漆喰のひとかけらを

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【音楽】シリウスの心臓、アルルの花

(約2200字)

 

 

YouTubeMusicさんが、時々、傘村トータさんの歌をLuciaさんがカバーしたやつを僕に勧めてきます。なぜか原曲じゃなく。
本日、そのコンビ(?)に2曲目の僕的スマッシュヒットを決められたので、記録してみます。音楽関係の記事が続いちゃいますが。

 

 

2曲目から行きます。


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原曲はこちら↓


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ヰ世界情緒さんの原曲、入りではフレーズごとに発声が区切られてて、若干のたどたどしさ・女の子っぽさすら感じるのだが、サビを迎えてから声が伸びる伸びる。
声に迫力が加わって、箇所によっては少し怖さすら感じる。神秘的。こんな声あるんですね…という感じ。
対してLuciaさんの方は、全体的にしっとり。何だろう…神秘的な原曲が『受肉』したとでも言えばいいんだろうか。人間らしく、大人の女性らしい声・歌い方、という感じがします。


絶対的というか、絶望的な距離に隔てられた愛する人を想って歌う曲、というのが僕の印象。
あんまり具象的な言葉にすると艶消しですけど、正直、死別した恋人*1に殉じる気持ちを詩にしたとすら思える(というかそういうふうにしか僕には読めない。*2)。
「あたしもいずれ*3そっちに行くからね、待っててね。」、と。*4

声質は違えど、お二方の抑制された歌い方がかえって抉ってくる。


『抑制』。
そう、この曲、おそらく歌詞の詠み手が一番相手に伝えたいであろう気持ちを、敢えて言葉にせずモールス信号にする、という凄いことをしている曲です。

・・ ・―・・ ―――
・・・― ・ ―・―― ―――
・・―

モールス信号の解読ができるサイト(https://www.benricho.org/symbol/morse.html)なんかもありますので、試してみるのも一興かと。
ご賢察どおりの言葉です。

「明かりになったあなたの心臓は点滅するかしら」
という歌詞がありますが、このモールス信号と星の明滅のイメージが重なって、切実な叫びに脳内変換される。
「星になったあなたの声を、もう一度聞きたい」、と。

ところで、何でシリウスなんでしょうね。
「あなたは全天で一番明るく輝く星」、という趣旨かな。
連星なのも関係するんですかね。
「あたしもそっちにいったら、また隣にいさせてね」、と。

そうだとすると、タイトルの『シリウスの心臓』って、逝ってしまった相手じゃなく、詠み手のほうの心臓って解釈の余地もあるのかな。

 

 

 

 

さて、1曲目。


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原曲はこちら↓


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どうも(Luciaさんのカバーレパートリーがある)傘村さんの曲の中では、僕、暗喩的な歌詞の曲を好むらしい。

 

で、正直、この『アルルの花』に関しては、『シリウスの心臓』以上に何とも難解というか、よく分からない。少なくとも人様に説明できるほどには咀嚼できてない。
詠み手は、
「あたし、手を離してしまった」
「爪を研いで待つ不幸の元へ あなたをひとりでやってしまった」
ことを思い出し、
「あたし、あなたを愛してよかった?」
と自問する。
よって、多分こちらも、もう戻らない「あなた」を想って歌った曲なんだろうとは思う。

…ここで、「アルル」。
Wikipediaページはこちら

アルル(フランス語: Arles、オック語プロヴァンサル方言: Arle)は、南フランスのプロヴァンス地方にあるコミューン。同国内最大面積を持つ。住民の呼称はアルレジャン(Arlésiens)と呼ばれ、フィンセント・ファン・ゴッホの絵画などの題名に用いられている『アルルの女(l'Arlésienne)』はこの女性単数形である。

 

このとおり、地名です。
で、これはもう完全な僕の主観なのですが、僕の中で、アルルと言えばゴッホなんですよね。一連の『ひまわり』作品を描いた場所でもあります。

ゴッホの絵は、彼の生前は評価されませんでした。
それでも絵を描き続けた彼は、30代半ばのあるとき、アルルという南仏の町に魅了され、パリからそこに移り住みます。当時の画家仲間に声を掛け、アルルに画家たちの共同体を作ろうとします。しかし、彼らは来てくれない。ただ一人、ゴーギャンを除いて。
しかも、そのゴーギャンともわずか2か月足らずで不仲に陥ります。
そのような中、ゴッホが自分の耳を自分で切り落とすという事件、俗に言う『耳切り事件』が発生。彼はアルル市立病院に収容されることになります。

絵は売れず、仲間たちは待てども来ず、唯一の賛同者とも仲を違え、いかなる理由からか、自傷行為の奇行に至った。そういう、ゴッホが落ちた内なる地獄と、「爪を研いで待つ不幸」、
そんなものが待っているとは知らず、新天地を夢見て街を飛び出した男、
その新天地、アルルに咲き誇っていたであろうひまわりの花、
この曲を聴いていると、そういうののイメージが重なります。*5
そしてもし仮に、街を飛び出した男に恋人がいたとして*6、彼女は、
"自分の恋人である男を不幸の待つ地へと誘ったアルルの花=ひまわり"
を、どう思って、一人の日々を過ごしたであろうな、と。

 

 

 

 



ふう。

以下蛇足です。


シリウスの心臓に関して。
 死別した恋人を想って歌う曲かもしれない旨上述しました。
 『死別』がテーマの曲って、僕の知る限り、J-Popにはあんまりないのですが、数少ない例外の1つがこちら↓。
 今回はこれもLuciaさんverで行きましょうか*7
 


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 こちらは、詠み手と相手の立場が逆。同じストーリーのアナザーサイド、表裏一体の物語と思って併せて聞くと、味わい深いかもしれない。*8
②アルルの花に関して。
 僕のアルルに関するイメージを固めたのは、↓の中に入ってる『『ひまわり』の黄色い囁き』という短編。
 

 

 短編ではあるが結構なボリュームがある。150ページ超。
 御倉瞬介シリーズは大好きなのだが、肝心の『システィーナ・スカル』をまだ読めていない…。

 

 

 

 

 

*1:「目を閉じるのは泣きたいから 風を読むのは少しでも近くに感じたいから」とか。

*2:織姫彦星みたいな星と星の恋…という線もなくはないのかもしれないが、「明かり『になった』あなた」って言ってますからね。もともと星として生まれた存在なら明かり「になった」とは言わんだろうし、僕としては同解釈には左袒し難い。

*3:あるいは「もうすぐ」だろうか。「少しでも早く」って言ってることを考えると。

*4:「明かりになったあなたへ 宇宙に届くまで待っていて」とか。

*5:繰り返しますが、完全に、僕の主観です。

*6:ゴッホにそういう恋人はいませんでしたので、これは歌詞世界のイメージの話です。念のため。

*7:映像が女性と女性なのは、原曲「が主題歌だった映画に」忠実ですね。僕はあの映画の原作改変には否定的立場ですが。

*8:『天体観測』と『君の知らない物語』みたいな。ああ、『君の知らない物語』。