうせなら応用情報までとっとくか」、となったわけです。
基本情報みたくプログラミング技術が必要なわけでもなく、机上の勉強だけで行けそうでしたしね。
本屋で教本立ち読みしても、基本情報と比べて、そこまでレべチな掘り下げをしないといけない感じでもなさそうでしたし。

 

と、もう一つは、「どうせまた経営情報システム受けないといけないなら…」、というもの。

どういうことかというと、僕、去年、診断士の論述受け終わった時点で、「ああ、こりゃダメだ」、と思ってたんですね。で、また診断士に再チャレンジするとなると、もっかい1次から受け直さないといけなくて、そうすると、もいちど経営情報システムも受けないといけないし、そのためには多少なりとも勉強し直さないといけない。いくら基本情報とったとはいえ、無勉で行くのはさすがに無理そうでしたし。
なので、「じゃあもう、どうせならAP受けとくか」、となったわけです。
診断士対策という面で言えば、無理矢理でも早くから(事実上)勉強に着手しておかないと、もう億劫なまま超直前まで気持ちが乗らなそうでしたしね。

 

以上、「せっかくなら…」「どうせなら…」というかなり後ろ向きな積極的理由*9ですが、これらのほか、消極的理由、つまり『受けずに回避する理由がなかった(消失した)』、という事情もあって、それは、今年(2024年)は確定申告の期限延期措置がなかった、というもの笑
去年(2023年)は、コロナの関係で、確定申告の期限が「4/15まででいいよ」、ってなったじゃないですか。
実は僕、去年もノリでAPに申し込んでみたんですけど、4/15ギリギリまで確定申告でてんやわんやだったんですね。そのため、試験まで数日という時点で何一つ、本っ当に何一つできていない状態で、「さすがにこれはムリだ」、と思って受験を見送りました。
対して今年は、そういうことにはならなそうでしたので。
申告期限は例年どおり3/15だし、そっから1か月あれば、まあ仕事が忙しくても何とかなるだろ、と考えた次第です。

 

⑵ 受験準備

ア 去年のあいだ

着手時期は去年、診断士論文後の11月くらい。
午前試験は基本情報の延長だから後回しでいいだろ、それより午後だ、基本情報のPythonは苦労したからな、と考え、まずは午後の問題がどんな感じか掴むことにしました。
使ったのはこれ↓。去年申し込んだときに買うだけ買って全く開いてなかったんですよね。

ストラテジ系・マネジメント系問題を選べばいい選択問題は措いといて、まずは必須問題の情報セキュリティ問題の過去問を1問解いてみたんですが。

…意外とイケる。

  • 問題文が長いから、正直、スキマ時間にやるのはかなり苦痛。
  • だけど、いったん状況が咀嚼できれば、書かなきゃいけないことの方向性は分かる。
  • ときどき知識がないとどうしようもない問題も出るけど、そこはもう、どうしようもないというか、あとは午前試験対策に投げるしかないよね。

…という感じでした。

つまり、僕、「あれ、思ったより楽に行けるかも」、と甘く見ました

なのでこの後、一応、上記教本に載ってる情報セキュリティ問題には全部目を通しましたが、過去問を解くというより、半分は読み物を読む感覚で浚いました。いまいち集中できない時は無理せず、すぐ解答見たりもしました。

その後、マネジメント系の問題を一問読んでみたんですが、感想は同じ。「集中さえできれば行けそうだな」、というもの。
で、折しも年末で忙しくなってきたので、そのまま勉強は中断してしまいました。

 

イ 今年に入って

さて、今年1月中旬ごろ、実は自分が診断士論述に合格していたことが判明。よかったよかった。
そうすると「どうせ経営情報システムまたやるなら…」という理由が消失するわけで、どうしようか少し悩みました。
しかし、この時点で既に勉強に着手してたのと、あとは診断士口述もどうやら何とか行けてそうな感触だった勢いもあり、結局、今年もノリで申し込んでみることに。*10

で、そうなると、ぼちぼち午前対策を始めんといかんだろうとなり、検討の結果、今回もキタミ式でいくことにしました。

分かりやすさ第一、スキマ時間でもどんだけ疲れてても頭に入ってくるように。

厚さ、基本情報のそれと比べて、どうでしょうかね。「うわっ」って程ではないですが、そこそこ分厚くなってますね。

 

やったこととしては、キタミ式読んで、同書でこまめにくっつけてくれている過去問解いて…というだけ。
これ、2月の初めにやり始めたんですが、今度は、少し甘く見過ぎました
僕としては、基本情報の延長だからそんなに時間も手間もかからんだろうと思ってたんですが、結局、4月初めまでの2か月かかってしまいました。
「短期間でガッと終わらせるぞ!」という気合が足りなかった(つまりはちゃんと時間を確保しなかった)という要因もさることながら、過去問も、意外とそこまでサクサクッとは解けない。
なんというか、各肢ともそれなりに捻ってあるから、ちゃんと考えないと解けない。午前対策なのに存外、こっちでも集中力が要求されました。そうすると解いた後の理解と解き直しにも一定の時間が要るから、少し長引いてしまった次第。
中盤、けっこう苦痛でしたね。特に3月初め~中頃、確定申告期間だったこともあって。
スキマ時間にこなしてた関係上、勉強と確定申告とで使う時間はバッティングしませんでしたけど、単純に、休めずに疲労が蓄積してしまったという意味で。

 

ウ 直前期

あとは当然、過去問ということになります。↓を買いました。

 

、が…

 

 

 

 

 

 

結局、午前を一回分(R5秋期分)しかしませんでした…。
忙しかったです…。

 

いや、その、最初から分かってたことだろという話なのですが、午前・午後ともに150分の試験なわけで、午前とはいえ80問あるわけですよ。一回分だけでも、
で、問題がそれなりに捻られてもいるとなると、まぁ、こうなります。


直前一週間は輪をかけて忙しかったこともあって、半分は諦めモードでしたね。
前日の土曜すら、多少テキストを見返した程度でした。

 

⑶ 当日

準備不足でどんよりした気分が半分、でもそのかわりぐっすり寝たので多少の気合は宿っているのが半分。
会場に向かいます。いろんな試験を受けてきましたが、ここ↓が会場なのは初めてですね。

下高井戸で降車し、4月の世田谷の風を感じながら10分ほど歩いて、到着。
僕が教室について5分ちょいで説明が始まったのですが、ちょっとびっくり。なにせ席が半分も埋まっていない。「え、これだけ?」という感じ。
前述のように受験率が67%くらいしかないから辞退率が高いんですね。試験当日はそんなこと知らず、「ほえー、こんなもんかぁ」、なんて思ってました。まぁそう言う僕も去年見送りましたしね。
でも、僕の教室、試験が始まっても結局、3分の2と言わず、半分くらいしか席が埋まってなかった気がするなぁ。
まぁ隣がいなかったおかげでのびのびやれましたが。

 

まず午前試験ですが、例によって確信をもって答えられた問題はそんなにない。
ふつう、そういう場合、ひととおり解き終わった後、見直し、あるいは解き直しするじゃないですか。
でも、この試験、80問、150分です。
基本情報の時はもう少し時間に余裕があった(ありまくった)気がするのですが、今回は一周終わった時点で残り30分弱しかありませんでした。
正直、クタクタでした。*11

 

なので、「もうええわい」、と思い、そのまま答案提出していったん教室を出ました。

 

 


外のベンチ*12で昼食にありつきます。
で、コンビニ飯頬張っているうちにふと思ったんですね。「あれ、これ、もうどっかの予備校が解答速報出してるんじゃね?」と。ググってみると案の定、速報出てました。
なので、そのうちひとつのページ見て、さっそく自己採点してみました。
してみましたと言うか、してしまったと言うか。

 

 

 

 

 

 

結果。

そもそもそのサイトで、解答不明として解答が出てなかったのが2問。
残り78問中、正答46問、バツが32問。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

え、残り2問が〇じゃないと不合格じゃん。
これ、当職、終わったじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凹みました。ただ、ぶっちゃけ、納得いかなかった問題が若干あったんですね。
つまり、自分はそこそこ自信があったのに×だった問題。
なので、傲慢っちゃ傲慢、縋っただけっちゃ縋っただけなのですが、予備校の速報が間違ってる可能性もあるわな、と思いました。

 

なので、結論、切り替えて次行こう次、と思って、午後試験のための最後の見直しをしました。
とはいえまぁ、さして見直すべき知識があるわけでもなく、不正アクセス攻撃の一覧とか、セキュリティのとこパラパラ見返しただけですけれど。

 

それで、午後試験を受けたわけですけど、もう、本っっっ当に疲れましたね。
問題文長いのもそうなんですが、いかんせん自分のふだんの仕事とは違うロジックの世界ですからね。それが5問となると、けっこう辛かったです。
で、ヘタに自己採点しちゃったせいで、「これ、頑張っても採点すらされないかもしれないんだよなぁ…」とかふと思っちゃったりするし。

 

今度は、終わったのは、試験終了20分弱前。
今回も、「もうええわい」で提出して帰りました。

 

 


帰りましたというか行きつけの美容室で髪切ってもらい、夕食を外で食べ、本屋さんにも寄るなどして帰宅するとそこそこいい時間で。
ひと段落ついた後IPAのサイト見ると解答がアップされていたので、一縷の望みをかけて(?)再び自己採点してみました。

 

結果、50問正解。

昼に見た某解答速報、3問間違ってました。プラス、昼は解答不明だった2問のうち1問が正解でした。しめて50問正解、62.5点。
他方、午後の方は、たぶん行けてると思うので。
無事、なんとか合格できたかな、と思っています。

 

⑷ 振り返って

僕がこれで実際に合格していたとすれば、午前試験対策として多少の知識は入れたけれども、一方の午後試験対策はほとんどせずに受かった、ということになります。これを基本情報と比較した場合、

  • トータルの勉強自体は、たぶん、同じくらいだと思いますが、
  • 午前試験/科目Aと午後試験/科目Bのそれぞれにかかった労力の割合は、体感として、だいぶ違います。基本情報の科目A(旧午前試験)は経営情報システムの延長でサクッと行けましたけど、科目B(旧午後試験)は苦戦しましたから。

ここ、細かく言うと、科目B(当時午後試験)は勉強に苦戦して、本来もっと時間をかけなきゃと思ったけど確保できず、結果Pythonがひどいことになりました。それでも合格できたのは言語問題以外の得点でカバーできたからですけど、制度変更後の(つまりは今の)『科目B』では、そういうこともできないはずです。だって8割が疑似言語使用のプログラミング問題なわけですから、正面から同分野の対策に取り組む、イコール時間をかけざるを得ない。もちろん、実務経験がある方は話は別ですが。

 

…なので、診断士受験経験者の立場からすると、資格獲得のみを目的としてタイパで考えるなら、間違いなく最初から応用情報を受験して、基本情報はすっ飛ばした方がお得だ、と思います。というか、むしろいっそ、APすらすっ飛ばして、ITストラテジスト受けちゃえよ、とかっていう話になるのかもしれない(受けてないから分からんけど。)。
APを受けるのに上乗せする必要があるのは午前試験対策としての知識であるところ、診断士受験経験者は、たぶん知識欲旺盛な方が多いでしょうから、ストレスもそんなにかからないんじゃないかな。むしろ、経営情報システムのカリキュラム内容は多少無理くり圧縮し過ぎてるところもあるから、APで改めて学ぶと腹落ち感さえあるかもしれない。いまいち記号接地してなかった知識体系が多少はしっくりくるようになる、みたいな。
ただ他方、プログラミングを齧るための最初の足がかりがほしい方には、基本情報もお勧めできるのかもしれない。
まぁ、あっちはCBT受験ができますから、都市圏在住の方であればお手軽に受けられますしね。

 

 

 

※今日の日記②※

…上記の日記を書いたときから約3か月が経過。

まず、合格発表は7/4。無事、合格してました。

 

で、本日7/25、合格証書を受け取りました。

なので、「あ、あの日記、加筆してアップしとかなきゃ」と思った次第です笑

 

 

 

 

 

さて、実は、秋期試験の申込締切がもうすぐ(7/31)なんですよね。選択肢は3つ。

  1. 今回はお休み
  2. ITストラテジスト受ける*13
  3. 情報処理安全確保支援士(旧セキュリティスペシャリスト)受ける

…どうしたもんですかね。

 

 

 

 

 

 

 

*1:このページからDLできます。

*2:あるいは、今は『iコンピテンシディクショナリ』ってやつに発展吸収されているのかな…?ここはよく分かりませんでした。

*3:というか、たぶん、レベル5以上は、「共通キャリア・スキルフレームワーク」の要旨を整理するための機能的概念にすぎず、そもそも現実への適用を前提としてないんだろうな。文書をよく読んでないから知らんけど。だって、例えばレベル6ならレベル6の人が掲っかった名簿がこの国のどこかに存在するのか?というと、しないでしょ多分。

