漆喰のひとかけらを

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【映画】インファナル・アフェアⅢ/終局無間

字数約3000字,読了目安4分弱です(追記箇所を除く)。

 

 

僕の1番好きな映画(3部作)の3作目。

 

その名も『終局無間』。
第一部の対決の,本当の『終局』が描かれる。
鍵を握るのは,『第三の男』ヨン,そして,『第四の男』シェン*1

 

 

冒頭をちょっとだけ

象徴的なシーンから,映画が始まる。第一部の事件の半年前,ヤンは,傷害事件を起こし,キョンとともに手錠で繋がれ,警官に連れられ,エレベーターに押し込まれる。エレベーターが下降を始めるとともにオープニングがかかり,エレベータースペースの壁面に,様々な表情の仏像が現れては消える。「チン」という音とともに,場面はヤン殉職の10か月後に切り替わる。憔悴した顔色のラウが映し出され,俯いたまま,先程まで無数の釈迦に視られていたエレベーターの箱に乗り込む。
エレベーターの中,ラウは,事件後に受けた内務調査課の調査を追憶するが,それもようやく終わった。暫定的人事として庶務課で過ごした後,古巣の内務調査課に戻ったラウ。命じられたのは,警察内部に残るサムの内通者の調査。その一人であったチャン巡査部長が自殺した際,その場に居合わせた保安部のヨンに,ラウは疑いの目を向ける。チャンの周囲を調べるうち,本土の武器商人シェンの存在が炙り出される。彼はヨンと面識があり,さらに,サムとも繋がりがあった形跡がある。
―そのシェンは,事件の半年前,サムと天壇大仏で会っていた。本土進出のため,シェンと組むことを考えたサムだが,何故か,シェンの言動に疑念を抱く。サムは,自身で取引を仕切らず,ヤンに,代わりに商談に行くよう命じるが…

 


こんな感じで,第一部の事件の数か月前と数か月後が,代わる代わるに映されながら映画が進行していく。
ヨンとシェンの思惑はかなり最後の方にならないと明かされないから,そこに至るまで=映画の大半の2人の言動は事件前のも事件後のも,かなり不気味である。
音楽も不気味で気分を盛り上げてくれる。ちょっと不気味すぎて恐さが入るレベルである。

 

雑感(全体)

第三部は,第一部・第二部とはかなり趣が違う。だからだと思うのだが,第一部・第二部よりも,世評が若干落ちてる気がする。
実際,かなりサスペンス色が濃い。しかもサイコサスペンス寄り。だから,これまでの2作品のようなテイストを期待して見ると微妙なのは確かで,かく言う僕自身,初見直後の感想としては今一つ,という感じだった。

 

と言うか。

 

もう一つ告白すると,もう優に10回以上は観ている僕だが,恥ずかしながら,未だに「よく分からない」ところがある*2。いわんや初見時をやで,この第三部は,かなり難解な作品である。まぁサスペンス的であることの結果とも言えるが,これも,世評を下げている一要因だと思う。
ただ,少なくとも僕自身に関して言えば,観るごとに自分内評価が上昇してきて,今では,三部作どれも好きさに順序が付け難い。
いわばスルメ的味わいがあるわけだが,それともう一つ。この三部作全体の最終的な『落とし所』は,この第三部の最後のアレを措いて他にはあり得ない。あの終わり方*3は,本当に凄い。まさかあの動きに,そういう意味が与えられて終わるとは……という感じで,正に『終局無間』,戦慄的である。

 

さて,僕個人として第二部は「ウォンの物語」だと思っているが,では第三部は?と言うと,これが非常に難しい。
メインストーリーは第一部後の帰趨なので,メインキャラはラウ。そこは間違いない。ただ何と言うか…本作で『ラウを主人公,ラウの物語』と表現するのは,もはや,『無間地獄という場所が主人公,無間地獄の物語』と言っているのに等しい,とでも言えばいいんだろうか。
ラウは,本作で,強烈な●れ方をする。それは地獄を『彷徨う』とか生ぬるいものではないし,ましてダークヒーロー的な魅力など皆無。ただただ,無間地獄という磁場に引きずり込まれて飲み込まれる。ラウは徹頭徹尾客体でしかなくて,描写の強烈さとは裏腹に,彼の主体的人格はもはや表現されていないと言ってもいい(気がする)。

