漆喰のひとかけらを

本にアートに東京北景などなど

【映画】PSYCO-PASS PROVIDENCE(承前)

(約3900字)

 

前回のつづきです。

 

 

 

 

 

 

砺波の実像がいまひとつ掴めないって話。

 

そうそう。誤解がないように今さらながら断っておきたいのだが、僕、砺波のあのたたずまい、むしろ好きなんですよ。
表面的には紳士的と言えなくもない、でも静かに狂ってる、老いてなお強い大柄なジイサン、みたいな感じ。
だから若干こだわってるところもあるんですが。

 

で。しかし。

 

 

 

砺波っていうか、ピースブレイカー周辺、よく分からんことが多いな…と感じていたのだが、考えてみれば、それはそれでいいのかな。
今回で全貌を明らかにした体裁ではないわけで、結成の話含め、掘り下げ・情報の補完は今後あるわけだし。
ひとまず、疑問が思ったことを備忘がてら書いておきますかね。
まだ約半月だけど、既に多少忘れかけてるし 汗

 

・前回書いたとおり、多大な犠牲を覚悟してまでストロンスカヤ文書を求める必然性がどこにあったのか、今ひとつ判然としなかった。「ジェネラルの進化・バージョンアップが目的だ」、というだけでは、漠然とし過ぎてはいないかと。
・他方、その意思決定(「犠牲を覚悟してでもストロンスカヤ文書を奪取する」)を下した主体もよく分からない。ジェネラルだとしても砺波だとしても、どっちもしっくりこない気がする。
・というか、考えてみれば、今回の件を離れた一般論として、団体内での砺波のポジション自体も、不分明なところがないではない。ジェネラルが神・砺波が教皇みたいなものであり*1、一般信徒はディバイダ―で精神(の一部)を砺波=教皇に委ねることで色相をクリアに保つ、という設定だったと思うが、そうすると、砺波自身はどうやって色相をクリアに保っているんだろ?信仰心によってジェネラル=神に精神を委ねている、ということだろうか。砺波レベルになるとディバイダ―を「委ねる」方向で使わなくても*2いわば自力で色相をクリアに保つことができるのである、と?
・逆に、ジェネラルがどの程度、砺波から独立して行動をとっているのかもよく分からない。この点に関連して、映画の中盤、シビュラシステムas禾生が「ジェネラルと話をした」って言ってたけど、それ、どうやって話をしたの、という疑問がある。前回の記事で考察したとおり、砺波はそもそも、ジェネラルとシビュラシステムが直接コンタクトをとる事態を想定していたとは思えない。そうすると砺波がセッティングしたわけではないことになるし、かといってシビュラ側からコンタクトしようにも、北方列島はほぼほぼオフラインのはず。そうすると、ジェネラル自らがラファエルを通じてシビュラにコンタクトした、ということしか考えられない気がするのだが、やっぱりこれも釈然としない。ジェネラルが砺波の頭越しに行動したってのは、ちょっと、ジェネラルの存在感が肥大化しすぎる感じがする。
・ところで、そもそもピースブレイカーが(解体後も)海外で暴れてたのは、そうせよとジェネラルが命じていたから、という理解でいいのかな?で、なぜジェネラルがそういう命令を下していたかというと、そうすることが日本の略奪経済を回し、祖国繁栄に寄与する上で合理的だと、AIとして判断したからだ、と。こういう理解で良いのかしら?ただ、いかにジェネラルのオラクルといえど、この考え方、砺波は全力で反発しそうだけどな…だって海外の悲惨を目にして政府に逆らってAI教に帰依したはずなのに、何と言うか、元の木阿弥というか、かえって逆効果というか…
・ちなみに、二分進化説って何?ググっても出てこないんですが…
・以上と方向性が全然違う疑問だけど、ピースブレイカーのアジトのジェネラルがおわすところ、あそこ、ケース入りの脳味噌がズラッと並んでる(廃棄されてる?)描写ありましたよね、確か。

アレ、何?

ジェネラルってあくまで補助AIであってシビュラシステムとは質的に異なる存在だ、という理解で良いのだよね?
博士の脳味噌で文書を代用しようとしたってのは、よもや、砺波がシビュラシステムの正体を知っていたということではないよね?*3

 


…こんなところだったかな…。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

以下は本当にただの感想。

 

 

 

キャラの変化。

狡嚙の角が取れてきた一方、須郷パイセンが凄い人になっていく 笑

いや、須郷さんの空中戦、すごかったなアレ。主役級の活躍じゃないですか。
ラファエルのビジュアルも恰好いいしさ。レーザーが発射されるときのあの「ビイン」って音、耳障りでえげつないし。
あそこは見応えありましたね。映画館の大画面で見た甲斐あったよ。

 

一方で、狡噛の突っ走りがちなところが、ほんのちょっとだけ、鳴りを潜めてきた。ような気がする。
今回も一応、一匹狼としてではなく、チームの一員として動いてはいるしね。*4
まぁ、これは気のせいかもしれない。宜野座さんの発言*5に引きずられてるだけかもしれない。砺波のことも結局殺しちゃったし。煇のこともすーぐ「殺す…!」とか言うし。
ただ、狡嚙も『恩讐の彼方に』で思うところあって帰国したわけだし、多少は丸くなっていなければ噓ではある。砺波を殺したのだって冷静に汚れ役を引き受けた、みたいな感じだったし。*6
煇のアレは完全に沸騰して我を忘れてましたけどね 笑