*4:シラバスを見渡した限り、基本情報技術者試験みたく「午前(科目A)は知識、午後(科目B)は技能を問う」的な記述は見当たりませんでしたね。どっかの試験紹介ページでそれっぽいことが書いてあった気もするけど、僕が見つけられてないだけかな。

*5:司法試験の短答と論文みたい。

*6:基本情報が過去問非公開っての、ホント、悪だよなぁとつくづく思う。

*7:ただしコロナの時期は減ってますね。

*8:これ、僕、なんて申告したんだっけな。たしかサービス業にチェックした気がするけど、記憶が定かじゃないや。

*9:法律家的用語法で言う"積極的"、つまり、『受ける』理由である、という意味での"積極的"。

*10:申込期間が1/19~2/7で、ちょうど口述本番前後だったんですよね。

*11:司法試験とか予備試験の時は僕、どんだけ元気だったんだろう。まぁ気合の差ではあったろうけど。

*12:既にけっこう埋まってましたが、座れました。これ、雨が降らなくて良かったなぁ。

*13:後日追記:これ、ダメですね。ITストラテジスト試験は春期しかやってないから秋期日程はありません。後から気付きました。大変失礼しました汗

【資格試験】口述と亡霊【中小企業診断士試験①口述】

花に亡霊、雲と幽霊。ヨルシカ好きです。

 

 

(約14,300字)

 

 

中小企業診断士2次試験口述試験を受けてきましたので、記憶が新しいうちに記録を付けておきたいと思います。
順序が逆になりますが、1次と筆記については後日書きます。たぶん。

 

これから受験される方のご参考になれば幸いですが、属性を細分化するなら、

  • 僕と同じように弁護士、特に予備ルートで司法試験を受けた方で診断士受験される方
  • 口述模試を受けないで臨もうと考えていらっしゃる方、あるいは、模試を受けたくても地理的制約で受けられないとか、受けようと思っていたがどこも満員であぶれてしまった方

には多少の参考になるかと思います。

 

 

 

 

 


1.筆記試験終了から筆記試験合格発表までのこと

昨年末はわりとギリギリまで忙しく、仕事が終わった(終わりということにした)時は解放感に溢れていました。あー休める!やりたかったことできる!と。
で、気が緩んだせいか、年明け早々風邪をひき、正月が台無しでした。
それが何とか治り、ダウン中のリカバリーが多少なりとも片付き、「あーあ、しまらない年始だったあぁ」などと思っていた1月12日(金)。
ポストに不在配達票が入っていました。

 

差出人欄に「J-SMECA」って書かれていたのですが、「ああ、診断士協会か」、と思い出したのは十数秒後のこと。
で、初めは点数のお知らせ(不合格者に送られてくるやつ。現在は、得点開示請求等しなくても親切に自動で送ってもらえる。)かーと思ったのですが、ちょっと考えて、それはおかしいことに気づきました。だって、アレは去年たしか普通のはがきで送れられてきたはずだから、不在配達票の出番はないもの。


ここで初めて、「え…、もしかして当職、合格した?」、という可能性に思い至る。

 

 

実は、筆記試験が終わった瞬間、僕、「…今年は終わったな」と思っていました。
特に事例ⅡとⅣは本っ当に分からなかった。前者は適当に空欄を埋め、後者は空欄を埋める時間すらなかった。
で、1次を受けたのは一昨年(2022(R4))だったので、もしまた再チャレンジするとなると、1次から受け直しとなるわけですね。
なので、ぶっちゃけ、今後どうするか考えることすら億劫で、最後の気力を振り絞って再現だけは作ったものの、以後、診断士試験のことは完全に脳内から抹消していました。
というか、脳内だけじゃなく、Googleカレンダーからも。
なので、筆記試験合格発表日(1/11(木))すら、把握してませんでした。

 

 

…で、慌ててサイトを確認し、自分の番号を確認したのが12日の日も暮れてからのこと。

ただ、番号あったとはいえ半信半疑で、ようやく「ああ、ほんとに合格したんだ…」って実感が湧いたのは、翌13日夕方に郵便局で通知(口述の受験票)の現物を受け取った時でしたね。

この日、夕方だけですけど、東京も雪降ったんですよね。
郵便局行った時のふだんと違う通りの雰囲気、印象深く覚えています。

 

 

 

2.予備口述の亡霊のこと

もちろん、めちゃ嬉しかったです。ただ同時に、「うわ、うっそだろ、やっべ…」という感じでもありました。
なにせ、サイトで合格確認したのが1/12で、口述試験日が1/21、間8日しかない。当然、外せない仕事も既に入っているので、勉強に割ける時間はかなり限られてしまう。しかも僕、上記のとおり、筆記試験(2023/10/29)以来、何もしておらず、何も覚えていません。
というか、「筆記の後には口述がある」「口述のネタには筆記試験の事例がそのまま使われる」、ということだけは最低限知っていましたが、ほかは何も知りません。口述ってどんな感じなのかとか、みなさん普通何して対策するのかとか。*1
なので、そっから調べないといけない。

 

いや、もいっこ知っていたことはあって、それは、「口述で落ちる人はほとんどいないらしい」、ということ。
ただ。
僕、その点でひっじょーに似ている試験で、一回、落ちたことがあるんですね。*2
その名は、司法試験予備試験

 

 

予備試験も短答→論述→口述、というスリーステップを辿ります。で、山場は論述とされており、口述はほぼ落ちない。
ただ、それも「口述受験生は全員が論述(しかも予備)に受かった実力の持ち主であり、そいつらが相応の準備をして臨むから」不合格者が少ない、というだけであって、決してイージーな試験ではない(と思う)。
少なくとも僕は、めちゃくちゃ緊張しました。頭が真っ白になるレベルで。
人生で一番嫌だった試験を挙げろと言われたら、予備論述とか司法試験本試験よりも、予備口述って言いますね。

 

一応、この機会に数値をみておくと。
まず、診断士の方が…

直近5年の口述不合格者数は、(新しい順に)7人、5人、1人、3人、1人
なお、母数は約900~1600人。

で、一方の予備は…数の推移が一覧になってる資料が見当たらんな…各年度の参考情報資料を参照するに、、、
直近5年の口述不合格者数は、(新しい順に)9人、12人、20人、18人、26人
なお、母数は400~500人弱。

 

…うん、予備の方がひどいね。*3
それと診断士、年によってこんなに合格者数に差があるんだ。今さらながら。

 

 

閑話休題
そういうわけで、筆記受かった!ってなったとき、僕の脳裏には、予備口述の悪夢が蘇りました。
また、あの無惨を繰り返すのではないかと。
しかも、何の因果か知らないですけど、2023(R5)年から試験制度改革に伴い予備試験の日程も変更され、口述はもともと秋に実施されていたのが(翌)1月実施にずれ込んだんですよね。
なんと、診断士口述と同じ日。*4


勝手に因縁を感じて胃もたれ気味に始まった、僕の口述体験。*5

 

 


3.口述の勉強のこと

まず見た、というより見直したのは、中村真先生のブログです。診断士試験を受けることに決めた初期段階で読んだのが同先生のブログ記事でしたので*6、「なんて書いてあったんだっけな」、と。で、見てみると、先生はTACの口述模試をお受けになったらしい。
まあ、そうだよね、対策するなら模試受けるのが手っ取り早いよね。予備口述の時は僕も受けたし。…と思ったので、申し込もうとしたところ。

全時間帯埋まってました。TACだけじゃなくて、LECもふぞろい*7も、その他の予備校も。さっそく手詰まり。

 


しょうがないので、今度は「中小企業診断士 口述 対策」でググってみると、いくつか記事が出てきました。そこで見つけたのが「想定問答集」というターム。
どうやら、そいつでイメトレをするらしい。で、自作するっぽいことを書いてるサイトもありましたが、予備校が売ってたりもするらしい。


なので、今度は、「中小企業診断士 口述 想定問答集」で検索。すると、予備校3校ほどのサイトがヒットしました。うち1つは無料、2つは有料。といっても税抜1,000~3,000円程度です。また、紙ではなくPDFでくれるらしいから、買えば即読めます。郵送時間を考慮する必要なし。
ですので、その3つをポチりました。

 


ふぅ。
なお、ここまでの調査経過で見かけた記事によると、試験では、事案に引っ掛けて単純な一次知識が問われることもあるらしい(「差別化集中戦略とは何か、説明してください」とかですね。)。
したがって、対策としては、

  • 二次筆記の4事例を繰り返し読んで頭に入れた上で
  • 一次の知識も適宜復習しながら
  • 想定問題集をやり込む

ということになるのかな、とアタリをつけました。

 

 

アタリをつけたというか、もうこれで行くしかないという感じです。模試・セミナーを受けられない以上、途中で軌道修正もききませんし。
そもそも時間も限られていますしね。
模試、受けたかったですけど、ただそこは、数少ない(であろう)他の国家資格口述試験受験者としての経験があることでカバーできるであろう、できるに違いないと思い込むことにしました。
そもそも地方の方とかは地理的に模試受験が無理でしょうから、その点では条件は一緒なわけですし。*8


まあ、勉強しながら時々予備の緊張感が蘇ってきてメンタル削られた、というのはありますけど、でもきっとそれも考え方次第ですよね。
口述試験の経験がない、という方のほうがむしろ不安が強いものだ、という側面もあるでしょうし。
模試は半分は受験生をボコりに来るんでしょうから、模試を受けたら緊張が和らぐ、というわけでもないでしょうし。

 



で、実際勉強してみて、気づいた点を3つほど。


⑴ 想定問答集の話

上記のとおり、僕は3種類の想定問答集を入手して使いました。
当初は、どれも似たようなもんだろと思っていたんですが、結構違いますね。何というか、方向性からして違います。


僕が一番いいなと思ったのは、AASさんの問答集です。

想定される質問を豊富に(15問以上)挙げてくれている
質問内容(質の面)も、何と言うか、リアリティーというか、「ああ、なるほど、こういう感じのことが聞かれるわけね」、という肚落ち感がある(受けたことない人間が肚落ち感とか言うのも変な話だけど)
それぞれの質問に対する回答の例も同様で、納得感がある
回答例のほか、解説が付いていて、当該回答に至る思考の道筋とか、本番までの学習の方向性みたいなもののヒントになる
想定問答集の本体部分のほか、
 ・冒頭に形式面(試験場の建物に入ってからどんな感じの手順で面接室まで案内されるのかとか、最初に氏名と生年月日が聞かれる*9こととか)の説明
 ・末尾に先輩受験者(合格者)からのアドバイスが複数
付いている

といったあたりが特徴かな、と思います。*10
これで税込1,100円(たしか)は安い。十分に元が取れます。

 

なので、僕は、AASさんの問答集を対策のメインに据えて取り組みました。他2つは参考までに一応浚っておく、くらいのイメージです。
時間もありませんでしたし。

 


⑵ 具体的な対策の話

上に書いたことと重複しますが、その想定問答の中では、大きく分けて2種類の質問が掲載されている感じです。
ひとつは、事例問題。例えば、R5の事例Ⅰで言えば、「統合後、元X社店舗でもアルバイト従業員を定着させていくにはどうしたらいいですか?いくつか施策を挙げてみてください。」みたいなやつですね。
他方、もう一つは、一次の知識問題。これもR5の事例Ⅰを例にとるなら、「職務拡大について説明してください。」みたいなやつ。
これらの中間形態として、「正社員ではなくアルバイト従業員を採用する一般的なメリット・デメリットを説明してください。」みたいなやつもあります。


このうち前者について想定問答集の質問と回答例を併せて読んでいくと、どうやら、『筆記で問われた問題とは完全に別個独立の事柄が問われる』というわけではないらしい、ということが分かります。
ちなみに、AASさんのやつの場合、想定問答の最初の方に載ってるのはモロ、筆記の問題を若干変形したやつ(聞き方を変えてたりとか)ですし、他校さんのにも、筆記と内容が重複する質問は必ず入っていました。*11で、他方、そうでない問題であっても、筆記の設問のどれかとは何らかの形でリンクしていることが多い。

 

これ、考えてみれば当たり前ではあって、
・同じ企業に関する質問である以上、複数の質問は(程度はともかく)当然に相互に関連はするし、
・筆記試験では当該企業に関する基本的というか、根本的な部分の質問がされているからでもある。それぞれの事例の設問1におけるSWOT分析・3C分析等が典型だけど、それに限らず。


…なので、筆記の設問に対する『自分なりの回答』*12にブレがあると、何というか、口述の想定質問について考えるときも思考にノイズが入って落ち着かない。
したがって、学習の順序は、僕の場合、