本作は構造的には,未来(生き残ったラウ)と過去(報われず殉職したかに見えたヤン)とが対になっている。メインは前者(未来)とはいえ,ラウは過去パートにはほぼ出てこないし直接の関係もないから,まぁそういう意味でも『主人公』と形容するのは難しい。
他方のヤン。これ,ネタバレ避けながら書くのが本当に難しいのだけれども,最終的に,生きながら無間地獄に落ちたラウと『対』となり得るような感じになる。
諸行無常一切皆苦な世界観ではあるが,救いのない映画ではない。そのスレスレのバランスが,本作の絶妙な妙味と言ってよいと思う。
そしてバランスが肝である以上,これを誰かの物語だなんて考えること自体,まぁ違うわな,と思う次第である。

 

ただし好きなキャラはいるわけで,僕の場合はヨンである。
映画自体のコアがバランスにあると上述したが,ヨンもまた何とも微妙な均衡の上に立つキャラで,独特の緊張感を纏っている。
僕が好きなのは,そんなヨンの,実はヤンを助け,ヤンを必要としていた人懐っこい側面。

 

シーン10景,順不同

①ラウのラスト

この映画といえば,あのゾッとするシーンでしょ。

 

②レストランでのヤンとヨンの『初邂逅』*4

この映画でのヨンの表情は,鑑賞2回目以降,実に実に味がある。
この表情は凄いよ。

 

③「勢ぞろいか」

特に意味のない勢ぞろいシーンだが,こういうのもいい。
特にラウとラム。お前らがいる理由の取って付けた感 笑

 

④駐車場でのラウとヨンのやりとり

開始のゴングが鳴った場面である。
この映画を2度以上観て,このシーンを見直した場合,「車が隣同士で~」に対するラウの返答に「うわっ!!…」ってなり,最後のヨンの目つきに「うわ…」ってなるはずである。

 

⑤「何だよ,明日死ぬとでも言われたか?」とキョンに突っ込まれるヤンの顔

リー先生との面会を思い出してニヤケまくってるだけなのだが,個人的に,ヤンのこの表情が見られるだけでもこの映画を見る価値がある(笑)
夢の内容込みでの表情だと思うのだが,おっさんのスケベ顔もここまで来ると実に清々しい。

 

⑥ラウとヤンがリー先生の治療を受けるシーン

ラウとヤンの対の構造の象徴みたいなシーン。時間軸的に交錯させようがほぼない2人を,よくこんな形で絡ませたよなと。
説得のためのリー先生の体験談が色々と居たたまれない。
そして,ラウが目覚めて再びの「うわっ!!…」感。

 

⑦「ラウ・キンミン これが最後のチャンスだ」

過去編と合わせて,緊張クライマックスのシーン。
まさかの結着であり,「えっ………あっ!!!」となる。
しかし,一旦「あっ!」とはなるものの「どうして誰も俺に~」と続くから,やはり訳が分からなくて混乱する。
そして,「そのまんま見たまんま,訳の分からないことになってるんだ…」と分かり,ぞわっ…とする。

 

⑧波止場での穏やかな会話

ヤン,本作2度目の,とてもいい顔。
ヨン,お前,それが素か,そんな感じなのか。
シェン,お前は淡々としてんな…。

 

⑨「あいにく俺は~」からの修羅場ラスト

ラウが視る幻が良い。一瞬だけ正気に戻れたんだね。
音楽が本当にいい働きをしてくれる。

 

⑩焼香からの,雲海に誓うシーン

会話のそっけなさ,抑制の利かせ方,シェンの笑い方,全てが好きなシーンである。
それと,背景の天気が,これ以上ないくらい嵌まっている。曇天日和とでも言えばいいのか,よくこんな絶好の日を選んだよな。

 

 

 

*1:なんか予告編で,そういう呼ばれ方してましたね。

*2:リャンの立ち位置とか,「そう,これでいい」の意味とか。

*3:時間軸的な本当のラストの方です。第一部の冒頭に繋がる方ではないので念のため。

*4:実は初ではない。