そうそう。煇とのアレ。狡嚙、ふつうにやられたじゃん。ちょっとびっくりした。
でもいいよ。無双されてもそれはそれで微妙だし、それにFirst Inspectorで炯が狡嚙に歯が立たなかったの思い出して、
「兄貴はこんなに強かったのか…」
って胸熱でもあった。

 

それと、三期以降、サイコパス、一期の描写を微妙にかぶせてくるね。
煇と狡嚙の戦闘シーン、資料室を無理にホロで屋外っぽくしたの、完全に槙島との対決をなぞったね。*7
三期でトーリが舞子を人質に取ったシーンも、槙島とゆきのアレだったし。
そして、かぶせた上で外してくるね。

 

 

ところで、僕はギノザーなんだけれど。
宜野座さんの髪型、同じロン毛でも、毎回、微妙に変わってるね。しかし相変わらずイケメンで万能だ。
最後のフレデリカとの共闘はフラグかしら。

 

 

 

 

テーマについて。

本作のテーマは、徹頭徹尾、一貫してましたね。最初の会議から最後の朱の行動、狡嚙への手紙、そして法務省の解体の白紙化に至るまで、もちろん砺波の思想と朱の信念の対立軸も含めて。
人の創った不完全な法というものに、果たして積極的な存在意義はあるのか、と。

僕にとっては職業柄、とてもリアルに感じる問題でもある。で、この作品の、人を法の能動的な作り手として描いている点がとても良かった。
砺波との対決時の朱の咆哮は痺れたね。
シビュラは絶対じゃない、人はシステムと共生していかなければいけないんだと。
人は神から与えられる幸福を口を開けて待っているだけの浅ましい存在などではないんだ、システムの奴隷となり果てた先に存在意義などないのだ、と。(意訳)

 


しかしこの場面、直前に砺波が「お前はこの世に混沌をもたらす魔女だ」みたいなこと言ってたこともあって、僕の中で、原作ナウシカの名ラストとすげーかぶるんだよな。*8
単に自分の趣味のせいで認知が歪んでるだけなのか、本当にオマージュとして寄せてきてるのかが判断つかん。
まぁ前者の側面は確実にある。前回の記事の注でも触れたが、僕、伊藤計劃テイストも微妙に感じる。
人(クソデカ主語)って、認識対象の中に自分の見たいものを見出すよね。

 

 

 

 

美術面。

上でも書いたけど、須郷の空中戦は凄かった。
それと今回、背景がすごい細密で綺麗に感じたな…それこそ資料館のホロもそうだし、霧にけぶる出島とか、北方列島のアジトとか。
前回の劇場版のFirst Inspectorがほぼ建物内で完結する話だったのに対して、今回は盛りだくさんで常に新鮮に見られた。
むしろ、雰囲気出し過ぎですよ。狡噛の出島で泊まってた部屋の壁一面の図書とか絵とか、凝ってたなぁ 笑

 

 

 

 

 


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大好きな凛として時雨ですが、曲名がしばらく覚えられんかったよ 笑
自分が時雨にはまったきっかけは、abnormalizeとEnigmatic feelingでした。そのせいか、サイコパス絡みの時雨の曲は特にスッと入ってくる。歌詞もサウンドも。

 

 

 


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他方のEgoistさん、今回はこういうテイストで来たか…という感じ。
屍者の帝国の『Door』に多少近いが、より軽やかかな。自分はこっちのが好みですね。
これ、映画館で流れただけだと分からなかったけど、朱が最後にしたことと歌詞をかぶせてるんですね。巧い。

ジャジーサウンドと鋭さのある歌詞が不思議と調和してて、とても素敵な仕上がりの曲だと思う。

 

 

 

 

 

*1:雑賀と狡嚙の会話で砺波が自分を使徒に重ねている的な指摘がありましたからね。ペテロじゃなくてパウロでしたが。

*2:たぶん、砺波は一般信徒を「操る」方向でしかディバイダ―を使ってないよね?自分は映画見た感じでそんな印象を持ったのだけれど。それともそこから違うのかしら。

*3:期を重ねるごとに、こう、過去・未来両方向でシビュラシステムの正体を知っている人間が増えてきてるせいでともすると忘れがちですが、アレは一応、超超超・超最高機密って設定である。

*4:ただま、言うてサイコパスは執行官の群像劇みたいな色彩も強いから、チームプレーと個人プレーの境界が曖昧なとこありますけど。

*5:「ほんの少しまともになったな」だっけか。

*6:サイコパスって、執行官を止めようとする監視官の判断を常に全面的に是とはしないよね。良くも悪くも。三期でも灼、自爆テロ犯を無理に捕まえようとして入江と廿六木にキレられたし。

*7:馬は謎。

*8:そうすると、狡嚙は巨神兵(オーガ)ということになる 笑