①まず、筆記の事例を読み直し、*13

②そのあと、想定問答集(複数)をザッと流し読みして、大体の感じを掴みました。

③その後、筆記の設問について、自分の再現答案と、想定問答集中の記載や予備校が出してる解答予想なんかを照らし合わせて、『自分なりの回答』を固めました*14。固めると言っても、筆記それ自体の対策をするわけではないので字数制限は考慮する必要がなく、したがって表現だとか要素の取捨選択だとかは端から考慮の外。盛り込むべき要素は何かを明確化することだけ(場合によっては要素間の優先度の高低は多少意識しつつ)心掛けました。*15

④その後、ASSの想定問答集記載の(筆記の設問の変形問題以外の)想定質問をイメトレして潰し、

⑤他2校のは前日~当日にかけてサラッと目を通しました。

…という感じです。*16

 

以上はひとまず事例問題対策なわけですが、上記のうち④⑤は、他方の一次知識問題対策も兼ねています。
ただ、それだけだと少し、心もとないっちゃ心もとない。
というのも、この種の試験で一般的基本知識を敢えて問われる場合って一般的には、試験官が
「ちょっとコイツ(受験生)こんがらがっとるな…いったん単純・基礎的な質問に戻って話の流れを仕切り直そうか」
とかって考えている場合なわけですよ。つまりは試験官の優しさであり、誘導の一環です。*17
ということは逆に、そこで答えられなければお話にならないわけです。助け舟を出されたはずがかえって泥船になって沈んじゃった、ではシャレになりません。
ただ、一次の知識ですから、忘れてます。なんかこう、2×2のマトリックスになってる図、多すぎてこんがらがりません?あるいは、図の内容は覚えてても名前を覚えてなかったりとか。(僕だけ?)
なので、

⑥企業経営理論のテキスト中、出題可能性のありそうなところを軽く見返しておく

…というのは一応、やっておきました。本当に軽くですが。

 

 

⑶「2分?」という話

ここで、予備口述の話をちょっとだけ。
予備口述では、「法律をネタとした会話のキャッチボールができるか」が問われます。なので、「会話の流れの中で」「いっぱい」質問が飛んできます。
最初に事案を読まれるんですが、同事案について、まずは基本的な質問(民事なら請求の趣旨とか、訴訟物とかとか)から始まり、だんだん深掘りしていく感じです。もちろん大きな流れはあらかじめ決められているけど、その枠内における質問事項等々は試験官のかなり広範な裁量に任されている感じです。再現みると、受験者の回答によってその後の質問もけっこう変わってきますし。


他方、診断士口述。記事やら想定問答集やらの記載によると、「1問につき、解答の目安は2分」らしい。
試験の最初にそう言われるんだってさ。試験官の先生から。

 

 

 

 

 

 

 

2分?

 

 

 

長くない?という話である。
しかも、聞かれる問題数はだいたい4問で、試験時間は10分くらいらしい。

 

 

 

 

それ、バッファ2分しかないじゃん。試験官の先生からすれば、会話も深掘りもしようがないじゃん。
誘導だって、そんなにタイトじゃやりようがなくない?


となると、結局、会話のキャッチボールというよりは、野球とかに近いイメージなのかしら。
単純に、来た球を打ち返せるかどうか、みたいな。

 

 

キツくない?

 

 

 

 

 


…というような感じで、ここらへんのイメージは結局、試験本番までいまいち湧かないままでした。

 

一応、若干姑息なテクニックみたいなものはあって、

「回答の冒頭で質問を繰り返して時間を稼ぐ(その間に頭をフル回転させて考える)」

というもの。例えば、「××について説明してください。」と言われたら、「はい、××について説明いたします。それは…」みたいに答え始めるわけです。
僕は、さすがに質問をまんま繰り返してしまうとあからさますぎて心証が悪かろうと思ったので、質問を自分なりに要約したり、あるいは中心部分を抜粋したり、微妙に変形したりして枕詞にすることにしました(本番でもそうしました。)。
これは、持っておいて損はない引き出しだと思います。
副次的効果として、質問の理解が間違っていたら試験官が割り込んで軌道修正してくれるであろう、ということも期待できますしね。

 


その他、
「2分は意外に長いから、時間を測ってしゃべる練習もしておいた方がいいですよ」
ボイスレコーダーで自分の声を録音して聞き直してみるのもいいですよ」
みたいなアドバイスも目にしました。
ごもっともだなと思いつつ、僕は結局、無精してやりませんでした。
だって、2分カッチリを目指してキレイな回答をしゃべり切るなんて、どう考えたってムリだもの。


もちろん、余力があればやるに越したことはないと思いますが。目標レベルを具体化する効用もあるでしょうし。
ただ、それよりは、これは別の方のアドバイスの受け売りですが、

「きれいな説明の仕方を目指すより、多少泥臭くても問いに正面から答えようとすることが大事だと思う、その誠実さを試験官は評価してくれた気がする」

という考え方に、僕は共感します。
そういうイメージで対策に取り組んだ方が、精神衛生上もいいですしね。何より現実的だ、という気がします。

 

 


4.当日のこと

以上の対策をなんとか浚って、当日を迎えました。
というか、時間が午後4時からの枠でしたから、当日を迎えた後も絶賛対策中でしたけど。

 


先に試験内容のことを書きます。

 

僕の場合、事例Ⅰ事例Ⅱから出題されました。*18一般的に、4事例中2つの事例が選ばれ、それぞれの事例から2問ずつ出題されるのが通常のようです。
  ただ、僕は3問(事例Ⅰから2問、Ⅱから1問)しか聞かれなかった気がするんだよな…事例Ⅰの方は、カウントの仕方によっては3問になるのかもしれないですが。

事例Ⅰについての質問が先でしたが、最初に何を聞かれたのかがどうしても思い出せません…。

2問目にはたしか、
 「X社と経営統合するに当たり、A社経営者は、X社経営者にも一定期間残ってもらうことにしました。それはどうしてだと考えられますか。狙い・目的を説明してください。」
という質問だったと思います。これに対しては、一旦そこそこスラスラ答えられた気がするのですが*19、その後、
 「ちょっと質問を変えます。今のお答えは対内的な側面にフォーカスしたものだったと思いますが、対外的な意味もあるものと考えられます。そこで質問ですが、X社経営者が残った場合、対外的には何をすると考えられますか?」
みたいな質問が来たんですよね。で、僕、「えっ…と、、、」って黙ってしまいました*20。たぶん十数秒。ヤバい…と思っていたら、
 「また少し質問を変えますね。X社の対外的取引先としては、どんな方がいましたか?」
という誘導モードに入ってくれたので、そこから立て直すことができました。で、「引継ぎを円滑に行う目的もあります」、という結論に何とか辿り着けました。

3問目が事例Ⅱからで、
 「B社の顧客である子どもたちが来店するのは、基本的には、成長して前の服がサイズアウトしてしまった時であると考えられるため、B社社長は、その来店頻度をより向上させるため、SNSを活用したいと考えました。どのような施策が考えられますか。」
という質問でした。で、めちゃくちゃ詰まりながら、要旨
 「少年スポーツチームのアカウントなどと連携し、試合などのイベントがあるたび、それと関連付けて、パフォーマンス向上に役立つような製品をアピールすることが考えられます。」
みたいなことを答えました。
  ちなみにこの時、「来店頻度向上のためのSNSの活用、ということですと…」みたいな話し出し方をしたら、試験官の先生が、
 「そう!SNS。それを使って顧客価値向上を目指したいんですが、そのためには…?」
みたいな合いの手を入れてくださいました。
  考える時間をもらえてとても助かりましたし、「がんばれ!」というお気遣いが感じられて、大変ありがたかったです。*21

で、よし何とか答えた、あと1問!、と思っていたら、「これで終了です、お疲れさまでした」と言われました。

 

1問足んなくない…?、という不安はありましたが、会話は辛うじて成り立った気がしたので、あまり気にしないことにしました。
何と言うか、質問のレベル設定が絶妙だと感じましたね。

  • ちゃんと回答するとしたら、たしかに2分が目安にはなる
  • 何となく方向性は見える、ただあくまで「何となく」である
  • よって大概しどろもどろにはなるし、要素に漏れも出る*22、だから多少の誘導が必要になる、
  • 他方、しどろもどろだったとしても一定程度答えられていれば、残り時間との関係で、誘導なしで質問を切り上げる、という選択肢もあり得る(だって、落とすための試験ではないですから。)、

…という諸々を考慮すると、4問で約10分というのは、納得感のある時間設定だと思いました。


それから、試験官の先生は2人でした。僕はてっきり片方が主査でメイン質問、片方が副査で意地悪質問とメモ・採点担当、みたいな感じで分かれてるのかな、と思っていたら、違いました。事例ⅠからⅡに切り替わったタイミングで質問者が交替しました。で、一つの事例に関する質問が続いている間は、質問者は変わらず固定されたまま。
特にどちらが意地悪ということもなく、どちらの先生も親切に誘導してくださいました。
僕としては、やや意表を衝かれました。

それと、片方の先生から質問されている間は、僕、その先生に正対する形で答えていました。そうすると、もう一人の先生が何をしていらっしゃるかが微妙に視野から外れて見えません。
いや、見ようと思えば見えたのかも、という気もしますし、実際なにか手を動かしていらっしゃることは分かったのですが、質問者の先生の挙動に集中してたこともあり、どのタイミングで・どんな感じで手を動かしていらっしゃるのかまでは分かりませんでした。
なので、何を答えたときに・それをどう評価されたのかとかは、不明です。

 

あと、結局、僕の場合は、一次知識は何も聞かれなかったですね。
でも、きっとそこは場合によるんでしょう。事例Ⅳがネタになる場合だと、一次知識を聞かれることも多いような気がしますし。しらんけど。

 


さて、当日の流れ。

試験開始時間は午後4時でしたが、受験票には、30分前には受付を済ませておけ、と指示が書かれていました。

また、複数のネット記事で、

「口述は会場にインタイムで辿り着くのが一番だいじ!だから早めに家を出ておけ」

というご趣旨のアドバイスに接していました。なので、電車トラブルがなければ3時くらいに会場に着くような目安で家を出ました。
会場は池袋の立教大学で、僕の場合、筆記試験と一緒のとこでした。

無事何事もなく池袋につき、地下道をてくてくと。

ザ・休日、という感じですね。試験開始時刻がばらけてるから、筆記の時と違って、受験生が列を作って会場に向かっているようなこともありません。
地上に出ても、時折、「あ、試験終わった受験生だろうな」というスーツ姿の人とすれ違うくらい。
天候はあいにくの雨(小雨)。

大学入口前には、予備校から応援&チラシ配りの人たちが来てました。ただそれも、筆記の時と比べればこじんまりとした感じ。

 

 

中に入ると、案内係の方が寄ってきて、「受験生の方ですか?試験は何時からですか?」と質問されました。
「予定時刻は4時です」と答えると、「では、時間には余裕がありますので、入って左手奥の待合室でお待ちください」とご丁寧にご案内くださいました。


待合室(大教室)には受験生がズラリ。席順は順不同。スペーシングには余裕があり、座るのに距離が近くなりすぎるようなこともなかったです。
ちなみに受験票には「会場内では電子機器使用禁止」の旨書いてあったのですが、みなさん普通にスマホで音楽とか聴いていらっしゃいました。*23

ああ、そうだ。僕が見た限りですけど、私服の方はいなかったですね 笑
ただ、立派なお髭を生やしていらっしゃるダンディーなお兄さんはいました。


ホワイトボードを見ると、
「試験開始時刻15:12・15:24・15:36の受験生は××教室へ」
みたいな感じの案内書がされていました。なるほど12分刻みなのね。で、僕は20分後くらいに呼ばれるわけね。
で、トイレを済ませて最後の見直ししているうちに、

「試験開始時刻午後4時の受験生の方は~」

と、僕らも呼ばれました。

 

案内係の人に付いてって階段を上がり、中教室みたいなところへ入り、受験票の確認を受け、首から下げるストラップを受け取ります。セキュリティ付きオフィスの社員証みたいなイメージですが、入っているのはただの色付きカード。僕の場合はたしか赤色。どうやら試験開始予定時刻ごとに色分けされている模様。
ここで試験開始まで待つ感じかな、ここが予備口述で言うところの発射台かな、とか思っていると、もう一度教室異動がありました。

そこでは、一つ前の試験開始予定時刻の皆さんが班番号順に整列して待機していらっしゃいます。*24で、僕らはその左隣に座ります。
僕の場合は22班でしたから、『22班、試験開始予定時刻15:48の方』(カードの色は黄色だったかな)の左隣に座った、ということです。


で、時間が来ると、試験開始予定時刻15:48の受験生一人一人の右隣に案内係の方が付いて、注意事項(スマホは電源を切ってカバンの中にしまってください等々)を説明の上、皆さんを該当教室に連れて行きました。
残った僕らは、席を右側に詰めます。それから数分すると、今度は、試験開始予定時刻16:12の方々が教室に来て、僕らの左隣に座りました。
この教室内では、すぐ自分のターンが来るからか、特に何も勉強せず座って待っていらっしゃる方が多かったです。かく言う僕もわちゃわちゃするのが嫌で、目を閉じてイメトレしていました。
そうしているうちに、僕が連れていかれる時が来ました。

 

連れていかれた先は、小教室の前。

「時間がきたらお声がけしますので、そうしたらノックの上、返事を待たずに入室してください。荷物置き場は入ってすぐ左手にありますので、そこに荷物を置いて試験官の前に進んでください。それで試験開始となります。」

みたいなご案内を受け、教室前(廊下)で着席。
10分くらい待つのかな、と思っていましたが、実際には、3~5分程度待ったところで入室を促されました。


ノックして入ると、確かにすぐ横に、机が2~3個固めてあって荷物置きにしてあります。
同じように、試験官の先生方の前にも机が固めてあって、いろいろ書類が置いてあります。その数メートル前に受験者用の席(椅子)が用意してあります。
荷物を置いて関の横に進むと、

「どうぞお座りください」*25
「はい、失礼します」
「ではまず、お名前フルネームと生年月日を和暦で仰ってください」
「はい、××、生年月日は△△です」
「これから口述試験を始めます。筆記試験で出題された4つの事例のうちいくつかを素材に質問しますので、それに対して、中小企業診断士として回答してください。回答の時間は、あくまで目安ですが、2分程度とします」
「はい、承知いたしました」

みたいなやりとりがあり、そこから試験開始、となりました。

 

で、試験終了して退室すると、案内係の方から、
「お疲れさまでした。このままお帰りいただいて結構です。」
みたいなご案内を受け、帰りました。


幸い、雨は上がってました。

 

 

 

5.試験後のことなど

この日記、約1週間かけてここまでボチボチ書いてきたんですが、本日1/31(水)は最終合格発表日。
無事、合格することができました。

嬉しいです。しみじみ。

 

ちなみに、2月の実務補習は、もう明後日の2/2から始まります。で、申込期間はなんと1/12(金)から、つまり筆記の合格発表の翌日からです。
で、すぐ埋まっちゃうらしいです。もちろん僕は申し込んでないし、申し込もうとすらしませんでしたけど 笑
ゆっくり、7~9月なり来年2月なりに受けようと思います。*26


なので、それまでの間は、いずこかの団体に入れていただいて活動しつつ、弊業界の外のいろんな人と交流してみようかな、と考えている次第です。せっかくだし。
まあ、人見知りなんですけどね。がんばれ当職。


そうそう。多分なんですけど、そういう団体が主催してる口述模試とか口述セミナーとかって、メンバー募集の告知なんかも同時にされてるんじゃないですかね、きっと。なので、人脈を広げたいと考えていらっしゃる方は、そういう意味でも、できるだけ参加した方がいいのかもしれないです。
そのためには、筆記合格発表に先立って、チェックすべきサイトなりSNSアカウントなりを整理しておく必要がありますね。*27

 

 

 

 


口述体験記、以上です。*28

 

 

 

 

 

 

 

*1:ここまで来ると「お前それは受験生としてどうなの?」と我ながら思わんではない。

*2:なお、予備口述のほか、二回試験も「ほぼ落ちない」という意味では似てはいますね。予備口述にせよ二回試験にせよ、「ほぼ落ちない試験だから安心して良い」とはならないところが本っ当に恐ろしい。

*3:こうして比較してみてみると、予備口述、むしろこんなに落としてやがったのかと思う。平成30年26人て。旧司みたく論文免除があるわけでもないくせにさ。

*4:正確には、予備は土日の2日を使うのに対して診断士は日曜1日だけですが。

*5:とはいえ今回は、ぶっちゃけ、「むしろ落ちたらおいしい側面あるかも」と考えるくらいの余裕はありました。①そういう視点を診断士試験自体を通じて身に付けたこと、②2つめの資格獲得に向けた試験であること、に加えて、③ちょっと前、SNSを通じて、僕と同じように予備口述に落ちた経験/経歴を活かして、司法試験合格後から受験指導で活躍されてる方と知り合って刺激を貰えたことが大きいです。知り合いって言ってもFF関係になって何度かDMのやりとりしただけですけど。

*6:そうそう、なので、最初に同ブログを見たときは、絵の中の中村先生が着てるTシャツの柄、意味が分からなかった(何の反応もできなかった)んですよね。「カット形状不均一」ね、ボケが細かいな 笑

*7:というか、ふぞろいって模試とかもやってくれてたんですね。書籍作成とブログだけかと思ってました。初めて知りましたよ。

*8:あるいは、最近はZoomでの口述模試なんかも開催してるのでしょうか。ちょっとそこはよく分かりません。

*9:ここは予備口述とは違いますね。あっちは匿名処理がされていて、会場で知らされる受験番号みたいなの名乗るんじゃなかったかな、たしか。

*10:正直、ⅱⅲは、AASさんのやつの特徴というより、他校さんの問答集では首を傾げた(けどAASさんのではそういうことはなかった)、というのが率直な印象ではあります。

*11:なので、その部分に限って言えば、もはや筆記試験の予想解答に近い。逆に言うと、口述の想定問答集だとか体験記だとかって、筆記対策の合間に読んでも参考になるのかもしれない。

*12:正解が分からないやつも多いので、必ずしも『唯一の正解』にこだわる必要は、個人的にはないと思う。論理の筋が通ってさえいれば。

*13:めちゃどうでもいい話ですが、筆記時に持ち帰った問題冊子の方が記憶喚起に繋がりやすいかな、と思い、まずはそっちを引っ張り出しました。で、その後、後述③④⑤の作業をしながらマーキングをする用に、新たに協会HPからDL・プリントアウトしました。

*14:なので、口述対策という意味でも、筆記後の再現作成はマストですね。もちろん、落ちてた時の振り返りのためにも。ホント、やっておいて良かったです。

*15:この学習って、やってる過程で自分の解答の誤りに気付くから「うわぁ…」と感じたりもするんだけど、個人的にはむしろ、分からずに適当に書いた箇所の予備校の解答解説なんかを読んで「ああ、なるほど、そういう感じか!」と肚落ちする楽しみ(?)の方が大きかったです。だって、既に筆記には合格したっていう結果が出てる以上、どんだけ間違っていようがさしてメンタルは揺らぎませんから。

*16:なお、「一番大事なのは与件文の読み込みであり、『ストーリー』と『SWOT分析』をカッチリ押さえてさえいれば口述対策としては十分だ」みたいな見解をそれなりにお見掛けします。ご趣旨には同意するのだけれど、私見としては、「与件文にある事案の概要をきちんと自分のモノとして咀嚼するためには、むしろ、想定問答集を潰す作業はかなり有用」だと思います。アウトプットなしにインプットなんかできないわけだし。事例を分析するにも解答の例くらいはあった方が客観性を担保しやすいし。

*17:ただ、これは口述試験後にこのブログを書いている過程で偶然知ったのですが、平成14年度の試験では「デファクトスタンダード」の説明が求められ、答えられなかった受験生が全員不合格になった、ということがあったらしいですね。これが試験制度開始直後のオペレーション不全によるエラーなのか、それとも再び起こり得る事象なのかは判然としません。

*18:(2/1追記)筆記の成績が返ってきたので見てみたところ、僕、事例Ⅰ、次いで事例Ⅱがいちばん点数が低かったです(Ⅱはともかく、Ⅰはまじでびっくり)。なので、「口述では出来の悪い設問2つが選ばれる」みたいな話、あながち単なる都市伝説だとも思えなくなってきました…。

*19:たしか、ノウハウの承継と従業員の離職防止の観点から説明した気がします。

*20:「引継ぎ」というワードは出てきたんですが、文章の形で説明を言語化できずに詰まってしまいました。汗。

*21:あるいはひょっとしたら、SNSじゃなくてHPの活用とか(あとはアプリとか)、制約条件を無視した解答がそれまで散見されたため念を入れた、という可能性もありますね。

*22:なお、僕は最初からしようとは思いませんでしたが、ヤマ張りは止めた方が無難じゃないかな、と思います。現場で無駄に焦る要因になり得るとか、予想問題に引きずられると問いに素直に答えられなくなりがちだとか、弊害が多い気がします。想定問答集はあくまでシャドウボクシングみたいなものだと思います。

*23:このへんは予備口述より全然緩いですね。というかあっちの場合、たしか建物に入る段階で封筒みたいなの渡されて電子機器類はそれに入れさせられるんじゃなかったかな。待機時間中のトイレもいちいち係の人が付いてくるし。係の人愛想の欠片もないし。問答無用で半日缶詰にされて背中痛くなるし。東京地検地下の弁録待ちかってんだ。思い出すとだんだん腹立ってきたな。

*24:このとき見た限りだと、たぶん、立教大学会場の受験者は36班に分けられてたっぽい。他方、試験開始時刻が12分刻みだから、仮に試験実施時間帯が9:30~17:30で中1時間昼食休憩だとすると、各班35人の受験者がいることになります。ただ、もしそうだとすれば、立教大学の受験者だけで35×36=1,260人いることになるんですよね。さすがにそれはおかしいわ。どうなってたんだろ。

*25:着席が先だったような記憶だけど、もしかしたら名前生年月日の確認が先だったかもしれません。ちょっとここはあやふやです。

*26:ただ、来年2月から最小コース日数が変わるらしいせいで年をまたぐと若干面倒というか、無駄が発生しかねないというか、ちょっとアレな感じになっています。まぁ、それも含めて考えます。

*27:心がザワつくであろう合格発表直前にその作業をするのがアレなら、筆記直後にやっておくか、何なら筆記の勉強と並行して息抜きがてらやる、というのもアリですね。僕だったら筆記直後にやるかな。

*28:ちなみに、今年は口述不合格者は2名だったみたいですね。

【日々の雑感】アタマノナカデ、コトバノナカデ

(約7,000字)

 

 

 

 

 

 

エヴァ(旧劇場版)とジョジョ6部(ストーンオーシャン

最近、ふとしたきっかけで、(今更ながら)旧劇場版エヴァのあらすじを知った。
それで、自分の好きな小説が、実は一部、エヴァの筋を下敷きにしていることを(今更)知って驚愕した。
おそらく作者(円城塔さんの方)も隠す意図はないと思うので作品名を言ってしまうが、『屍者の帝国』である。

作品愛が感じられるなぞり方で良いなぁ。*1
アダムのあの行動、碇ゲンドウのオマージュだったんだ…

 

 

自分がなぜこんなにびっくりしているのか我ながら判然としないところもあるが、自己分析を試みてみるに、

屍者の帝国』が自分の偏愛する作品である、
純粋に、ゲンドウ/アダムの行動の動機が美しい*2(賛否両論あるのかもしれないが)、

という2つに加え、

エヴァが世代的にモロに被っており(10代中盤の頃にオンエアされ社会現象化)、偶然の作用しだいでは*3自分の人格形成に大きな影響を与えていてもおかしくない作品だった

という要素が大きいのかも、と思う。

 

 

これ、ジョジョ6部の筋、というか終わり方を、30過ぎてから知った時の驚き/要素に似ている。
(以下、場合によってはネタバレになりますので、お嫌な方はご注意ください。)

同種の終わり方*4をしている後発作品いくつかが好きだったので、「これ、ジョジョと同じだったのか!」という驚きがあった。*5

この終わり方、心を抉るよな…

 

 

 

 


…というようなことを思いました。
特にオチはありません。

 


「自分が見落としていた(名前だけ知ってた)作品の内容を知って、それが何らかの意味で自分の過去の体験とリンクしててびっくりした」

みたいなこと、皆さまはありますかね?

 

 

 

 

 

小説

そうそう。上記と若干似ているが、

「先行作品の内容中コアな部分と、それをオマージュした後発作品があることは知ってたけど、その先行作品を読んだこと自体はなかった」

みたいなケースの当該先行作品を、先日、読んでみた。

もちろん、
著作権は表現を保護するものであってアイデア/コンセプト自体を保護するものではない、ということは(職業柄)知っているし、
・だからこそ先述したような大好きな作品が生まれているわけだから、このルール自体に異議を唱えるものでもないけれど、
それも最低限、先行作品に対するリスペクトあってこそだよね。

 


推理小説のネタをまんまパクった上に開き直ったらいかんでしょ。
どの作品のこととは言いませんけど。*6
職業・法律を離れたいち個人としての(率直な)心情ですけど。*7

 


で、上記作品については、
"松本清張以後の推理小説界におけるとある雰囲気に勇気をもって異議申立てを行い、その後の大きな流れの嚆矢となった"
って意味でも、敬意を払われて然るべきだよね。
前から気になって作品ではあったけど、今回、読めて良かったです。

 

 

流れのまま、ここ1ヶ月くらいで接した作品の記録を。

小説は、『占星術殺人事件』に加えて、これ↓。
久しぶりに西澤先生の作品を。

今回のは、西澤先生によくある、「内容的に繋がりがある短編集」系。
いや、こんな設定、よく思いつくよな 笑
軽妙さの奥に社会の裂け目みたいなものがパックリ不気味に口を開けている…みたいな温度感。そうそう、今回はこういうの読みたかったのよ僕は。
この中だと…『まちがえられなかった男』か『リアル・ドール』が好きかなぁ。
後者はちょっとアレな作品だけど、「おほっ、今回はそういうオチで来ましたか!」という仕掛けとラストが楽しい。
笑いごとなのかどうかは知らん。

 

 

マンガ(単行本)

今回、集めてるマンガの発売日が集中した感じである。
(以下、前回の記録漏れ分も含めて。)

 

23巻。
羂索、人物像(過去)の描写がないから内面が読めなさ過ぎて、話(説明)が頭を上滑りしちゃうんだよな。
しかしお前は絶許である。
僕、九十九さんのあの感じ好きだったのに…情の厚さと達観の仕方のバランスみたいのがタイプだったのに…
漢気のある気のいい姉さんでカッコよかったのに。
戦い方もガチンコ肉弾戦系でカッコよかったのに…

24巻
どんどん話に救いがなくなっていく。
そしてここでまさかの宿儺が××。無惨様的に超然とした人間観。
石流さん一瞬すぎ。強さのインフレ化が起きつつある。
それとこれ、五条先生どうなるの?いつかは復活するんだろうけど(そしてそれをとっても楽しみにしているのだけど)、そこまでの道筋が全く見通しつかなくなったな…。

 

え、何これ超ピンチじゃん。どうなっちゃうの??
今回のヨルさんは恥じらい顔がいまいち可愛くなかったな。70点。
奥さんへの恐怖をバスジャックのトラウマにすり替える自己欺瞞、リアルすぎて好き。
怖いよねそれは。

 

 

ちょっと話が拡散しがちかなぁ…5人の悪党のエグさ、じいちゃんの底知れなさ、俊の内面の苛烈さが1部の魅力だったから、テイストがガラッと変わった2部には未だ馴染めないところがある。
麗央ちゃん、これで出番は終わりになっちゃうのかしら。過去体験にはいまいち感情移入できなかったけど、もうちょっと活躍を見てみたい気もする。
××ちゃんのそっくりさんが出てきたのはびっくりした。あの死に方は相当えげつなかったからなぁ…その前に円にも被害に遭ってるし。
続きが読みたいような、読みたくないような…。

 

今回はいろんな出来事が矢継ぎ早に起こる巻だったな。内面描写は鳴りを潜めた感がある。李白は有能だなぁ。
他方、番外編ぽく挟まってる怪談回が不気味で印象に残った。子翠の話は何かの伏線になるんだろうか。
カマキリ怖い。
それと、蛙の件…猫猫よ。今回のそれは真摯な謝罪に値すると思うぞ。マジで謝れ。

 

アラタ、お前は本当にいい男だな…。
ところで、映画化決定、だそうである。

びっくり。


以前も似たようなこと書いたけど、巻を追うごとにどんどん好きになってきてる。キャストはバーンと豪華に頼むぜ。
本巻で、『結婚』の行方は決着した。納得の落としどころと言うしかない。
一方では桜井や周防のそれみたいな結婚観もあり、僕個人としては正直、周防のセリフ*8

「心底ほっとした。」
「『何かを永遠に継続しろって契約』こそが、『地獄』なんだ…って。」

には心底、共感した。でも、それでも、

「ボク、見通しを立てなくするために結婚するんだって思ってたよ」
「ボクは、今 すごく―『自由』!」

(真珠)とか*9

「俺たちの幸せが欲しかった。生まれて初めてそんなこと思ったんす。」
「俺の結婚は、悪くなかったっす。」

(アラタ)とかってセリフ(11巻p189-192)は沁みた。スッと違和感なく入ってきた。
そうそう。それと、アラタが後者のセリフというか、物語を共有する相手としては、サイバンチョさんほどふさわしいキャラはいないよね。*10
本作品は、裁判官を訳の分からない腹黒キャラとして扱うことをせず、一個の人格の持ち主として立体化して描いた、少し珍しいフィクションだという気がする。

 

 

他方、全体的な筋に関しても、凄えな、の一言に尽きる。あるいは、やっぱり凄えな、かな。乃木坂太郎さん。

「ボクと一緒に暮らせる?―じゃあ、出るね。」

から始まったサイコで怪奇的な物語が、見事に伏線回収して、現実感のある話として着地した。*11
次集(2024年1月頃発売予定)完結、だそうである。

 

「だってあの時聞いたんだから。ボクと同類の、獣の叫びをさ…」

と述解した真珠*12が、遂に、自身の獣の叫びを明らかにする。
真珠…死にたいと思ってた時すら気づかずにいた自分の本心に向き合わされて、完全に内閉地獄に落ちたからな。

 


感情移入できるキャラが揃った作品にせよ、安易なハッピーエンドはお断りである。ただ、乃木坂太郎さんの場合、それは全く心配していない。
だから、何とか、救いのあるラストにしてほしい…と思う。

 


新書+α

今回は新書はコレ↑だけ。
職業柄、精神疾患に関しては「よく知りません」では済まされない部分もあるし、何が先天的で何が後天的形質なのかとかは一個人としても興味があるフィールドなので、買ってみた。
自分自身鬱になった経験がある身としては、他人事ではないし。
で、そういう動機で読むには話が先端的すぎた感もあるが、興味深く読めた。
ただ、これも再読対象かな。せっかく読んだのだし、大筋だけでいいから、多少は知識を頭の中に残したい。

 

これ、同じ選書シリーズの一冊『英語の文型』を以前読んで「いいな!」と思ったこともあって、今回、もう一冊手を伸ばしてみた感じ。
地味な見た目に反して(?)、分かりやすいんだよね。各章の最後で「この章の要点」をまとめてくれてるのも親切。
構成も工夫されていて、第一部で英語史を通観し、それを踏まえ、第二部で現代英語のいくつかの特徴を取り上げ、そこに至る歴史的経緯を深掘りして紹介する形式。
内容的にも、基本的なことも漏れなく説明してくれつつ、具体例も豊富だから、飽きずに読める。
まぁ、敢えて欲を言えば、単語レベルの知識(起源、意味変化、発音変化)だけじゃなく、文法レベルの蘊蓄も欲しかったかな。でもまあ十分満足。

 

同じく英語ネタ。
そうそう。前回の日記でPCの故障に触れたけど、修理の間スマホ中心の生活をしてた副作用で、YouTube動画を見る癖が付いてしまった。良くも悪くも。
で、KERさんを見つけてしまった。クッソ面白い。
お三方の掛け合いが和気藹々としてるとことか、常識豊かな範囲内でふざけまくってるところなんかも、無防備な心理状態で見れるから良いね。
堪能してます。そういうわけで、本書も買ってみた次第。

 

日本人が言いがちな英語表現のネイティブへの印象を扱った書籍は昔も買ったり読んだりしたことあるけど、本書は実は、それらと比べて情報量が多いところに特徴があると思う。適切な代替表現なんかも複数挙げられてるし、例文も豊富だし。
それなのに、本文会話形式だから読みやすいし。面白いし。
ハードカバーだけど1300円だしね。これは、お買い得な一冊だと思う。

 


音楽

数年前にハマった曲に再びハマり、エンドレスで聞いている。
凛として時雨『mib126』、という曲である。
動画に関してはオフィシャルなやつはなさそうなので、アップロードは自粛しておきます。お手数ですが、気になる方は適宜検索してみてください。

代わりと言ってはなんですが、収録されているアルバムがこちら↑。最後を飾るのがこの『mib126』。

 

途中、曲調が一気に変化して暴徒化する感じ。そこから最後までの疾走感が凄い。
僕の中で、個人的なイベントのうち、試合前とか試験前みたいなタイミングで聞くならこの曲を措いて他にはない。
脳汁出まくりの一曲である。

 


そもそもタイトルの読み方すら定説がない。僕自身は勝手に「エムアイビーいちにいろく」、と読んでいる。
当然、込められた意味も不明。ただ、ネット上の意見なども参考にしつつ、『mib』は『ミ・フラット』、『126』は『みよこ(345)不在』、という意味かな、と推測している。
音感がある人間ではないので、この曲が本当にミフラットの曲なのかどうかは僕は知らん。

 

 

他方、『345不在』の方は聞けばわかる。時雨ダブルボーカルの片翼、みよこさんの声が入っていない。
時雨の曲のボーカルでは通常、TKが叫んだりして暴れる合間にみよこさんのクールな高音が入り、全体として均衡が採れている。
mib126では、その抑制役のボーカルが不在なわけなので、つまりは均衡が崩れている。そこがそのまま、精神の均衡が崩れたかのような不安定さに満ちた曲調とリンクし、増幅している。
ところで、みよこさんはボーカルのほかベースも担当しているわけだけど、mib126にも、ベース音源の方は(もちろん)入っている。ただ、ベースの音は、何というか、エグい。
途中の間奏部分、TKのギターと手を取り合って、精神の平衡の向こう側へ加速度つけて突撃している感すらある。*13

 


先程から『ボーカル』『間奏』という言葉を何気なく使ってはいるが、この曲の場合、歌詞がもはやイメージの羅列に近いので、楽器演奏こそが主旋律に近く、『ボーカル』はもはや呟きとしての『点』に過ぎない、という側面もある。
ただ、かといってボーカルが脇役に過ぎないわけでもない。
前半の静かな曲調の中では、呪文を唱えるかのようなTKの呟きが印象的な不気味さでもって浮き出ている。
他方の後半は、シャウトがとても効いている。時雨の代名詞とも言えるTKのシャウト。

 


特にこの曲は、聴くたんび毎回、

オレンジプラスミイィーーー
クレィジーダンスィーーーン

と叫びたくなる。

 

 

 

 

 

 

 

*1:さすが結婚式でコスプレするだけある。

*2:正確に言うと「行動のグロテスクさと動機の美しさとの落差が大きい」、だろうか。

*3:当時の僕には、「なんか東京で凝った設定のアニメが流行ってるらしい」程度の認識しかなく、ほぼ予備知識なしに友達と劇場版(物語のラストを見た記憶はないから、たぶん、『劇場版 シト新生』だったんだと思う。)を見に行ったくらいだった。分析本みたいなのも買ったが、物語の筋そっちのけで「死海文書って名前がカッケエな、何だそれ?」みたいな読み方に淫していた記憶である。

*4:(この注釈はモロにネタバレです、未読の方注意→)①主人公(以下「X」)が、何らかの意味で『世界』を救う、②ただ、その『世界』はパラレルワールドのひとつである、③最後に、元の『世界』とは別のパラレルワールドに生き残った人たち(主人公の仲間(以下「Y」)とか)が描写される、④その『世界』では、YしかXのことを覚えていなかったり、あるいは、Yも含めて誰も、自分が今存在しているのがXのお陰だ、ということを知らなかったりする(当該作品の設定次第)、それがなんとも切ないというか、やりきれない読後感を読者に残す…みたいなまとめ方になるだろうか。

*5:こっちに関してはオマージュだという確信はない。というか、そもそもこの種の終わり方をしたのがジョジョが初めてなのか、それとも更なる先行作品があるのかもよく知らない(僕が知る範囲ではジョジョ6部が最初、というだけ)。SF界では昔から知られた手法だったりするのだろうか?

*6:この件、結局、謝罪はされずじまいだよな?もし万が一、私が不勉強で知らないだけならごめんなさい。

*7:書いておいてなんだけど、こう、「法律で特に規制されても違法とされてもいない行為に関して消極的な意見を述べること」について、個人的に、若干の躊躇があるな。法規制を離れたフワッとした倫理に基づく同調圧力みたいなものに対して警戒感が強いからだけど。まぁでもリスペクトを欠いたパクリに関しては、ダメだろ、って思う。

*8:10巻p114-115

*9:7巻p34-36

*10:まさかここで托卵のエピソードが活きてくるとは。

*11:回を追うごとに怪奇色を増してきた『幽麗塔』とは、ある意味、真逆かな。

*12:10巻p109

*13:本文では触れませんでしたが、(TKのみならず345までも"狂"側に加担してる分、)この曲が曲としての体裁を守れているのはひとえに、ピエール中野さん(ドラム)のおかげであると思う。

【日々の雑感】この夏の記憶

ああ懐かしいカスタネッツ


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(約5,000字)

 

 

 

 

 

 

HP

HPのリニューアル作業を進めている。

 

 

「進めている」と書いたが進められていない。法律ブログの方にも書いたのだが、先日、PCが壊れるハプニングもあった。
多少であるにせよ、作業結果の蓄積が全部パアになりかねなかったので、かなり目の前が暗くなった。幸いにしてデータは無事で、本当に良かった。
今さらながら、今後は対策(バックアップ)も考えておかないといけない。

 


ところで、塾講師をしていた頃、結構な量の教材を作り貯めていたので、以前から、
「機会があったら、汎用性の高そうなのを見繕って公開できるといいな」
みたいなことは考えていた。なので、HPリニューアルのこの機会に、ついでにそっちの(趣味の部屋?みたいな)ページもさわりだけ試作してみた。
遊び(息抜き)が3分の1、ボランティア的公共心が3分の1、自身のコーディング練習目的が残りの3分の1、みたいな感じである。

そして今、だいぶ久方ぶりに昔作った教材を眺めたりしているのだが、
「果たして、どれなら汎用性があって、人さまの参考になるもんだろうか」
と、考え出すと結構深刻に悩んでしまう。
僕の元勤務先は、途中で大手に買収されて大きく勤務環境が変わり、以前は好き勝手できていたものが、買収以降はかなり手足を縛られることになったのだけれど。
好き勝手できてた頃、すなわち、「俺の作った教材こそ至高!」などとイキっていた頃の教材は、今見るといろいろ恥ずかしい。
他方、裁量を羈束されてから作ったものは「補助教材」の範疇を超えることができなかったから、その多くが、『シリーズ性』とか『自己完結性』を欠く。しかも当時の入試問題を意識し過ぎているきらいもある。

 


まぁ、あくまで趣味。
長くやってきた前職とはいえ、もう既に神様にお返ししてしまった能力のこと。
気楽にやろうと思う。

 

 


 

この夏の記録

この
「神様に能力をお返しした」
って表現、僕のオリジナル創作表現ではないのですが、どこで接したのだったか、遺憾ながら覚えていない。
とても素敵な表現だと思う。*1
ほんと、どこで接したんだったかな…。。

 

 

 

本にせよ映画にせよ音楽にせよ美術にせよ、著作物、創作物って、ほんとにいいものですよね。
以下、聴いたり読んだりしたものの記録です。

 

 

 

新書+α

完全にその場のノリで、好奇心で買った。特に何も考えてない。
子ども時代にNewtonを買ってみたのと同じノリである。時にそういうノリになることも大事なんじゃなかろうかとか思う今日この頃。
とはいえ徹頭徹尾「全くわからん…」状態はキツイ。だから、本の前半、ちゃんと一般相対性理論とかの基本部分を紹介してくれてるのも*2、本書を買った大きな理由。
結果的に正解だった。特に後半は本当に分からんかった。いや、前半も「ちゃんと分かったんかお前?」と詰められると怪しいけど。

 

なんか本屋さんで平積みされてたから(なぜ今頃?)、今さらではあるが買ってみた。
うーん…まぁ考えてみれば当然なのかもしれないが、法曹が普通に読んでも楽しめる、という種類の書籍ではないかな…、というのが率直な印象。いかんせん司法修習を経て、一定期間、刑事裁判官の法廷での顔と執務室での顔を両方間近で見る経験をした身としては、本書を読んで新たに感じることは特に(ほぼ)ない。
ただ逆に、きちんと業界外の方向けの説明がいい塩梅に交えてあるから、一般の方の読み物としては良く工夫されていると思う。

 

この3冊は、重厚だった。
扱われてる内容を、それなりにきちんと自分のものにしたいと思って買ったし、読了後はその思いが強まった。ただ、一読しただけでは無理だ。
再読しないと。

『戦略がすべて』。瀧本先生の本は全ての行が切実な学びを伴っている。一冊読むと他の著書ももっと読みたくなる。

現代思想入門』。この本のおかげで、ようやく、フランス現代思想のほんのさわりを捕まえることができた(、かな)。正直、ドゥルーズガタリとか、他の本読んでも何言ってるのかさっぱりだったもんな…。
そうそう。本筋とは少し離れた部分だけど、「読書はすべて不完全である」の箇所で書かれていること読んで、少し心が軽くなったよ。

『現実とは?脳と意識とテクノロジーの未来』。これ、ハヤカワ新書創刊シリーズの一冊らしいが、いかに創刊記念とはいえ豪華すぎんか?こんな錚々たるメンツの最先端議論がこの価格で読めていいのか?

 

これだけ新書じゃないのだけれど、電車の吊り広告で見て即購入決心した。
きちんとした肩書の方が書いてくれていて安心。また、経験に照らして腹落ちする内容も多かった。
それこそ、勉強になった。

 

中野先生の書いたウェブ記事を以前読んだことがあって、一度、MMTの考え方がコンパクトにまとまった書籍は読んでおきたいと思っていた。
僕にはここに書かれていることと伝統的経済学の是非を論ずる能力はないけれど、一応、書かれていることは(ある程度)理解できた。
なるほど。

 

前職の関係で興味があるテーマだったので、ためしに買ってみた。ところどころ、「あ、そうだったんだ」、と思う箇所もある。
ただ…この種の『世界史』と『英語』を直結させた各論的文献を読む前に、『英語史』をひととおり押さえることができる書籍を挟んでおくべきだったかな、その方がもっと面白く読めたかな…というのが個人的後悔。
他方、授業で使える小ネタの引き出しを増やす、みたいな読み方をする分には、良い御本だと思う。たぶん。

 

 


小説・随筆など

伊藤計劃さん×2。

伊藤計劃記録Ⅰ』。生前のブログ*3。何というか、虐殺器官とかハーモニーに繋がる思考の萌芽みたいなのをところどころで見つけることができて、ファンとしては読んでいて楽しい。
しかし、本当に伊藤計劃さんって速筆だったんだな…こんな量のブログ、こんな頻度で書けないよ。

メタルギアソリッド ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』。伊藤さんがメタルギアのヘビーなファンだということは知っていたので、そのメタルギアってどんなお話なんだろう、というのはずっと気になってはいた。ストーリー性を損なわず、でも『ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』の前提知識(けっこう膨大)がなくてもきちんと読めるように書かれている。凄い。

 

短編集*4であり、書かれた時期はバラバラ。
本屋さんで見つけて、「こんな短編集出てたのか!」と驚いて買った。
アゴタ・クリストフ節を再び味わえて本当に嬉しい。三部作*5・二戯曲集*6を読んだ時に感じた感情の空気感みたいなものを思い出すことができた。

 

しかし、伊藤さんにせよアゴタ・クリストフさんにせよ、本当に惜しい方が命を失われている。

 

ゴッホの半生の紹介+ご著書の『たゆたえども沈まず』の紹介)÷2、みたいな感じ。『たゆたえども~』のほうは未読だから正直、後者の側面は要らんと思ったが、巧い角度の付け方ではあるかな、とも思う。史実とご自身の創作はきちんと分けて書いてくださっているから、気に障るほどではない。
自分が左脳人間なだけだとは思うが、個人的には、美術作品見る上では画家の人生の知識もあった方が断然楽しめる派。なのでこういう御本はむしろありがたい。
修道院(の精神科病院)においてこそゴッホがすぐれた絵を描いた、という評価は、救いがあってとても好き。*7
なお、以前の日記で「アルルと言えばゴッホのイメージ」と書いたが、アルル行きを明確に「都落ち」と表現されると、何故だか僕も少し落ち込むな 笑

 

 


音楽

この↓曲がいい。ここ半年くらい、毎日聞いてると言って過言ではない。


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「心に花を咲かせながら時を刻んで生きていこう」みたいな曲、かな。直接的に歌詞の中に「花」が何回も出てくるわけではないからあくまで私見だけど。*8
朝起きた時に聞くととても気持ちがいい。*9
前向きな曲。

 

前向きだけど、「もともとネガティブ寄りの人間が、少し頑張って、前向きであろうとしている瞬間を切り取った歌」、だと思う。*10
歌詞でいうと特に中盤あたり。

しかたがないから歌を歌おう
気の向くままにギターを奏でよう
きっと晴れのち雨は降るから
素敵な傘を探しに行こう

とか。

 

「前向きであろうとしている」、と書いたけど、決してウジウジした歌詞ではなく、むしろ潔く割り切ってますよね。それこそ朝の気持ちいい空気が似合う仕上がりになっていると思います。
その塩梅というか、醸し出されてる空気感みたいなものがすごく好きです。
そんな歌詞世界に、リズミカルだけど落ち着いたメロディー、ややゆっくりめのテンポ、Shihoさんの声の透明感(ちょっとかすれ気味)がとてもマッチしていると思います。


映像もいい。
影の、青みがかったグレーの色味が何とも言えない効果を出して、どことなく凛とした雰囲気が出てる。

 

 

 

「花」時計という名前の曲なわけだけど、こう、子ども時代から20代にかけて、自分にとって「花」のイメージって"可憐""か弱い・脆弱"寄りで、自分(男性、大柄)にはそぐわない存在だと思ってたし、特に嫌いではないけど好きでもなかった。
Jポップで言うなら、パッと思いつくのは、ラルクのflowerにおける花のイメージだろうか。


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「かなわぬ想いならせめて枯れたい」とか、冷静に考えて病んでいる。*11返歌を待ってる平安貴族か。


あるいはコレ↓か。PV見る方、涙腺注意。


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この曲の場合は最後ちょっと捻りがあるにせよ、でもやっぱり基本的には庇護の対象だしな。


そういうイメージが少し変わったのは30前後だったかな。
この曲↓の「花」のイメージ*12はとても素敵だと思う。


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凛々としたしなやかな強さ、みたいなものが感じられる花、いいなぁって思う。
ココロに花を

 

エレカシ的ダンディズムにおける「花」まで行くと、またちょっと別の存在という気もしますが。


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はーなーをかーざーあってくうぅれよおー
いーつもおーのへーやにー

 

 

 

 

 

 

 

*1:一応断っておきますが、僕は無神論者であり、いかなる宗教にも帰依していません。

*2:ちゃんと覚えてなくて、科学関係のウェブ記事で出てきたときにもどかしく感じることがそれなりにあった。

*3:まさにこのはてなブログの前身、はてなダイアリーで伊藤さんが付けていらっしゃった日記。

*4:短編というよりショートショートと言った方がいい長さ。

*5:悪童日記』『ふたりの証拠』『第三の嘘』

*6:『怪物』『伝染病』

*7:ゴッホはサン=レミで画家としてのある種の勝利を得た。何かに打ち勝ったという気がします。」p96。

*8:むしろ出てこない。1回だけだし、それも慣用句(「言わぬが花」)としての用例である。

*9:歌詞にも「目を覚ませば幸せな時のはじまりみたいな朝」、などとある。何回か"Good morning"ってフレーズも出てきます。

*10:そういう点で、僕の中では、鬼束ちひろさんの『We can go』と少しイメージがかぶる。旅先なんかでぶらっと散歩するときに聞くとすごくいいんだよなあの曲。

*11:いや、めっちゃ歌いましたけどね。高音出ないくせして。学生時代、カラオケで。

*12:「花のように空をただまっすぐに見られたなら」など。

【映画】PSYCO-PASS PROVIDENCE(承前)

(約3900字)

 

前回のつづきです。

 

 

 

 

 

 

砺波の実像がいまひとつ掴めないって話。

 

そうそう。誤解がないように今さらながら断っておきたいのだが、僕、砺波のあのたたずまい、むしろ好きなんですよ。
表面的には紳士的と言えなくもない、でも静かに狂ってる、老いてなお強い大柄なジイサン、みたいな感じ。
だから若干こだわってるところもあるんですが。

 

で。しかし。

 

 

 

砺波っていうか、ピースブレイカー周辺、よく分からんことが多いな…と感じていたのだが、考えてみれば、それはそれでいいのかな。
今回で全貌を明らかにした体裁ではないわけで、結成の話含め、掘り下げ・情報の補完は今後あるわけだし。
ひとまず、疑問が思ったことを備忘がてら書いておきますかね。
まだ約半月だけど、既に多少忘れかけてるし 汗

 

・前回書いたとおり、多大な犠牲を覚悟してまでストロンスカヤ文書を求める必然性がどこにあったのか、今ひとつ判然としなかった。「ジェネラルの進化・バージョンアップが目的だ」、というだけでは、漠然とし過ぎてはいないかと。
・他方、その意思決定(「犠牲を覚悟してでもストロンスカヤ文書を奪取する」)を下した主体もよく分からない。ジェネラルだとしても砺波だとしても、どっちもしっくりこない気がする。
・というか、考えてみれば、今回の件を離れた一般論として、団体内での砺波のポジション自体も、不分明なところがないではない。ジェネラルが神・砺波が教皇みたいなものであり*1、一般信徒はディバイダ―で精神(の一部)を砺波=教皇に委ねることで色相をクリアに保つ、という設定だったと思うが、そうすると、砺波自身はどうやって色相をクリアに保っているんだろ?信仰心によってジェネラル=神に精神を委ねている、ということだろうか。砺波レベルになるとディバイダ―を「委ねる」方向で使わなくても*2いわば自力で色相をクリアに保つことができるのである、と?
・逆に、ジェネラルがどの程度、砺波から独立して行動をとっているのかもよく分からない。この点に関連して、映画の中盤、シビュラシステムas禾生が「ジェネラルと話をした」って言ってたけど、それ、どうやって話をしたの、という疑問がある。前回の記事で考察したとおり、砺波はそもそも、ジェネラルとシビュラシステムが直接コンタクトをとる事態を想定していたとは思えない。そうすると砺波がセッティングしたわけではないことになるし、かといってシビュラ側からコンタクトしようにも、北方列島はほぼほぼオフラインのはず。そうすると、ジェネラル自らがラファエルを通じてシビュラにコンタクトした、ということしか考えられない気がするのだが、やっぱりこれも釈然としない。ジェネラルが砺波の頭越しに行動したってのは、ちょっと、ジェネラルの存在感が肥大化しすぎる感じがする。
・ところで、そもそもピースブレイカーが(解体後も)海外で暴れてたのは、そうせよとジェネラルが命じていたから、という理解でいいのかな?で、なぜジェネラルがそういう命令を下していたかというと、そうすることが日本の略奪経済を回し、祖国繁栄に寄与する上で合理的だと、AIとして判断したからだ、と。こういう理解で良いのかしら?ただ、いかにジェネラルのオラクルといえど、この考え方、砺波は全力で反発しそうだけどな…だって海外の悲惨を目にして政府に逆らってAI教に帰依したはずなのに、何と言うか、元の木阿弥というか、かえって逆効果というか…
・ちなみに、二分進化説って何?ググっても出てこないんですが…
・以上と方向性が全然違う疑問だけど、ピースブレイカーのアジトのジェネラルがおわすところ、あそこ、ケース入りの脳味噌がズラッと並んでる(廃棄されてる?)描写ありましたよね、確か。

アレ、何?

ジェネラルってあくまで補助AIであってシビュラシステムとは質的に異なる存在だ、という理解で良いのだよね?
博士の脳味噌で文書を代用しようとしたってのは、よもや、砺波がシビュラシステムの正体を知っていたということではないよね?*3

 


…こんなところだったかな…。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

以下は本当にただの感想。

 

 

 

キャラの変化。

狡嚙の角が取れてきた一方、須郷パイセンが凄い人になっていく 笑

いや、須郷さんの空中戦、すごかったなアレ。主役級の活躍じゃないですか。
ラファエルのビジュアルも恰好いいしさ。レーザーが発射されるときのあの「ビイン」って音、耳障りでえげつないし。
あそこは見応えありましたね。映画館の大画面で見た甲斐あったよ。

 

一方で、狡噛の突っ走りがちなところが、ほんのちょっとだけ、鳴りを潜めてきた。ような気がする。
今回も一応、一匹狼としてではなく、チームの一員として動いてはいるしね。*4
まぁ、これは気のせいかもしれない。宜野座さんの発言*5に引きずられてるだけかもしれない。砺波のことも結局殺しちゃったし。煇のこともすーぐ「殺す…!」とか言うし。
ただ、狡嚙も『恩讐の彼方に』で思うところあって帰国したわけだし、多少は丸くなっていなければ噓ではある。砺波を殺したのだって冷静に汚れ役を引き受けた、みたいな感じだったし。*6
煇のアレは完全に沸騰して我を忘れてましたけどね 笑

そうそう。煇とのアレ。狡嚙、ふつうにやられたじゃん。ちょっとびっくりした。
でもいいよ。無双されてもそれはそれで微妙だし、それにFirst Inspectorで炯が狡嚙に歯が立たなかったの思い出して、
「兄貴はこんなに強かったのか…」
って胸熱でもあった。

 

それと、三期以降、サイコパス、一期の描写を微妙にかぶせてくるね。
煇と狡嚙の戦闘シーン、資料室を無理にホロで屋外っぽくしたの、完全に槙島との対決をなぞったね。*7
三期でトーリが舞子を人質に取ったシーンも、槙島とゆきのアレだったし。
そして、かぶせた上で外してくるね。

 

 

ところで、僕はギノザーなんだけれど。
宜野座さんの髪型、同じロン毛でも、毎回、微妙に変わってるね。しかし相変わらずイケメンで万能だ。
最後のフレデリカとの共闘はフラグかしら。

 

 

 

 

テーマについて。

本作のテーマは、徹頭徹尾、一貫してましたね。最初の会議から最後の朱の行動、狡嚙への手紙、そして法務省の解体の白紙化に至るまで、もちろん砺波の思想と朱の信念の対立軸も含めて。
人の創った不完全な法というものに、果たして積極的な存在意義はあるのか、と。

僕にとっては職業柄、とてもリアルに感じる問題でもある。で、この作品の、人を法の能動的な作り手として描いている点がとても良かった。
砺波との対決時の朱の咆哮は痺れたね。
シビュラは絶対じゃない、人はシステムと共生していかなければいけないんだと。
人は神から与えられる幸福を口を開けて待っているだけの浅ましい存在などではないんだ、システムの奴隷となり果てた先に存在意義などないのだ、と。(意訳)

 


しかしこの場面、直前に砺波が「お前はこの世に混沌をもたらす魔女だ」みたいなこと言ってたこともあって、僕の中で、原作ナウシカの名ラストとすげーかぶるんだよな。*8
単に自分の趣味のせいで認知が歪んでるだけなのか、本当にオマージュとして寄せてきてるのかが判断つかん。
まぁ前者の側面は確実にある。前回の記事の注でも触れたが、僕、伊藤計劃テイストも微妙に感じる。
人(クソデカ主語)って、認識対象の中に自分の見たいものを見出すよね。

 

 

 

 

美術面。

上でも書いたけど、須郷の空中戦は凄かった。
それと今回、背景がすごい細密で綺麗に感じたな…それこそ資料館のホロもそうだし、霧にけぶる出島とか、北方列島のアジトとか。
前回の劇場版のFirst Inspectorがほぼ建物内で完結する話だったのに対して、今回は盛りだくさんで常に新鮮に見られた。
むしろ、雰囲気出し過ぎですよ。狡噛の出島で泊まってた部屋の壁一面の図書とか絵とか、凝ってたなぁ 笑

 

 

 

 

 


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大好きな凛として時雨ですが、曲名がしばらく覚えられんかったよ 笑
自分が時雨にはまったきっかけは、abnormalizeとEnigmatic feelingでした。そのせいか、サイコパス絡みの時雨の曲は特にスッと入ってくる。歌詞もサウンドも。

 

 

 


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他方のEgoistさん、今回はこういうテイストで来たか…という感じ。
屍者の帝国の『Door』に多少近いが、より軽やかかな。自分はこっちのが好みですね。
これ、映画館で流れただけだと分からなかったけど、朱が最後にしたことと歌詞をかぶせてるんですね。巧い。

ジャジーサウンドと鋭さのある歌詞が不思議と調和してて、とても素敵な仕上がりの曲だと思う。

 

 

 

 

 

*1:雑賀と狡嚙の会話で砺波が自分を使徒に重ねている的な指摘がありましたからね。ペテロじゃなくてパウロでしたが。

*2:たぶん、砺波は一般信徒を「操る」方向でしかディバイダ―を使ってないよね?自分は映画見た感じでそんな印象を持ったのだけれど。それともそこから違うのかしら。

*3:期を重ねるごとに、こう、過去・未来両方向でシビュラシステムの正体を知っている人間が増えてきてるせいでともすると忘れがちですが、アレは一応、超超超・超最高機密って設定である。

*4:ただま、言うてサイコパスは執行官の群像劇みたいな色彩も強いから、チームプレーと個人プレーの境界が曖昧なとこありますけど。

*5:「ほんの少しまともになったな」だっけか。

*6:サイコパスって、執行官を止めようとする監視官の判断を常に全面的に是とはしないよね。良くも悪くも。三期でも灼、自爆テロ犯を無理に捕まえようとして入江と廿六木にキレられたし。

*7:馬は謎。

*8:そうすると、狡嚙は巨神兵(オーガ)ということになる 笑

【映画】PSYCO-PASS PROVIDENCE

(約7,000字)

 

見てきた。

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注:以下の内容は思いっきりネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

ワシらの朱ちゃんを何泣かせてくれとんのじゃ(激怒)*1
…と思わずにはいられない終わり方でしたが*2、まぁ三部で朱が施設に入ってた時点で、これは既定路線であったはずではある。そりゃ泣くだろう。別に朱は免罪体質じゃなく、色相が濁りにくいってだけなんだから。

 

そして、いつからアニメ*3って、こんなに難解になったんですかね。

2回見た。でもまだ全部は分からない。


というか今作=劇場版第三作の場合、内容的なつながりが強い三期・劇場版第二作の公開から時間がだいぶ経ってしまっていて、僕の方がそもそもの前提知識を忘れてしまっていた、という事情もある。だから、映画1回見てから2回目見るまでの間に、三期と劇場版第二作も見直してみた。

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まあ、大まかな流れは掴めたかな。

 

 

 

 

 

だいたいわかったこと。

三期で新たに主人公になった二人(慎導灼と炯・ミハイル・イグナトフ)が監視官になった動機は家族(灼は父・篤志、炯は兄・煇)の死の真相究明にあったわけだけど、それは結局、三期の中でも劇場版第二作でも明らかにされてこなかった。
それが、本作で『一応は』明かされた。

 

すなわち、篤志は、シビュラシステムとの取引の結果として自殺した。シビュラは、篤志が惹起した事態の収束のためには篤志を自殺させて罪をかぶせることが合理的だと判断したんだと思う。*4その代わり、「息子や友人たちの安全は保障」し、「餞別だ」と言って銃を渡した。*5で、篤志はその『取引』を受け入れて自殺した。
他方、煇は、ピースブレイカーの洗脳に決死の抵抗をして自我を維持し、篤志に自分を撃たせた。俺を撃て、炯のことは頼みます、あいつには俺とは違う道を、と言って。三部では、篤志が煇を殺した、という事実の真偽が問題になっていたが、表面的には事実・ただしそれは煇自身が望んだことだった、というオチを付けた形である。

 


しかし、これだけの説明で灼と炯が納得できるかと言うと、それは無理なはずである。だって、これで分かったことって要するに、⑴ 篤志と煇が対立して死んだわけじゃないこと、⑵ 二人がそれぞれ(究極的には)灼・炯のために死んだこと、の2点に尽きるんだもの。なんで篤志が今作冒頭の事態を仕組んだのか*6、なぜ煇が自分の顔を焼いてまでピースブレイカーへの潜入に志願したのか、そこが分からないと「なぜ二人は死ななくてはいけなかったのか」の答えにはなってない。
シリーズの一連の流れで言うと、今作は、劇場版第二作のラストで朱が灼・炯に「自分が知っていることを教える」と言った直接の続きであり、その「自分が知っていること」の内容が(ほぼ)そのまま今作の内容だ、という体裁になっている。*7もっとも、朱もすべてを知っているわけではないから、朱は(今作で)灼には自力で真実を探しなさいと言ったし、三期中のモノローグでは「二人に真実を探すことを託すことにした」旨述べていた(よね?確か。)。
で、後者の「真実」の中身には、必ず暴くと砺波に約束した「ピースブレイカー隊が作られた闇」も含まれているんだろうと思われるし、煇が潜入した経緯は、それと不可分に結びついているんでしょう、多分。また、篤志がインスペクターでもあり、さらにはシビュラの実体も知っていたことからすれば、篤志の死の(広義での)『真相』には、シビュラやビフロスト成立の過程も含まれるんでしょう。
他方、三期以来謎な存在である法斑静火の内面については、今作では一切触れられていない。ワンカット、親父さんと映っただけ。

 

 

…なので。

四期は、三期の後の話を描きつつ、事件の捜査の過程で上記の諸点が明かされる、みたいな構成になるのだろうか。*8
遂にこう、物語の根幹であるシビュラの成り立ちと絡めつつ、物語が大きく収束に向けて動いていく予感がしますな。
今からわくわくが止まらないぜ。

 

 

 

 


…と、こんな感じで、シリーズの中の本作の位置付け、一連の流れみたいなものは、大まかにはまぁ、把握できたかな、と思う。
他方、分からんのは、ピースブレイカーを率いる砺波のビジョンみたいなものである。

 

 

よくわからないこと。

ビジョンというと語弊があるかな。終局的な目的あるいは理念みたいなものは物語終盤で繰り返し触れられていて、

「人を支配するのはAIであるべきだ、人は人を支配してはいけないのだ」

というもの。*9
それは良いとして、分からないのは、もうちょっとブレイクダウンしたレベルの行動目的というか、行動原理というか、実像とでも言えばいいのか…

 

うーん、説明しづらい。

 

 

 

ひとまず、
「なぜ砺波はストロンスカヤ文書を欲したのか」
という問題に焦点を絞ってみる。

 

 

物語が中盤に差し掛かったあたりの煇への取調べの中で、ストロンスカヤ文書の内容(民族対立や大衆の暴走を予測し数値化したシュミレーション理論*10)が明かされ、それを使えば、シビュラが世界に与える影響を予測でき、紛争の予防も拡大も可能だ、ということが述べられる。このとき、砺波の目的は紛争の拡大であろうと予測がされ*11、僕ら観衆としては、以後そういう頭で映画を見る。
しかしさにあらず、砺波の理念は、実際は社会に平等をもたらすことだったことが後に砺波自身の口から語られる。そのために人はAIに帰依すべきなのだと。しかし自身らの神たるAI、ジェネラルは不完全である、ミリシアの脳で代用しても補完は叶わなかった、と言い、だからストロンスカヤ文書を渡せと朱に迫る。
僕としては、なるほど、砺波の目的は人類のハーモニクスか、この世の悲惨をなくそうという話か、紛争の拡大とはむしろ真逆の方向性だったのかと、一旦、納得した。

 

しかしその後、また分からなくなった。それは、

①朱が、あなたの神様にストロンスカヤ文書を入れる、ただし正しいやり方で、と言って、ドミネーターをジェネラルに向けて放り投げ、
②それを止めようとした砺波の手をすり抜け、ドミネーターがジェネラルに接触すると、
③ジェネラルが反応し、「約束の地でシビュラシステムと一つになる」「不要な端末を消去する」と言い残して*12、シャットダウンしてしまう、
④それを見た砺波が「それがあなたの選択か」「しかしシビュラとの統合は遅かれ早かれ辿る道だ」*13みたいなことを言う

という場面があったから。


え?どういうこと?
朱の言う「正しいやり方」って何?普通に砺波に渡すんじゃダメなの?
そして砺波は結局何がしたかったの?シビュラとの統合を強く拒否するわけではなく、でもそれが現時点でなされるのは想定していなかった、ということ?
それってどういうビジョンなわけ?
ストロンスカヤ文書を入れることで、ジェネラルがどうなると想定していたの?
…等、一気に混乱した。

 

 

 

 

 

 

で、見終わってからいろいろ考えたのだけれども、僕個人としては、結局、砺波はその点(ストロンスカヤ文書を入れることで、ジェネラルがどうなるか)について明確な想定は持っていなかった、と考えざるを得ないと思う。だって、そこを具体的に掘り下げるヒントになるような描写、いくら思い出したって、なかったもの。
たぶん、単に、あるいは漠然と、ジェネラルが進化する、くらいの認識でいたんだと思う。
他方、朱の言う「正しいやり方で」文書を入れる、というのは、文字どおりドミネーターを媒介する、という部分がポイントなんだろうと思う。媒介すると言うか、起動されたドミネーター=シビュラと繋がった端末とワンセットで、文書を渡すことが。

 

整理してみる。
.まず実践的な側面から言うと、ストロンスカヤ文書はすなわち、シビュラが世界に与える影響を予測することを可能にする理論である、という設定である。ここで、シビュラの効用・必要性を肯定する朱からすれば、その「影響」とは一言で言えば、世界により良い状況をもたらす、という結論であるはずである。となると、朱にとって文書とは、直観ではなく理論により、相手がAIであっても説得可能な形で、シビュラの有用性を基礎付け裏付ける代物、という位置づけになる。よって、(AIであると想定されるところの)ジェネラルに文書を渡せば、ジェネラルもまた、シビュラの必要性を理解するはずだ。*14つまり、

  ジェネラル+ストロンスカヤ文書=シビュラの必要性を理解したジェネラル

ということになる。

  では、そのような文書とともに、シビュラにアクセスする媒体、すなわち(起動された)ドミネーターをもジェネラルに渡した場合、ジェネラルは、どういう行動に出るか?すなわち…

  ジェネラル+ストロンスカヤ文書+起動したドミネーター

 =シビュラの必要性を理解したジェネラル+シビュラへのアクセス媒体

 =?


  …以上のような思考の筋道で、朱は、「起動されたドミネーターに文書を入れて渡せば、ジェネラルは、シビュラとの合一を選択するはずだ」、という予測を立て得たのだと思う。
.ではそれが「正しいやり方」だ、というのはなぜか。

  ここで、シビュラは、単に文書の交付を朱に命じただけであることからして、今回、いわば一気にジェネラルと合一しようとまでは考えていなかったことになる。だから実際、ピースブレイカーの独立を認めるつもりだった。しかし、朱はそれを是としなかった。シビュラと違い、(日本)社会が安定しさえすれば良い、手段は不問であるとは考えず、砺波はじめピースブレイカーたちには然るべき裁きが下されるべきだと思料した。よって、砺波(たち)は逮捕される必要があるし、そのためには結局、組織としてのピースブレイカーは解体する必要がある。
  だから、紛争を命じることも厭わない存在としてジェネラルが存続することもまた、許すわけにはいかない。ジェネラルは、シビュラと合一されるべきである。したがって、ただ文書を渡すだけではダメであり、ジェネラルがシビュラとの合一を選択するであろう形、すなわち、ドミネーターとセットでなければ「正しい形」とは言えない。

  …こういうことなのかなぁ、と思う。たぶん。
.他方、砺波の思考はどうか。
  砺波は確かに、AIへの帰依による人類のハーモニクスを望んでいる。そのために必要というならば、ジェネラルとシビュラが合一すること自体については、拒絶するつもりは特にない。ただ、シビュラを肯定することと、日本社会への評価は別である。シビュラを奉じているはずの日本社会は、未だ、人が人を裁くための法を捨て去ってはいない。だから間違える。現に自分たちピースブレイカーは、歪んだ人為によって略奪経済の道具にされ、世界に惨苦をまき散らし、そして使い捨てられた。ゆえにこそ自分たちは帰国命令を拒絶した。よって当面、砺波としては、シビュラの友好国として独立するという途を採るしかない。
  しかも実際上、ピースブレイカーの本拠地たる北方列島は、電波状況が悪く、ドミネーターの継続使用もできない。そのような場所だから、シビュラがジェネラルと接触すること自体、そもそも想定の外にある。それは、敵勢力が攻め入ってきたとしても同じである。ピースブレイカーの殲滅を望むなら、ドミネーターに固執する必要はない。単に重火器を使えばよいのだから、わざわざ苦労してオンライン状況を作ることに戦略的意味はない。
  しかし、朱はそうは考えなかった。わざわざラファエルをハッキングしてまでドミネーターを使ってきた。そしてそこに文書を入れた。しかも、ジェネラルとシビュラの合一を意図して。
  …たぶん、朱がドミネーターを放り投げた瞬間、砺波が以上の全部を理解したわけではないと思う。オンライン状況自体が想定外だし、それに起因するディバイダ―の変調で頭が割れそうな状況下でもある。*15仮にハッキングによって電波が逆利用されていると気づいたとしても、それが(頭痛以上に)何を意味するかなんて分かりようがない。朱が本当は文書を持ってきていたことだって、ほんの数瞬前に知ったのだから。
  しかし、朱が狙ってドミネーターを放った以上、それは止めるべき行為であると、いわば条件反射的に判断したはずではある。だから手を伸ばして防ごうとした。でも間に合わなかった。
  そして、結果として、ジェネラルはシビュラと合一し、消滅した。
  それは、砺波としては、先々であれば受け入れる余地がある事態であったが、現時点で起こることは、決して想定していなかった。現在の日本政府を肯定できないのと同じように。
  だから、落胆した。「ジェネラル、それがあなたの選択か」、と。

 

 

 

 

 

…ということかなぁ、とは思う。現状、僕としては、これ以外に整合的説明が付けられる解釈は思いつきそうにない。
そうは思うんですがね。

 

そうだとすると、話は戻って、結局、砺波は、
「ジェネラルにストロンスカヤ文書を入れることで、具体的にどうなるとは想定していなかった」
「漠然と、ジェネラルがより完璧な神に近づく、と理解していた」
ということになるわけで、それが何とも釈然としない。
だって、映画冒頭の戦闘シーンも出島襲撃の戦闘シーンも、激しいよ?ピースブレイカー側も死者が出てるどころの話ではないしね。砺波自らが同胞を操って自爆させたりしてるし。
ジェネラルは現状でも十分、信仰対象として求心力を備えているのに、言ってしまえば具体的効用も不明なアップデートっていう漠然とした目的のために、仲間を死地に行かせるかね。*16

本来は博愛主義者に近いはずなのに、やってることがそれこそサイコパスということになって、砺波の実像が微妙にぼやける。*17

 

あるいは、「文書を手に入れよ」っていうのは、砺波の判断じゃなくて、ジェネラルのオラクルなのか、と考えたりもする。ジェネラル自身が、自身の進化のためには文書が必要だと判断し、入手するよう砺波らに命じたのだと。
…でも、その場合、
・(軍事転用されたとはいえ、元は)単なる補助AIに過ぎない、というジェネラルの位置付けが一気に(いわば)主犯級に変わりかねず、物語全体の印象とだいぶ大きな齟齬を来すし、
篤志(と矢吹)はピースブレイカーが文書入手に動くことを見越してわざとミリシア来日の情報を漏らした、という設定だから、文書入手すべしと判断したのが(砺波ではなく)ジェネラルだ、ということになると、篤志が思考を読んだのもまた、砺波ではなくてジェネラルの思考だ、ということになる。それもまた何と言うか、違和感が拭えない。
・他方、それならそれで、やっぱり砺波の人物像がぼやける。地獄を見てAIに帰依した一個の強固な人格の持ち主、という位置づけから、ただのジェネラルの傀儡に成り下がりかねない。

 

 

 

…ちょっと中途半端なところですが、だいぶ長く書いたので、続きはまた後日にします。

 

 

 

 

 

*1:最後のは耳にしばらく残っちゃうような号泣だったし、その上さらに、雑賀教授のくだりでも1回泣かせてますからね。

*2:狡嚙先輩にキリッとされてもワシらの救いにはなりませんからね 笑

*3:というか映像作品、又はフィクション全般か?

*4:篤志は、シビュラがそう判断することまで織り込み済みだったみたいですが。

*5:ここ、かぎかっこの中のセリフは映画の中で述べられたセリフですが(ただし、まんま正確かは自信がないです。以下同じ。)、地の文の部分は文脈に基づいた僕の推測です。

*6:作中ではもったいぶった言い方(「想像力が豊かだね」)で暈されてるけど、ピースブレイカー側に情報漏らしたの、篤志(と矢吹)だよね?

*7:ただ、そうすると、朱は、今作、すなわち自分の知っていることを灼と炯に伝えた段階で、シビュラがどういう存在であるかも炯に知らせた、ということになる。劇場版第二作のラストで灼と炯は「お互い秘密ができちゃったけど、いつか必ず隠さず話すよ」みたいな約束をしたわけだけど、その秘密の片方(灼の方の秘密)であるシビュラの秘密を、朱が一方的に(いわば)暴露してしまった形になってしまう。そこは今後、どういう整合性をつけるつもりなんだろう?(それとももしかして、灼の方の秘密がシビュラの内実だ、っていう解釈の方が間違いだったかな?僕、当然そうだと思ってたんだけど…。)

*8:そんなの一期の尺に収まるのかな、という疑問はあるが。

*9:個人的には、伊藤計劃さん作品でいえば『ハーモニー』でミァハが目指した人類のハーモニクスに近いものかな、という印象。

*10:こっちは、『虐殺器官』で言う『ジョン・ポールのメモ』、『虐殺の文法を生成することができるエディター』(同書p394)みたいなものかな。

*11:これ、狡嚙が言ったんだっけ?フレデリカだっけ?

*12:厳密に言うと、後者の方は、ジェネラルを吸収した後のシビュラのセリフだっけか?よく覚えてないや…。

*13:ここのセリフは特に超あやふやです。肝心なとこなのに面目ない。

*14:ここは、シビュラがジェネラルを話の分かる相手として認識したこと、つまり「ジェネラルがシビュラと同一目的(社会の安定)を有し、かつ、目的のために合理的手段を選択する存在であること」もまた前提となる。

*15:砺波も痛がってましたからね。

*16:というか、今回のミリシア襲撃・出島襲撃もさることながら、海外における従前の破壊活動自体、そもそも何のためにやっていたの?、という話でもある。平和のために必要な過程としての戦争だった、みたいなロジックなのかしら。

*17:まぁ言うて狂信者だ、みたいな粗い理屈は立つのかもしれませんが、それは暴論じゃなかろうか。